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クリエイティブ温故知新

CMという独自の映像文化があることを、若い人たちにもっと知ってほしい

杉山恒太郎

いつの時代にも、人の心を捉え、動かしてきたさまざまなクリエイティブがある。そのアイデアや考え方が、日本のクリエイティブをどのように変えてきたのか。そこから私たちは何を学ぶことができるのか。第3回目は、杉山恒太郎さんに聞きました。

杉山恒太郎(すぎやま・こうたろう)
電通入社後、クリエーティブ局でクリエイティブディレクターとして活躍。1999年よりデジタル領域のリーダーとしてインタラクティブ・コミュニケーションの確立に貢献。トラディショナル広告とインタラクティブ広告の両方を熟知した数少ないエグゼクティブ・クリエーティブディレクター。2012年4月ライトパブリシティへ移籍。2015年4月より代表取締役社長。主な作品に小学館「ピッカピカの一年生」キャンペーン、セブンイレブン「セブンイレブンいい気分」、サントリー「サントリーローヤル(ランボー、ガウディ、ファーブル、マーラー編)」シリーズ、トヨタ「交通安全キャンペーン(ラジコンカー編)」、丸井「天使が降る夜に会いましょう」、日立「インターフェイス」シリーズなど。12月初旬に『僕と広告 杉山恒太郎』(グーテンベルクオーケストラ)を刊行。

本格的なビデオ撮影で生まれた「ピッカピカの1年生」

──杉山さんがCMの制作に携わった当初、どんなお仕事をなさっていたんですか。

僕が最初に配属されたのは、ラジオCMを手がける部署。かつて倉本聰さんをはじめとする名だたる脚本家たちがラジオドラマを手がけており、子どもの頃からそれを聴いて育ちました。だからドラマに負けないような、いいCMをつくりたいという気持ちが強くありました。

ラジオCMは言葉と音だけで、目には見えない世界を描いていく仕事。それが楽しくて楽しくて…。わずか20秒のCMなのに朝までつくりこんだり、時には声優ではない人をキャスティングしたり、音の細かいニュアンスを最後まで調整したり。これまでとは違うことをやるから、周りのスタッフは大変だったと思いますが、あまりにも僕が一生懸命だったからなのか、みなさんよく付き合ってくれました。そこで培ったことが、僕の中ではのちのテレビCMの基礎になっていきました。

当時、小学館提供でかまやつひろしさんのラジオ番組がありました。その番組の中で、かまやつさんに雑誌『GORO』の広告を即興で弾き語りしてもらったんです(「かまやつGOROを唄う」篇)。それが高く評価され、小学館から信頼を得ることができて、次に依頼されたのが「ピッカピカの一年生」でした。実はこれ、日本で初めて本格的にビデオを使って撮影したCMなんです。従来のCMはフィルムを使って撮影していたので現像が上がるまでは、どんなものに仕上がるのか、経験がある人でないと読めないところがありました。

当時、ビデオはアメリカの最新の映像技術として紹介されていましたが、日本ではフィルムに対する絶対的な信頼感があったので、制作の現場にいた人たちはビデオに対する嫌悪感があったんですね。フィルムに比べると、ギラギラとして生々しすぎるし、自分たちの表現のアート性を壊すものだと思われていた。でも、僕にはそのギラギラとした生々しさが新鮮だったし、むしろカッコよく見えたんです。

それから意識のどこかに、これを使って僕がつくれば、先輩たちとは違う何かがつくれるはず、これまでとは違うCMをつくりたいという気持ちもあったと思います。それで「ピッカピカの一年生」の企画で、ビデオを使うことにしました。

──このときはカメラの横にモニターを置いて、撮影されたそうですね。

いまでは当たり前のようにカメラの横にあるビジコンですが、その撮影スタイルを取ったのは、このCMが初めてではないかと思います。当時、撮影を担当したのは、フィルムのカメラマンではなく、ニュース映像を撮っていた人。カメラの横にモニターをおいて撮影したことで、子どもたちも自分がどんな風に撮影されたのか、すぐに映像を見ることができました。だから、子どもたちも怖がることなく、自然に撮ることができたんですよ。

──CMに登場するのは、いわゆる「お行儀のいい子ども」ではなく、素の表情を見せる子どもたち。それが撮影できたのはビデオだったことも大きいのですね。

学習雑誌のCMでしたが、世の中にいる子どもって、お行儀いい子ばかりではない。見た目は素朴かもしれないけれど、突発的な動きをしたり、突然友だちを叩いてしまったり、方言丸出しだったり、むしろ過激で、パンクな一面がある …

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