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10年前、5人が死亡する交通事故で一命を取り留めた女性は、「帰りてえ」と病室で繰り返した。だが、その思いはかなわなかった。衰弱し、3年ほどたって息を引き取ったからだ。86歳だった。長男にあたる男性が、無念の思いを振り返った。母親の言葉にも似た、望郷の念を抱きながら――。
この女性は大沢ヨシエさん。長男のアパート管理業、義伸さん(68)=福島県三春町=によると、2012年6月9日、県内の二本松市でワゴン車と大型トレーラーの正面衝突事故に遭った。ワゴン車は大破し、乗っていた6人のうち、ヨシエさんの妹(当時81歳)ら5人が死亡。助手席に座っていたヨシエさんは、首などを骨折したものの一命を取り留めた。ワゴン車は病院の送迎車で、ヨシエさんらは80キロ先の病院で診察を終えて戻るところだった。
ヨシエさんは福島市の病院に入院し、5日ほどたって意識が戻ったものの、半身不随に。1人では寝返りも打てなかった。徐々に食事が喉を通らなくなった。「野行(のゆき)に帰りてえ」。弱々しい声は病室に何度も響いた。その瞬間を思い出すのか、「怖い怖い、曲がれ曲がれ」とパニックになることもあった。
仕事が忙しい義伸さんに代わり、連日見舞いに行った妻のさゆりさん(67)は、ヨシエさんの様子を日記につづった。
「おしゃべりが大好きな母だったが、元気がなく、自分からは話してこなくなった」(14年7月22日)
「顔の表情も出なくなってきた」(14年11月4日)
「母の寝顔を見ていると、原発さえなければまだまだ元気で畑を楽しんでいたと思う」(15年2月25日)
交通事故から3年2カ月ほどたった15年8月26日、…
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