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人工島に感じる既視感 沖縄の開発を考える/下

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沖縄市のパンフレットに描かれた人工島の完成イメージ図。各施設の配置や形状は変わる可能性がある=沖縄市で2023年2月20日午後4時8分、比嘉洋撮影
沖縄市のパンフレットに描かれた人工島の完成イメージ図。各施設の配置や形状は変わる可能性がある=沖縄市で2023年2月20日午後4時8分、比嘉洋撮影

 沖縄県の面積は広がり続けています。あちこちの海辺で埋め立て工事が進み、2022年までの30年で東京都中野区より広い約17平方キロが陸地になりました。前回(2月5日配信)に続いて、沖縄のリゾート開発のあり方について考えました(2回シリーズの2回目です。1回目はこちらから見られます)。【那覇支局・比嘉洋】

 沖縄本島中部の沖縄市。29年度の完成を目指す泡瀬(あわせ)地区沖合で埋め立て工事が進む人工島(約95ヘクタール)には、人工ビーチや大型ホテル、マリーナなどのリゾート施設に加え、スポーツ施設も整備される。詳細が決まるのはこれからだが、国、県とともにプロジェクトを進める市のパンフレットには、サッカーやテニス、ソフトボールを楽しむ人々の姿が描かれている。ただ、地図を広げると、人工島の対岸に陸上競技場やサッカー場、テニスコートなどを備える「沖縄県総合運動公園」(約70ヘクタール)がある。市内には他にも野球場や陸上競技場、体育館などを備え、プロ野球・広島カープがキャンプする「コザ運動公園」(約22ヘクタール)があり、人工島とは5キロほどしか離れていない。

 海を埋め立ててまで、スポーツ施設を造る必要はあるのか。市の担当者は「地域住民と意見交換すると、スポーツ施設を望む声が多かった。市内にはスポーツチームがいっぱいあり、週末となると既存の施設だけでは予約を取るのが大変なようだ」とのことだった。

 開発は南西諸島最大級の泡瀬干潟を抱える海辺の環境に大きな負荷を与える恐れがあり、多額の事業費もかかる。過去には反対する市民も多かった。01年には埋め立ての賛否を問う住民投票の実施を求める約9400人の署名が集まった。有権者数の約1割(当時)に当たり、住民投票の条例制定請求に必要な「50分の1」の法定数(約1800人)を大きく上回った。しかし、開発推進派が多数を占める市議会で条例案は否決され、住民投票は実施されず、反対運動は急速にしぼんだ。

 当時を知る県議は「推進派は自信がなかったのだろう。自信があるなら住民投票で勝って、堂々と埋め立てればいい。そういう意味では本当に市民が心から求めた開発だったのか今でも疑問だ」とため息をつく。そのうえで「住民投票が実施されなかったことで、多くの市民は開発の問題に無関心になった」と語った。

 事業費は建設資材の高騰や環境対策などで膨れ上がっている。計画の基本構想ができた1987年当時は約240ヘクタールを埋め立てる予定で、総工費は約654億円だった。現行計画では、…

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