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即降板が当たり前「香川照之氏問題」なぜ判断に遅れ?

山田道子・元サンデー毎日編集長
香川照之さん
香川照之さん

 「しばらく頭を冷やしてこい」。愛と復讐(ふくしゅう)がテーマのドラマ「六本木クラス」(テレビ朝日)の9月1日放送の一場面。香川照之さん演じる悪役、巨大外食産業グループ会長が部下の女性に言い放った言葉だ。「それ、あんたでしょ」とテレビ画面に叫んだ。

 言うまでもなく香川さんは、性暴力報道をめぐる渦中の人。8月24日発売の週刊新潮がスクープした。それによると、香川さんは2019年、銀座のクラブでホステスの下着を脱がせ、胸を触るなどした。女性は心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患ったという。

 発売翌日の8月25日、所属事務所は「女性に不快の念を与えたのは事実」と認め、謝罪コメントを発表した。週刊誌の報道は今も続いている。

遅れたテレビ局の判断

 香川さんの問題は、性暴力に「甘い」日本の現状を改めて浮かび上がらせた。まずTBS。朝の情報番組「THE TIME,」の金曜日の司会は香川さんだ。「どんな顔してニュースを紹介するのか」と即降板を予測した。しかし、香川さんは8月26日、番組に現れ、「ご迷惑をおかけし誠に申し訳ありません」と謝罪し、続投の意欲をみせた。

 テレビ局は、この時点では「情報番組の司会にふさわしくないので切る」という判断を下さなかった。香川さんの人気や影響力を優先。性暴力被害にあった人への想像力は皆無だ。

 結局、降板は続報が出た9月1日。TBSは「視聴者に不信感や疑念を持たれてはならない」。初報時だって同じだ。

トヨタ自動車も

 香川さんをCMに起用したトヨタ自動車も同日、年内の契約満了をもって更新しないことを発表した。理由は「世間の皆様の反応を見ても全く理解されることではない」。自らはどのように受け止めたかを示さず、「世間の皆様」に押しつけた格好だ。

 「世間の皆様の反応」の中には、「ホステスはそういうもの」「風俗は、性的被害や嫌な思いをすることで高い給料がもらえる仕…

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元サンデー毎日編集長

1961年東京都生まれ。85年毎日新聞社入社。社会部、政治部、川崎支局長などを経て、2008年に総合週刊誌では日本で最も歴史のあるサンデー毎日の編集長に就任。総合週刊誌では初の女性編集長を3年半務めた。その後、夕刊編集部長、世論調査室長、紙面審査委員。19年9月退社。