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4月 温又柔の「祝宴」 言語間を越境する傑作=田中和生

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温又柔氏
温又柔氏

 現在の世界が、全体主義的な情報統制が行われていて現実そのものが見えにくい状態だと考えるか、以前とそれほど変わらない状態だと考えるかでリアリズムの受け取り方は大きく異なる。仮にそれほど変わらない状態だとすれば、ほとんど古典的な完成度をもっていると感じられるのは、温又柔(おんゆうじゅう)の長篇(ちょうへん)「祝宴」(『新潮』)である。

 作中で「オジイチャンは台湾人なのに日本語が読めるんだね」と日本育ちの孫娘に言われ、祖父が「ああオジイチャンは昔日本人だったからね」と答える場面が出てくるが、凄(すご)い台詞(せりふ)である。作者が中心に描くのは、中華人民共和国成立後に中国本土から台湾に移住した両親をもつ台湾人で、それ以前の日本統治時代から台湾に住む両親をもつ女性「玉伶(イーリン)」と結婚し、仕事のために日本に移住した男性「楊明虎…

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