【意外を楽しむ展覧会 1】モンドリアンの具象絵画時代。

イヴ・サンローランの1965年秋冬コレクションでワンピースとなって登場したピエト・モンドリアン（1872年〜1944年）の『赤・青・黄のコンポジション』。女性たちの脳裏にしっかり焼き付けられた作品であり、また画家の代表作でもある。モンドリアンの名前には誰もが抽象画を思い、誰もがこの幾何学的コンポジションを思う。それゆえに、9月に16区のマルモッタン・モネ美術館で始まった『Mondrian Figuratif（モンドリアン 具象画）』展は、まさにタイトルが示すように“モンドリアンが具象も描いていたとは!!”という驚きが詰まったユニークな展覧会なのだ。

会場の最後に展示されている『黄・赤・青・黒のコンポジション』（1921年）はフランス初公開の作品だ。スライパーが所蔵した3点のコンポジションのうちの1点。

マルモッタン・モネ美術館がひとりのコレクターの所蔵品からスタートしたという起源に則り、ここで開催される企画展では常にコレクターの存在にも注目をさせる。この展覧会はモンドリアンの具象画、そしてコレクターだったサロモン・スライパー（1884年〜1971年）の情熱を発見するものだ。展覧会の最初のスペースでモンドリアンの1891年の具象画、1914年の抽象画の間にスライパーの胸像が置かれているのもそれゆえである。アムステルダムのダイヤモンド商の息子サロモン・スライパーはモンドリアンのパリ滞在の費用を支払うなど金銭的援助を惜しまず、主に1915年から1920年にかけて画家の作品を購入し続けた。1930年、抽象画の追求は中断して“昔のような”作品を描くようにというスライパーの依頼をモンドリアンが拒んだことで、ふたりの友好的関係に終止符が打たれることに。もっとも、生前彼はコレクションを手放すことはなかった。

展覧会の導入部。右がモンドリアンが19歳の時に描いた『撃たれたウサギ』（1891年）で、スライパーの最初の購入作品である。中央はスライパーの胸像、左が『コンボジションNo.IV』（1914年）。

モンドリアンの名前から想像できない具象画が会場に並ぶ。

どちらも1908年の作品。具象画時代も、後の幾何学抽象画で見かける赤、青、黄の三原色を使っていた。

---fadeinpager---

展覧会では作品は時代順に展示され、 印象派の影響、キュービスムの影響が見られる作品も。教会、風車、鐘楼……具象も抽象も彼が描く主題が同じで、色についても具象画の中に抽象画で特徴的な三原色を彼は好んで使用し、明らかな線ではないにしても具象の中に垂直、水平のラインを感じることができるというのが興味深い。さまざまな時代の自画像も展示されていて、それだけを追ってみるのもおもしろいだろう。なおピアニストや声楽家の音階練習のように、彼は毎朝花を描いていたそうだ。

1917年に描いた風車。右は風の吹く宵、右から3番目は日中。

右は『自画像』（1912年）、隣は『女性のポートレート』（1912年）。1911年からのパリ暮らしで、キュービスムの影響を受けた。

オランダ語のKubists（キュービスト）とフランスで有名な固形ブイヨンKUBの掛詞を秘めた、1914年の楕円のコンボジション。スライパーはモンドリアンの作品が美術館入りするのを希望し、美術館に寄贈の提案をするのだが、当時この手の作品に美術館は興味を示さず。やっとアムステルダム市立美術館が長期貸与という形で受け入れたというエピソードがある。

菊の花。左の2点は1916年の水彩画、右は1917年の木炭画。