「かわいい」は作れるか? 「一途ビッチ」な女の子キャラを描き続ける色のん先生に、かわいさの「本質」を聞いてみた

マンガノ色のん先生インタビューメインカット
©色のん/KADOKAWA

マンガを描くために、そして届けるために、あの先生はなにを考えているのだろう。

今回、創作活動の裏側を教えてくれたのは、『一途ビッチちゃん』(KADOKAWA)で単行本デビューを飾った、色のん先生@iro_irononです。一コマツイートするたび「尊い」の声が押し寄せる同作。そのストーリーは、大好きな先輩にだけグイグイ迫る後輩と、彼女を見守りつつもプラトニックな関係を貫く先輩の、ついヤキモキしてしまう展開が見所です。

そんな同作の「尊さ」をひときわブーストさせているのが、「一途ビッチ」な後輩の仕草や言動。大胆さといじらしさを兼ね備えた後輩は、読者の頰を気付かぬうちにゆるめてしまう破壊力の持ち主です。まさしく「かわいい女の子キャラ」を追求してきた色のん先生の集大成とも言えるキャラクターですが、そこには一体どのようなこだわりが詰め込まれているのでしょうか。

今回は、線の描き方からアイテム選びといった「後輩の作り方」を通して、「かわいいの本質」に迫ります。また、「やらしい」と「かわいい」の関係、「かわいい」を演出する表現技法など、さまざまなトピックに言及しながら、キャラクター作りに生かせるテクニックや心構えを伺いました。

「らしさ」こそが、かわいらしさ

――『一途ビッチちゃん』の「ピュアすぎて逆にやらしい」というキャッチコピーが印象的でした。「ピュアさ」と「やらしさ」という一見相反する概念は、先生の中でどのようにつながっているのでしょうか。

一途ビッチちゃんバナー
©色のん/KADOKAWA

色のん:そうですね……なぜ「ピュアすぎてやらしい」か……、それはきっと二人がピュアさゆえに過剰反応しちゃうからかなと思います!

持論なのですが、ピュアさには「恋愛ですべきことがよく分からないことによって生まれるピュアさ」と、「すべきことは分かっているけど、それができないことによって生まれるピュアさ」の2種類があるように思っていて、私にとって「やらしさ」を感じるのは後者なんです。

例えばキスシーンで言うと、キスが何を意味するか分からない二人がキスしていても、あんまりやらしくないと思うんです。でも「キスは愛し合っている人同士のすること」と思っている上でのキスは、それを意識しすぎてためらいが生じる……。そういう過剰反応で醸成される空気感が「やらしさ」につながるのでは!? と。先輩と後輩ちゃんは、二人ともキスがどういう行為か分かっているから、したい気持ちはお互いにあるのだけど、ためらってしまう。そういうところが「ピュアすぎてやらしい」……のかな(笑)?

「一途ビッチちゃん」カット
▲左:1巻8話「年末年始の話」・右:2巻10話「ガマンの話」より。©色のん/KADOKAWA

――なるほど。今回のテーマに紐づけるなら、そうした言語化は「かわいさ」を演出する際にも意識されているのでしょうか。

色のん:キャラクターの「らしさ」というか、個性こそが「かわいさ」につながると思っているので、後輩ちゃんらしさを出すためには細かな部分にもこだわっています。後輩ちゃんらしさは何かというと、私が思う「女の子ならではのかわいさ」……完全に自分の好みなんですけれど(笑)。だから例えば、うさぎの小物やぬいぐるみを背景に描いたり、内股気味のポーズにしたり、手を口元に当てるような仕草をさせたり……。

「一途ビッチちゃん」カット
▲左:1巻1話「誘惑の話」・右:1巻「プロローグ」より。©色のん/KADOKAWA

あと先ほどお話しした「意識しすぎるがゆえのやらしさ」も、まさに後輩ちゃんらしいかわいさかなと。

逆に「後輩ちゃんらしくない」と思うことはさせないように注意しています。一途ビッチ的な「やらしさ」も、後輩ちゃんらしさがないとかわいく見えないと思うので。

――今のお話だと、先生はキャラクター像を作る際、自分の中にあるかわいさの規範を落とし込むのではなく、あたかも実在する人物を描くように相手の人格を想像しながら描いていらっしゃるように思えます。

色のん:後輩ちゃんも先輩も、作者である私にとっては、いわば「他人」なんです。「このシーンなら二人はどんなことを考えるだろう」と、それぞれのキャラクターの気持ちを想像しながら描いています。私はあくまで、どこか現実とは別のところにある、二人が暮らす世界をのぞいて、その一部を切り取ってマンガにしている感覚で。

――読者が受ける印象についても聞かせてください。新作が公開されるたびに「尊い」というリアクションが寄せられているのはご存知かと思いますが、「かわいい」と「尊い」の違いについて、先生はどう言語化されているのでしょうか。

色のん:それは人によって解釈が分かれそうですが……! 私にとっての「尊い」は、「あまりにかわいくて、悶えました」というリアクションを含んだ感情ですね。

自分の中の「かわいい!」を信じる

――キャラ作り以外に、線描やデザインの面でかわいさを表現するために工夫されていることは?

色のん:そうですね、意識しているのは線の強弱でしょうか。例えば、脚のラインを描く時、外側はちょっと太く、内側は細く……みたいな。それから顔のバランスや、表情とポーズの一致。あとは膨らみや柔らかさを表現するための曲線など……。個人的な意見ですが、少ない線でうまく描ける方ってすごく絵が上手なんだろうな、と思っていて。でも私は線を多くしないとうまく描けないんです。アニメのように、均一な線でかわいい女の子を描くのは無理。だからこそ、線の多さを生かしたいんです。

色のん先生線画
▲色のん先生の線画。瞳の部分に至るまで細かい線で形作られている(色のん先生のTwitterより)。

――一方、自分のスキルとは別軸で、「頬を赤らめる」などかわいさの表現にもトレンドがあるように思います。先生はトレンドを意識されることはありますか?

色のん:うーん、あまり意識していないんです。以前「今どきの絵柄ですね」と言っていただいたことがありまして、うれしかったのですが、「今どき」の絵なのか自分では分からないのが正直なところで……。たまたま自分が好きなものを追究したらこういう絵になっていた、という感じなんです。

先ほどキャラ作りについて「キャラクターの人格を考えている」とお話ししましたが、ビジュアルのほうは、何より「自分がかわいいと思えるかどうか」を重視しています。と言っても「前はこの描き方でかわいく見えていたのに、最近はかわいく見えない」なんてこともよくあって、自分の中で基準が常に揺れ動いているのですが……。

――無理にルール化するよりも、自分の感覚を信じて、突き詰めるほうが大事だと。

色のん:そうですね! その過程は絶対に必要だと感じます。絵って愛情の塊だと思うので。

例えば、手の描写一つでも、描き方は無限ですよね。リアルに描く、細く描く、柔らかそうに描く……とか。

と言いつつ、手の描写はまだ極められていないです。手への愛が足りないかもしれない……。テクニックの話になるのですが、手がしっかり描けていると絵のクオリティが上がる、と思っているので、手を抜かないように気をつけています。手の仕草にも「その子らしさ」が出ますしね。

「一途ビッチちゃん」カット
▲左:3巻19話「文化祭の話」・右:3巻18話「したい話」より。©色のん/KADOKAWA

――今、絵のクオリティの話も出ました。少し本題からはそれますが、画力を上げるためにどんなことを意識されていますか?

色のん:とにかく完成まで丁寧さを失わず描き切ることでしょうか。経験上、たくさん描くよりも、一枚一枚の絵を満足のいくクオリティに仕上げるほうが、成長につながる気がします。

あとは、その絵のどこがポイントなのかを見極めて、そこがしっかり表されるようにすること。具体的に言うと、ラフから本画に起こす時、ディテールを加えたり、逆にラフで描いた線の中から本番の線を決めていったりする作業の中で、それをやります。

――完成形まで持っていくことの繰り返しでしか学べないものってありますよね。

色のん:毎回本番のつもりで描くことが大事だと思います。……まぁ、こう考えるのは私が練習嫌いだからかもしれないですけど(笑)。

彼女のスカートは長いのか、短いのか?

――かわいさを感じるアイテムについてお伺いさせてください。先生は制服がお好きなんだとか。

色のん:はい、そうです(笑)。

――なぜ制服にかわいさを感じるのですか?

色のん:着こなしでそのキャラ「らしさ」が出るからです。スカートは長いのか、短いのか。セーターを着るのか。セーターは学校指定のものか、自分で選んだものか。制服やセーターのサイズはぴったりか、ぶかぶかか。他にもリボンの種類や、ボタンの開け具合、靴下の長さでも変化をつけられます。

――なるほど。画一的に見える制服は、むしろ「個性的な」アイテムだと。

色のん:あと、個人的に好きなポイントは制服から見えるいろいろなライン。例えば、ワイシャツの袖をまくったところから伸びるここ(前腕部)や、セーターの袖口からのぞくぶかぶかのワイシャツ。ブレザーとセーターの間にできる隙間だとか。めちゃくちゃマニアックなところだと、セーターのたわんだラインから見えるブレザーの内側……って、言葉で伝えるのは難しいんですけれど、とにかく制服には好きなポイントが多いんです(笑)。そこはこだわっていますね。セーラー服も、ダボッとした上着とスカートの境目からチラっと見えるお腹とか、たまらないです!

「一途ビッチちゃん」カット
▲左:1巻5話「変態の話」・右:3巻20話「そわそわの話」より。©色のん/KADOKAWA

――スゴい愛ですね!

色のん:制服というアイテムを通じて、キャラクターの「らしさ」を描くのが楽しくて。もともと誰にも見せずに制服のイラストを落書きしていたくらいです。

あの名作にも「一途ビッチ」が登場していた

――制服のようなアイテムだけでなく、影響を受けた作品についてもお伺いしたいです。

色のん:ハッキリと「これに影響されました!」と言える作品はないのですが、一途ビッチっぽい女の子キャラは他の作品でも好きです。「一途ビッチっぽい」の定義が説明しづらいんですけど……。

――いわゆる「ツンデレ」とは違いますよね。あらためてお伺いしますが、先生の中で「一途ビッチ」とはどんなキャラクターなんですか?

色のん:ハーレムもののラブコメに出てくる、あざとかわいい後輩キャラですね。基本、メインヒロインには選ばれない感じの、あのポジションが好きで(笑)。『一途ビッチちゃん』の後輩ちゃんは、その定義だとずばり一途ビッチキャラではないんですけど……。私が思う典型的な「一途ビッチ」は、『To LOVEる -とらぶる- ダークネス』のモモです。

To LOVEる -とらぶる- ダークネス書影

――一発で理解しました。あの、行動は小悪魔的だけど、あくまで主人公一筋な。

色のん:そうですね。あと「一途ビッチ」とは関係ないのですが、ラブコメ作品だと、河下水希先生の描かれる女の子が好きです。ちなみに、一番好きな河下先生の作品は『あねどきっ』です。ラストのエピソードがエモいんですよ……。

あねどきっ書影

――『いちご100%』ではなく、そちらなんですね。なるほど。取材前、先生の作風は、どちらかというと少女マンガの影響が大きいのかと思っていましたが、今挙がったタイトルはどれも少年マンガですよね。

色のん:小さい頃から、少女マンガも少年マンガも青年マンガも食わず嫌いせず、なんでも読んでいたからでしょうか。

「かわいい」は恋愛の本筋ではないところに生まれる?

――くっつきそうでくっつかないというヤキモキする展開をへて、先輩と後輩が最新刊(3巻)で、ついに付き合うこととなりました。作中では、そこへ至るまでのやりとりが丁寧に描かれています。

色のん:正直に言えば、付き合うのはまだ先かなと思っていたんです。でも話が進むにつれて、「あ、これはもう付き合うな」と感じてきて。

――どのあたりで、そう感じたのでしょう。

色のん:2巻の13話、14話です。同級生ちゃんと先輩が、後輩のために誕生日プレゼントを買いに行ったことで、後輩と先輩がすれ違ってしまうシーン。あそこで二人が仲直りするまでの流れを描いた時に、先輩が告白する覚悟を決めちゃったなと思ったんです。

「一途ビッチちゃん」カット
左右ともに2巻14話「恋と涙の話」より。©色のん/KADOKAWA

――あらかじめ告白というゴールを設定していたわけではなかったのが意外でした。

色のん:『一途ビッチちゃん』では、恋愛そのものより、二人の成長を描きたいという気持ちが強いんです。成長の過程を描いたからこそ、付き合うまでの流れを描けたのかなと。

そもそも、後輩ちゃんをかわいく感じるのも、「先輩と一緒にいられれば付き合えなくてもいい」と思っちゃうような、恋愛の本筋ではないところから垣間見えるいじらしさがあるからじゃないかなと。繰り返しになりますが、その「いじらしさ」が「後輩ちゃんらしさ」でもあって。

――たしかに。

色のん:後輩ちゃんとは正反対の打算的な女の子も、かわいいと言えばかわいいんですけどね!

――「あざとかわいい」みたいな。

色のん:はい。それはそれで大好きです(笑)。こんな感じで「かわいいもの」や「かわいい」の基準はこの世に無限に存在すると思います。私にとって「かわいい」と思えなくても、誰かにとっては「かわいい」ですから、この世に「かわいくない」ものってないんじゃないかなと(笑)。

取材中カット

――そういうことでもありますね、だからこそ、身近な「かわいい」にアンテナを張って、感性を研ぎ澄ませておくのが大事なのかもしれません。

色のん:そうですね。最近猫を飼い始めて、あまりのかわいさに溺愛しているのですが、この子もいつかマンガに生かせるのかもしれません。大げさな言い方になりますが、「かわいいを作る」ためには結局、生きることそのものが大事なんじゃないかと思います(笑)。

──マンガノもそんな誰かの日常が生み出した「かわいさ」であふれる場所にしていきたいです。今日はありがとうございました!

取材・文:前田久

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