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<国連>表現の自由担当、訪日調査 放送法と秘密法、専門家批判

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日本の報道の自由などについて記者会見して話す国連人権理事会任命のデビッド・ケイ特別報告者=東京都千代田区の日本外国特派員協会で2016年4月19日午前11時40分、中村藍撮影 拡大
日本の報道の自由などについて記者会見して話す国連人権理事会任命のデビッド・ケイ特別報告者=東京都千代田区の日本外国特派員協会で2016年4月19日午前11時40分、中村藍撮影

 国連人権理事会に任命され、表現の自由を担当する専門家「特別報告者」が訪日調査を終えた。調査を踏まえ、放送事業者に「政治的公平」を求めた放送法4条がメディア規制の口実になっているとして廃止を求め、特定秘密保護法が記者や情報源を萎縮させる恐れがあるとして改正を迫るなど、改善点を具体的に指摘した。特別報告者は来年、正式な報告書を人権理事会に提出し、日本に問題点を勧告する。【青島顕】

 ●メディアの独立に力点

 特別報告者として日本の「表現の自由」の現状を調査するため来日したデビッド・ケイ米カリフォルニア大アーバイン校教授(国際人権法)は12〜19日、政府高官やジャーナリスト、学者ら数十人と面談しA4判8ページの暫定報告書(英文)をまとめた。特に放送を中心とする「メディアの独立」に2ページ以上を費やした。

 高市早苗総務相が放送法4条の「政治的公平」の解釈を巡り放送局に電波停止を命じる可能性に言及した問題を取り上げ、「何が公平であるか、いかなる政府も判断すべきではない。メディア規制の脅しと受け止められている」と批判して「4条廃止」を提言した。

 暫定報告書について、鈴木秀美・慶応大教授(憲法)は「放送免許を握る総務省が、4条を事業者の守るべき倫理規定だと解するなら4条はそのままでよいが、政府が圧力の口実に使うような状態が続くなら、廃止した方がいいと思っている」と感想を述べた。

 ケイ氏は匿名で調査に応じたジャーナリストらの話をもとに「(彼らは)政府の強い圧力を感じていた」と暫定報告書に記している。民放の報道番組関係者は「圧力うんぬんは従来言われているが、自分たちに政府の直接のコントロールが及ぶことはない。自分の周囲では自主規制をしないようにするだけだ」と毎日新聞の取材に答えた。

 ●訪日調査のきっかけ

 ケイ氏は大学教員をしながら無報酬で特別報告者を務めており、調査訪問国は限られる。今年は3カ国の予定で、他の2国は厳しい報道規制で知られるタジキスタンとトルコ。なぜ日本も対象になったのか。

 きっかけは2013年に成立した特定秘密保護法のようだ。

 前任の特別報告者(表現の自由担当)のフランク・ラ・ルー氏(グアテマラ)は同年秋、国会審議中だった同法案について「内部告発者や秘密を報じる記者を脅かす内容を含む」と表明した。14年に特別報告者を引き継いだケイ氏も懸念を示し日本在住の研究者らと連絡を取ってきた。昨年12月の予定だった訪日は日本政府の要請で延期になったが、今回実現した。

 ケイ氏は今回の調査で秘密保護法を所管する内閣官房の担当者と面談した上で「残念ながら政府関係者の回答で、我々の懸念は払拭(ふっしょく)されなかった」と暫定報告書に記した。そして「記者に対する萎縮効果を生じさせうる部分は全て削除するよう法改正すべきだ」と踏み込んだ。秘密保護法は22条に「報道・取材の自由への配慮」を明記しているが、ケイ氏は調査に応じた人の話を引用して「ないよりはましという程度だ」と皮肉った。

 ケイ氏は12日、調査開始に当たって「日本は民主的で自由な国だが、ジャーナリストが取材で圧力を感じることがあると理解している」と話した。19日の記者会見では「(その)懸念は強くなった」と語った。

 ●外相「説明反映されず」

 ケイ氏が離日した翌日の20日の衆院外務委員会で岸田文雄外相は「丁寧に説明したが、十分に反映されておらず遺憾。報告書が事実に基づくものになるよう申し入れたい」と述べた。川村泰久外務報道官も同日の記者会見で「報道機関や報道関係者に日本政府が圧力をかけたような事実は一切ない」と述べた。

 ケイ氏は19日の記者会見で「高市総務相に面会を求めたが、国会会期中との理由で会えなかった」と述べた。これに対し総務省は「提示された面談日には国会審議があった」と説明する。代わりに13、14日に松下新平副総務相、今林顕一情報流通行政局長らが面談したという。

 特定秘密の運用をチェックする衆院情報監視審査会委員の岩屋毅氏(自民)は、ケイ氏と額賀福志郎会長(同)の面談日程が合わなかったと明かし「(暫定報告書は)残念に思う。しかるべき部署の人が会って、しっかり説明すればよかった」と語った。

 来年提出される日本への勧告を記した報告書に拘束力はないが、日本政府がどのように受け止めるかが問われる。


特別報告者の暫定報告書(要旨)

 <序論>

 日本は、報道の自由を保障した憲法に誇りを持っているにもかかわらず、報道の独立は深刻な脅威に直面している。

 <メディアの独立>

 放送法3条は、放送メディアの独立を強調している。だが、私の会った多くのジャーナリストは政府からの強い圧力を感じていた。

 放送法4条は「政治的公平」といった原則を定めているが、いかなる政府も何が公平であるかを決定する立場にあるべきではないと私は確信している。ところが政府は対照的な態度を取っている。総務相が2月、4条違反と判断すれば、電波停止する可能性に言及した。メディア規制の脅しだと受け止められている。自民党は2014年11月、アベノミクスを取り上げたテレビ朝日「報道ステーション」を批判し、(衆院)選挙中の公平中立な報道を求める文書を放送局に送った。

 政府は放送法4条を廃止しメディア規制から手を引くよう勧告する。

 独立したメディア横断型のジャーナリストの職能組織があれば政府の影響力に対抗できるが、そうなっていない。いわゆる「記者クラブ」はフリー記者らに対し排他的で情報アクセスを妨げている。

 <歴史教育と報道の妨害>

 中学校の歴史教科書から慰安婦の記述が削除されつつあると聞いた。第二次大戦中の犯罪をどう扱うかに政府が干渉するのは、国民の知る権利を侵害する。

 <特定秘密保護法>

 特定秘密保護法により、必要以上に情報が隠され、市民の関心の高い原発、安全保障、防災の分野で知る権利が危機にさらされている。

 指定される秘密の定義があいまいで範囲が広がる余地がある。報道機関や情報源が罰せられる危険がある。秘密保護法を改正し、記者に萎縮効果を生じさせる部分を全て削除すべきだ。内部告発者を保護する仕組みも弱い。情報の開示が公益となり安全保障を脅かさないとの信念で秘密を漏らした人を処罰しない例外条項を法に追記すべきだ。法の適用を監視するため、専門家が加わった独立機関の設置を政府に勧告する。

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