たった一度、亡き夫の言葉に支えられ イルカさん、歌い続けて50年
毎日新聞
2022/6/25 18:30(最終更新 6/25 18:38)
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心電図の音が心停止を告げた後、夫からのメッセージをしっかりと受け止めた。夫が、目を強くつむることを3度繰り返した。目の周りがくぼむほど、ぎゅっと――。
「夫は言葉を発することはできませんでしたから、何とか最後の力を振り絞って私と息子の冬馬(とうま)に『2人の話は聞いていたよ』、そして『さようなら』を伝えてくれたと思います」。シンガー・ソングライターのイルカさん(71)は別れの瞬間をそう振り返る。
夫の神部(かんべ)和夫さんは2007年3月21日、北海道旭川市のリハビリテーション病院で天国に旅立った。59歳だった。家庭を築いたパートナーであると同時に、イルカさんの音楽活動を支えてきたプロデューサーでもあった。フォークソンググループ「シュリークス」のリーダーとして活躍し、音楽をこよなく愛した。だが、仕事が順調だった30代後半に病に倒れ、20年もの長きにわたり、闘病生活を送っていた。
この日の午前中、病院を訪れたイルカさんと冬馬さんは、医師から「状況は難しいかもしれない」と告げられていた。病室でイルカさんは苦しそうな表情を浮かべる神部さんの顔を手でなでながら話し掛けていた。「お父さん、頑張っているよね。たいしたもんだよ。すごいよね」。神部さんの耳にはイヤホン。ミュージシャンとして独り立ちしようともがいていた冬馬さんの歌を聴いていた。
人生の最後の瞬間まで自分と息子にメッセージを送ってくれた夫に、今も感謝している。「体が自由ならば冬馬のプロデュースもしたかったでしょう。…
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