大相撲名古屋場所が、愛知県で7月4(よっ)日から始まります。昨年3月の春場所以来、1年4か月ぶりの地方開催です。5月の夏場所で優勝した照ノ富士が幕内3連覇して横綱になれるのか、休場が続いた一人横綱の白鵬がどれだけ戦えるのかなど、話題が豊富です。大相撲のナゾにも答えます。【上鵜瀬浄】
力士の階級にはどんなものがあるの?
力士の名前は毎場所「番付」と呼ばれる名簿に載ります。21日に発表された大相撲名古屋場所の力士は、659人です。一番上から順に横綱、大関、関脇、小結、前頭、ここまでが幕内で、その下に十両、幕下、三段目、序二段、序ノ口と合計10の階級があります。
月給をもらえるのは十両から上で、番付が上がるごとにたくさんもらえるようになります。十両以上になると、身の回りの世話をしてくれる付け人がつきます。また、カラフルなまわしをつけたり、いろいろな絵がデザインされた化粧まわしをつけて土俵入りができたりします。頭にイチョウの葉の形をした「大いちょう」を結ったり、ファンにサインができたりと、テレビで見るお相撲さんのイメージは、十両以上の力士です。
照ノ富士ってどんな人?
横綱に次ぐ大関の照ノ富士(身長192センチメートル、体重177キログラム)は、モンゴル出身の29歳です。本名がガントルガ・ガンエルデネで、あだ名は「ガナ」です。モンゴルの学校に通っていたころは勉強が得意で、特に数学がよくできたそうです。中学を卒業してから、鳥取城北高校に留学しました。相撲部で鍛えられ、高校卒業後に相撲部屋に入門しました。
同じモンゴル出身の横綱・日馬富士のいた伊勢ケ浜部屋に移ってから、急に強くなりました。ただ、ひざのけがのため、大関から、番付が下から2番目の序二段まで落ちたこともありました。くじけずにけがと付き合い、昨年7月場所で、幕内で最も下の前頭17枚目で自身2回目の優勝を果たしました。今年3月の春場所でも優勝して大関に昇進し、5月の夏場所も連覇しました。
横綱ってどんな存在?
もともと相撲は、作物が豊かに実ったことなどを祝うお祭りでした。「神の使い」の代表が白い綱や御幣(ギザギザのさがり)を付け、土俵入りという特別な儀式をして盛り上げました。ここから、最も強く代表にふさわしい力士を、横綱と呼ぶようになりました。
江戸時代までの番付には横綱の地位はなく、いちばん上は大関でした。明治時代になると、横綱という地位ができました。戦後、年に複数回、本場所が実施されるようになってからは、大関で2場所続けて優勝か、次に成績のいい力士が横綱になれるようになりました。「神の使い」である横綱は番付を超えた存在なので、成績が悪くても番付は落ちません。ですが、勝てなければ引退するしかないという、厳しい地位なのです。
白鵬は長い間、横綱なんだね
一人横綱の白鵬は現在36歳。2007年夏場所後に横綱に上がり、14年務めています。それまで横綱が最も長かったのは北の湖の10年半です。白鵬は幕内優勝44回、通算勝利1172勝、幕内勝利1078勝などを記録しており、塗り替えられる力士は現れないかもしれません。最近はけがのため6場所連続で休場しています。横綱の昇進を話し合ったり、成績を評価したりする横綱審議委員会も、休みの多さに「注意」の決議をしました。日本相撲協会の責任者、八角理事長は元横綱・北勝海ですが、白鵬より8歳も若い28歳で横綱を辞めました。白鵬は年齢的にも横綱を続けることが厳しいです。19年秋には日本国籍を取得し、引退後は「銀座で相撲部屋を開く」という夢をかなえる条件は満たしました。ただ、いろいろな騒ぎで処分も受けており、話し合いがもたれる可能性もあります。
モンゴル出身の横綱、なぜ多い?
名古屋場所は、照ノ富士が優勝すれば、文句なしで横綱に昇進する「綱取り場所」です。2003年3月の朝青龍から白鵬、日馬富士、鶴竜と4人続けてモンゴル出身力士が横綱になりました。
日本より自然に恵まれた環境で育った彼らは、小さいころから体をよく動かしているので、高い運動能力を持っています。また、力士を目指して日本にやってくるには、モンゴル内で厳しい選考があるうえに、現在は一部屋に外国出身力士は1人しか入れないことから、簡単ではありません。
10代半ばで、言葉も通じない国に1人で来るのですから、相当な覚悟を持っているのです。何人でも入門できる日本の力士と、選ばれて入門するモンゴル人力士との力に、差が出てくるのも仕方がないことかもしれません。けがに負けずに頑張り、5人目のモンゴル出身横綱を目指す照ノ富士を、応援したいですね。
大相撲のあゆみ
◆1936(昭和11)年春場所
双葉山が7日目に勝ち、39年の春場所で安芸ノ海(後の横綱)に敗れるまで、3年間負けなし。前頭から横綱にかけ上がり、69連勝。連勝記録は、いまも破られていない
◆1968(昭和43)年秋場所
2日目から69年春場所で敗れるまで、横綱大鵬が戦後最長の45連勝を記録
◆1972(昭和47)年名古屋場所
ハワイ出身の高見山が外国出身者で初の優勝
◆1988(昭和63)年夏場所
横綱千代の富士が、7日目から昭和最後の九州場所千秋楽に敗れるまで53連勝。大鵬を上回り戦後最長記録に
◆1991(平成3)年夏場所
初日に貴花田(後の横綱貴乃花)に敗れた千代の富士が引退。ハワイ出身の曙と、若乃花、貴乃花兄弟の3横綱の対戦構図が「若・貴フィーバー」として相撲ブームに
◆1998(平成10)年夏場所
2場所連続優勝の若乃花が横綱昇進。貴乃花と史上初の兄弟横綱に
◆2003(平成15)年初場所
朝青龍が横綱昇進。朝青龍は2010年初場所後に引退するまで25回優勝
◆2007(平成19)年夏場所
大関で2場所連続優勝した白鵬が横綱昇進
◆2010(平成22)年初場所
14日目から、九州場所2日目に稀勢の里に敗れるまで、横綱白鵬が63連勝を記録。戦後最長記録を更新
◆2017(平成29)年初場所
稀勢の里が横綱昇進。若乃花以来19年ぶり日本出身横綱が誕生
◆2021(令和3)年春場所
関脇照ノ富士が優勝し、大関に復帰。序二段まで落ちた後の復活は初めて。夏場所も連覇し、4回目の優勝
※昇進・復帰は場所後
2000年以降に昇進した横綱 ( )は在位期間
第68代 朝青龍
(03年3月~10年1月)
第69代 白鵬
(07年7月~)
第70代 日馬富士
(12年11月~17年11月)
第71代 鶴竜
(14年5月~21年3月)
第72代 稀勢の里
(17年3月~19年1月)
※十両以上の力士のしこ名に付ける敬称の「関」は省略しました