戦後７５年　アジアや島々で何が？

　８月（がつ）１５日（にち）は終戦記念日（しゅうせんきねんび）です。日本（にっぽん）が世界（せかい）の国々（くにぐに）と戦（たたか）った太平洋戦争（たいへいようせんそう）が終（お）わってから、今年（ことし）で７５年（ねん）を迎（むか）えます。戦場（せんじょう）になったのは、アジアの国々（くにぐに）や太平洋（たいへいよう）の島々（しまじま）で、こうした地域（ちいき）の人（ひと）たちを巻（ま）き込（こ）み、多（おお）くの犠牲者（ぎせいしゃ）を出（だ）しました。当時（とうじ）のアジア・太平洋（たいへいよう）地域（ちいき）で何（なに）が起（お）こっていたのでしょうか。【下桐（しもぎり）実（み）雅子（かこ）】

どうして始（はじ）まったの？

　太平洋戦争（たいへいようせんそう）は１９４１年（ねん）１２月（がつ）８日（ようか）に始（はじ）まりました。

　３２年（ねん）、日本（にっぽん）は中国（ちゅうごく）東北部（とうほくぶ）に「満州国（まんしゅうこく）」をつくり、事実上（じじつじょう）の支配（しはい）を始（はじ）めました。日本軍（にほんぐん）（関東軍（かんとうぐん））は３７年（ねん）、今（いま）の首都（しゅと）・北京（ペキン）の郊外（こうがい）で、中国軍（ちゅうごくぐん）と衝突（しょうとつ）しました。これをきっかけに日本（にっぽん）は兵力（へいりょく）を増（ふ）やして中国（ちゅうごく）の都市（とし）を占領（せんりょう）していきます。アメリカやイギリスなどの援助（えんじょ）を受（う）けた中国（ちゅうごく）も抗戦（こうせん）を続（つづ）け、日中戦争（にっちゅうせんそう）は長期（ちょうき）化（か）しました。

　当時（とうじ）、アジアはアメリカやヨーロッパの国々（くにぐに）が植民地支配（しょくみんちしはい）していました。こうした中（なか）、日本軍（にほんぐん）は４０年（ねん）９月（がつ）、フランス領（りょう）インドシナ（今（いま）のベトナム）に進駐（しんちゅう）しました。こうした行為（こうい）はアメリカやヨーロッパとの対立（たいりつ）を深（ふか）めます。日本（にっぽん）はアメリカと話（はな）し合（あ）いますが、うまくいかず、アメリカは日本（にっぽん）への石油（せきゆ）の輸出禁止（ゆしゅつきんし）を決（き）めました。

　ヨーロッパでは、日本（にっぽん）と同盟（どうめい）を結（むす）んでいたドイツが周辺（しゅうへん）の国々（くにぐに）を侵攻（しんこう）し、こうした情勢（じょうせい）も日本（にっぽん）を刺激（しげき）しました。

　４１年（ねん）１１月（がつ）、日本（にっぽん）はアメリカに、中国（ちゅうごく）やインドシナからの撤退（てったい）などを求（もと）められました。これに対（たい）し、日本軍（にほんぐん）はハワイの真珠湾（しんじゅわん）や、イギリス領（りょう）マレー（今（いま）のマレーシア）を予告（よこく）なく攻撃（こうげき）し、太平洋戦争（たいへいようせんそう）が始（はじ）まりました。

大東亜共栄圏（だいとうあきょうえいけん）って？

　１９４０年（ねん）９月（がつ）のフランス領（りょう）インドシナへの進駐（しんちゅう）に先立（さきだ）ち、日本（にっぽん）が掲（かか）げたスローガンが「大東亜共栄圏（だいとうあきょうえいけん）」です。

　大（だい）東亜（とうあ）とはアジア地域（ちいき）を指（さ）します。太平洋戦争（たいへいようせんそう）が始（はじ）まる前（まえ）、東南（とうなん）アジアの国々（くにぐに）はヨーロッパやアメリカの植民地（しょくみんち）でした。日本（にっぽん）は、この植民地支配（しょくみんちしはい）からアジアを解放（かいほう）し共（とも）に繁栄（はんえい）する「大東亜共栄圏（だいとうあきょうえいけん）」の実現（じつげん）を打（う）ち出（だ）しました。

　しかし実際（じっさい）は、石油（せきゆ）や鉄鉱石（てっこうせき）、ゴムなどの資源（しげん）を得（え）ることなどが大（おお）きな目的（もくてき）でした。日本（にっぽん）は資源（しげん）に乏（とぼ）しく、戦争（せんそう）前（まえ）には石油（せきゆ）の７割（わり）をアメリカに頼（たよ）っていました。東南（とうなん）アジアの国々（くにぐに）は資源（しげん）が豊（ゆた）かでした。

　日本（にっぽん）は、占領（せんりょう）した地域（ちいき）で得（え）た資源（しげん）を日本（にっぽん）に運（はこ）んで兵器（へいき）や物資（ぶっし）に加工（かこう）しないと、戦争（せんそう）を続（つづ）けられませんでした。また、船（ふね）や飛行機（ひこうき）、車（くるま）をつくっても、石油（せきゆ）がなければ動（うご）きません。このため、占領（せんりょう）地（ち）では資源（しげん）の開発（かいはつ）や生産（せいさん）のために、現地（げんち）の住民（じゅうみん）が労働力（ろうどうりょく）として使（つか）われ、日本軍（にほんぐん）に食糧（しょくりょう）を提供（ていきょう）することを強（し）いられました。また、兵力（へいりょく）を補（おぎな）うため戦争（せんそう）に巻（ま）き込（こ）まれていきました。

日本（にっぽん）の占領（せんりょう）地（ち）があったの？

　戦争（せんそう）の開始（かいし）と同時（どうじ）に、日本軍（にほんぐん）はイギリス領（りょう）の香港（ホンコン）、アメリカ領（りょう）フィリピンなどを攻撃（こうげき）し、香港（ホンコン）、今（いま）のフィリピンの首都（しゅと）マニラ、シンガポールを占領（せんりょう）しました。

　また、１９４２年（ねん）３月（がつ）にはオランダ領（りょう）の東（ひがし）インド（今（いま）のインドネシア）の都市（とし）バタビア（今（いま）のジャカルタ）とイギリス領（りょう）ビルマ（今（いま）のミャンマー）の都市（とし）ラングーン（今（いま）のヤンゴン）を占領（せんりょう）するなど、開戦（かいせん）から半（はん）年（とし）あまりで、日本軍（にほんぐん）は広（ひろ）い地域（ちいき）を制圧（せいあつ）しました。この時期（じき）、アメリカやイギリスは、ヒトラー率（ひき）いるナチス・ドイツの打倒（だとう）を優先（ゆうせん）させていたためですが、日本（にっぽん）の国民（こくみん）も勝利（しょうり）に沸（わ）いたといいます。

　しかし４２年（ねん）６月（がつ）、日本（にっぽん）とハワイの間（あいだ）にあるミッドウェー島（とう）の占領（せんりょう）作戦（さくせん）では、アメリカ軍（ぐん）に暗号（あんごう）を読（よ）まれ、日本軍（にほんぐん）は主力（しゅりょく）の空母（くうぼ）４隻（せき）、飛行機（ひこうき）３２２機（き）、兵隊（へいたい）３５００人（にん）を失（うしな）う打撃（だげき）を受（う）けました。

　８月（がつ）の南太平洋（みなみたいへいよう）ガダルカナル島（とう）の戦（たたか）いでも、日本軍（にほんぐん）は半（はん）年（とし）間（かん）で３万（まん）６０００人（にん）の兵士（へいし）を送（おく）りましたが、物資（ぶっし）や食糧（しょくりょう）の補給（ほきゅう）が追（お）いつかず、２万（まん）５０００人（にん）が戦死（せんし）や病死（びょうし）、飢（う）えで亡（な）くなりました。４３年（ねん）２月（がつ）、日本軍（にほんぐん）は撤退（てったい）し、戦局（せんきょく）は厳（きび）しさを増（ま）していきました。

どのぐらいの人（ひと）が犠牲（ぎせい）になったの？

　１９４３年（ねん）５月（がつ）には、アリューシャン列島（れっとう）のアッツ島（とう）にアメリカ軍（ぐん）が上陸（じょうりく）し、日本軍（にほんぐん）が玉砕（ぎょくさい）（全滅（ぜんめつ））します。また、４４年（ねん）７月（がつ）、サイパン島（とう）でも日本軍（にほんぐん）が全滅（ぜんめつ）し、移住（いじゅう）していた多（おお）くの日本人（にっぽんじん）も崖（がけ）から身（み）を投（な）げるなどして亡（な）くなりました。

　この後（あと）、アメリカ軍（ぐん）の爆撃機（ばくげきき）Ｂ２９がサイパン島（とう）から飛（と）び立（た）つようになり、日本（にっぽん）の本土（ほんど）に爆弾（ばくだん）を落（お）とす空襲（くうしゅう）が本格（ほんかく）化（か）しました。４５年（ねん）の東京大空襲（とうきょうだいくうしゅう）では死者（ししゃ）１０万人（まんにん）とされます。戦場（せんじょう）となった沖縄（おきなわ）では県民（けんみん）の４人（にん）に１人（ひとり）が犠牲（ぎせい）になりました。終戦（しゅうせん）直前（ちょくぜん）の長崎（ながさき）や広島（ひろしま）へのアメリカ軍（ぐん）による原子爆弾（げんしばくだん）の投下（とうか）でも、４５年（ねん）末（まつ）までに２１万人（まんにん）が亡（な）くなっています。

　日本政府（にっぽんせいふ）は、日本（にっぽん）の軍人（ぐんじん）と軍属（ぐんぞく）２３０万（まん）人（にん）、市民（しみん）８０万人（まんにん）の計（けい）３１０万人（まんにん）が亡（な）くなったとしています。また、戦地（せんち）となった国々（くにぐに）では、それぞれの政府（せいふ）の発表（はっぴょう）で、中国（ちゅうごく）では１０００万（まん）人（にん）以上（いじょう）が亡（な）くなり、インドネシア４００万（まん）人（にん）、フィリピン１００万人（まんにん）とされています。太平洋戦争（たいへいようせんそう）は、日本（にっぽん）だけでなく、戦場（せんじょう）となったアジア、太平洋（たいへいよう）の島々（しまじま）に大（おお）きな被害（ひがい）を与（あた）えました。

日本政府（にっぽんせいふ）はどう思（おも）っているの？

　戦後（せんご）５０年（ねん）の節目（ふしめ）となった１９９５年（ねん）の終戦記念日（しゅうせんきねんび）、当時（とうじ）総理大臣（そうりだいじん）だった村山富市（むらやまとみいち）さんは、日本（にっぽん）が「植民地支配（しょくみんちしはい）と侵略（しんりゃく）」によって「アジア諸国（しょこく）の人々（ひとびと）に対（たい）して多大（ただい）の損害（そんがい）と苦痛（くつう）を与（あた）えた」とはっきり認（みと）めました。そして「痛切（つうせつ）な反省（はんせい）」と「心（こころ）からのお詫（わ）びの気持（きも）ちを表明（ひょうめい）する」と謝（あやま）りました。この談話（だんわ）は、政府（せいふ）の閣議（かくぎ）という会議（かいぎ）で決（き）めて、公式（こうしき）な見解（けんかい）として重（おも）みがあります。

　その後（ご）の総理大臣（そうりだいじん）の小泉純一郎（こいずみじゅんいちろう）さんも戦後（せんご）６０年（ねん）の２００５年（ねん）、村山（むらやま）さんの談話（だんわ）にほぼ沿（そ）った内容（ないよう）の談話（だんわ）を発表（はっぴょう）しました。安倍晋三（あべしんぞう）総理大臣（そうりだいじん）は過去（かこ）に、村山（むらやま）さんの談話（だんわ）の見直（みなお）しを主張（しゅちょう）していました。このため、１５年（ねん）の戦後（せんご）７０年（ねん）の新（あたら）しい談話（だんわ）に注目（ちゅうもく）が集（あつ）まりました。

　安倍総理（あべそうり）大臣（だいじん）は「反省（はんせい）」や「お詫（わ）び」については、過去（かこ）の談話（だんわ）を引用（いんよう）する形（かたち）でふれて、「こうした歴代（れきだい）内閣（ないかく）の立場（たちば）は、今後（こんご）も、揺（ゆ）るぎないもの」と、これまでの政権（せいけん）の姿勢（しせい）を維持（いじ）すると説明（せつめい）しました。

　談話（だんわ）には「侵略（しんりゃく）」という言葉（ことば）も盛（も）り込（こ）みましたが、村山（むらやま）さんの談話（だんわ）に比（くら）べると、主語（しゅご）がはっきりせず、あいまいさも残（のこ）しました。＜え・内山大助＞

主（おも）な参考文献（さんこうぶんけん）

「アジア・太平洋戦争（たいへいようせんそう）」（吉田裕（よしだゆたか））▽「日本（にほん）軍政（ぐんせい）下（か）のアジア」（小林英夫（こばやしひでお））▽「キーワード　日本（にほん）の戦争犯罪（せんそうはんざい）」（小田部雄次（おたべゆうじ）ほか）▽「日本（にほん）の戦争（せんそう）　図解（ずかい）とデータ」（桑田（くわた）悦（えつ）ほか）など