特集

米中間選挙2022

米大統領選の中間の年に連邦議会の上下両院、州知事などの選挙が一斉に実施される中間選挙が11月8日に投開票されます。

特集一覧

中絶は「権利」か「禁止」か 揺れるケンタッキー州 米中間選挙

  • ブックマーク
  • 保存
  • メール
  • 印刷
中絶に関する州憲法改正案への反対を訴える中絶擁護派の市民ら=米南部ケンタッキー州フランクフォートで2022年10月1日、秋山信一撮影
中絶に関する州憲法改正案への反対を訴える中絶擁護派の市民ら=米南部ケンタッキー州フランクフォートで2022年10月1日、秋山信一撮影

 11月8日の米中間選挙では、人工妊娠中絶の是非が主要な争点になっている。連邦最高裁は今年6月24日、女性が中絶を選ぶ権利を認めた憲法判断「ロー対ウェイド判決」を49年ぶりに覆し、中絶規制を各州に委ねた。南部ケンタッキー州では判決直後に「中絶禁止法」が施行され、中間選挙にあわせて「中絶の権利は保障されない」と明文化する州憲法改正案の是非を問う住民投票が実施される。中絶擁護派と反対派の動きを追った。【ケンタッキー州ルイビル、フランクフォートで秋山信一】

 ケンタッキー州の最大都市ルイビル。6月24日朝、ジャッキー・マクグラナハンさん(44)は勤務先の人権団体「米自由人権協会」(ACLU)の支部に車で向かっていた。「判決が出た。最悪の結果よ」。ハンズフリーで通話していた友人の言葉を聞き、車を止めた。

 5月にほぼ同内容の判決原案がメディアで報じられていたため、想定内の出来事だった。それでも、「みぞおちにパンチをもらったようなショック」を受けた。職場に着くと、中絶擁護運動に取り組む仲間の女性の部屋に駆け込んだ。立ち上がった女性と目が合った瞬間、どちらからともなく涙がこぼれた。

 ケンタッキー州では2019年、中絶反対派の支援を受ける共和党が主導し、最高裁の憲法判断が覆った瞬間に発効する「中絶禁止法」が成立していた。判決の直後、州内に2カ所あった中絶診療所は即時閉鎖。当日診療所にいた14人の患者の診察や199人分の診察予約が取り消された。

 中絶を望む女性は他州に行く必要があるが、周辺の州でも次々と規制が強まった。最高裁判決後に中絶が原則禁止になった州はケンタッキーを含め少なくとも13州に上る。「仕事を休む余裕がない貧困層は、車で数時間かけて他州の診療所に行くのも難しい。出産のために学業や仕事を断念せざるを得ず、貧困から抜け出す道が険しくなる」。現況を嘆くマクグラナハンさんの言葉の先には、23年前の自分がいた。

 1999年、21歳の誕生日を前に妊娠した。映画館で働きながら、大学で政治学を学び、2歳の息子と乳児の娘を育てていた。2歳上の恋人も、仕事と学業を両立。2人の最低賃金レベルの給料は、家賃や学費、生活費に消え、「水面にかろうじて漂うような貧困生活」だった。避妊に努めていたが身ごもった。「出産のために仕事を減らせば、家族全員が溺れてしまう」と考え、中絶を選んだ。

 親や友人には黙っていた。73年の連邦最高裁判決で中絶は合法化されていたが、生まれ育ったケンタッキー州東部は保守的で、「中絶は家族の恥であり、あざけりの対象になる」と恐れたからだ。親戚の女性が後に同じように中絶を選び、誰にも相談できずに苦しんだことを知った。「中絶したことは後悔していない。だけど、誰にも経験を語らず、愛する人を支えられなかったことを後悔した」

 薬物・アルコール依存症を治療する仕事をしながら、ACLUで中絶擁護の運動に加わった。19年からは州議会議員らに中絶擁護や出産支援の拡充を働きかけるポストに就いた。

 州では近年、…

この記事は有料記事です。

残り2428文字(全文3688文字)

あわせて読みたい

この記事の特集・連載

この記事の筆者

アクセスランキング

現在
昨日
SNS

スポニチのアクセスランキング

現在
昨日
1カ月