吉田幸助

2017年5月1日更新

 

吉田幸助インタビュー

(聞き手/楽文楽編集長 渡辺幸裕)

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第三回(2017/05/01)

 

吉田幸助さんへのインタビュー、第三回です。今回は「幸助の文楽人生」と題して、子供の頃からの文楽との付き合い、入門時の思い出、修行をする上での心構え、そして「文楽人形、ここが楽しい」などを伺いたく思います。
今後も幸助さんの文楽人生、周囲の声、文楽の楽しみ方等、様々な質問を続けていきますので、楽しみにお待ちください。

(渡辺)
三回目です。どうぞよろしくお願いします。さて幸助さんはお父様も人形遣いだったわけですが、物心がついた時に文楽をどう感じていたのでしょうか?思い出でも、今から思うとこうだっただろうという事でも結構です。

(幸助)
父がこの仕事をしていたので、なに不思議なくそこに行けば文楽があるという感覚でした。

(渡辺)
子供時代に楽屋で遊んでいた時の思い出、エピソードなどを聞かせて下さい。

(幸助)
大阪の前劇場の朝日座時代ですが、本当にお客様が少なく客席で遊び放題だった様な記憶があります。 小学校低学年の頃、父の楽屋での出来事ですが、父の煙草の燃えかすが座布団に落ちてくすぶっているのが見え、楽屋には他に誰も居なく、慌てて他の楽屋の人に「座布団が燃えてら!」と何故か江戸っ子の言葉で言ったとか。母は東京の人なんでその影響だと思います。

(幸助)
同じようにお父さんの姿を見ていらっしゃったのに、文楽の世界に入らなかったお兄様と幸助さんの判断を分けたのは何だと思いますか?

(幸助)
人形に凄く興味があり、小さい頃からオモチャのロボットを使って人形遣いごっこをしていました。兄は全く興味を示さず無反応でした。不思議ですね。

(渡辺)
文楽を目指すと言った時、お父さんにはどう言われましたか?また周囲の方はどんな反応でしたか?

(幸助)
父は大反対でした。母と共に父を説得して文楽の世界に入れてもらいました。

(渡辺)
実際に入門したのはいつですか?親子関係から子弟関係になり、具体的にはどういう事になりましたか?普段の生活も全く変わり、言葉遣いも変わるのですか?

(幸助)
正式な入門は昭和55年の中学3年ですが、中学2年ぐらいから志していました。入門したら親子から弟子に変わり、家でも敬語。夜のご飯の時間も僕が帰って来る頃はお酒で目が座ってきて小一時間は説教の時間でした。

(渡辺)
師匠の指導はどういうものでしたか?厳しかったですか?今思い出して、ああそうかと思うような事はありますか?

(幸助)
楽屋では人目もあるので他人よりも厳しくかなり怒られどつかれました。
どちらかというとスパルタでして、直ぐに出来ないと段々と怒りが頂点に来て怒り爆発とういうパターンでした。でも基本をみっちり教えてもらったので、今があるのは父のお陰です。教えてもらってる時は、このクソ親父!と思ってましたが、今になってその有り難みが分かります。

(渡辺)
師匠以外の方にも教えて貰う事があると思いますが、幸助さんが今までに受けた指導やアドバイスで、これは勉強になった、というのは誰に何を教わった時ですか?

(幸助)
色々な方に教えてもらいましたが、教えて頂いたことを常に頭に入れて舞台に出ています。一番印象に残っているのは、簑助師匠に「自分が遣う役の言葉を覚える時は丸暗記するのでは無く、大きな枠の要所要所を覚えなさい」と教わりました。 「太夫によっては間も違うので、枠で覚える事で臨機応変に対応出来、振りに大きさが出ます」と。遣ってみると確かにそうでした。

(渡辺)
足遣い、左遣いの時代、勉強になった事、失敗したエピソードを聞かせて下さい。

(幸助)
車曳の梅王丸の足を遣っていて、左足を出して形を決める時に勢い余って左足を出した時に手から離れてしまい、足を逆向きに出してしまいました。お客様から「足が反対になってる?!」という声が!。父に聞こえて「アホー!何やってんねん!」と怒られました。 私の時代、立役の足は玉志さん、女形の足は簑二郎が上手で、いつもバイブル的存在。勉強になりました。

(渡辺)
背が高いという事で立役専門のようですが、女形を遣う機会が少ないと、精神面への影響はありますか?

(幸助)
立役が多いというか専門になってますね。(笑)人形遣いは両方遣えるのが人形遣いだと思っています。機会が少なくてもいつ女形のお役が来ても良い様に普段から稽古をしています。

(渡辺)
今まで遣った役の中で誰が一番お好きですか?

(幸助)
主役級の遣った役は少ないですが、一番は源平布引滝の斎藤実盛でしょうか。勉強会で二度ほど遣わせてもらっています。

(渡辺)
今後遣ってみたい役はありますか?

(幸助)
一度地方公演で勉強させてもらった事があります。沼津の十兵衛をスカー!と遣ってみたいですね。

(渡辺)
修行をする上での心構えをお聞かせ下さい。普段自分で心がけている事、後輩にアドバイスしている事、師匠や先輩から言われて「そうだなぁ」と思う事を教えて下さい。

(幸助)
何事にも基本を大切にする事です。綺麗に遣う事で、左遣い、足遣いと遣いゆすくなり人形全体が綺麗に見えます。私達が最初に習う事は基本です。感情面はその次です。僕が教えるのは、師匠、先輩の方々に教えてもらったことをそのまま伝えているだけです。

(渡辺)
文楽人形、こういう点を観ると楽しくなるという言を教えて下さい。

(幸助)
私達はその人形の性格、年齢を使い分けています。でもそれが出来るのは熟練者!だだ義太夫の節に合わせて人形を振り回している訳ではありません。その技の良し悪しを楽しんでください。

(渡辺)
ありがとうございました。次回はまた違った切り口でのお話を伺わせて下さい。

<第三回インタビューを終えて>
文楽は歌舞伎のように子供の時に「初お目見え」や「初舞台」などがあるわけではありません。幸助さんのように親から「文楽を仕事にするなどやめろ」と言われたという話をよく聞きます。でもやはり幼少時の環境が影響していると感じます。何気なく見ている事から得るものは大きいと思います。
我々観客は勝手なものですから、「足10年、左10年」といわれる文楽、早く入門して長く修行して上手な芸を見せて頂きたいと思ってしまいます。詳しくは聞けませんでしたが、それはそれは苦しくて厳しい時代が長いと思います。幸助さんは勿論、若手の方達にも頑張って頂きたいですね。(渡辺幸裕)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二回

16.1130実相寺 (3)

(渡辺)

インタビューも二回目です。この度の襲名発表、皆さんが楽しみに待っていますが、今年4月、5月には豊竹英太夫さんが六代豊竹呂太夫を襲名されますが、文楽における襲名について教えて下さい。歌舞伎の襲名と文楽の襲名はどう違うのですか?

(幸助)

文楽の襲名は世襲ではなく、師匠の名前や一門にある名前を継いでいきます。私は玉助の孫にあたりますが、父は玉助の弟子で(玉助没後初代玉男に弟子入り) 、私は玉幸の弟子です。親子関係のないかたは、弟子が継いでいきます。私は今、玉男一門になります。歌舞伎との違いは世襲制度では無いので誰でも上手くなれば血縁関係なく大きな名前を継げるのが文楽です。

(渡辺)

そもそも襲名をすると何がどう変わるのですか?

(幸助)

何が変わるのかと言うのは難しいのですが、心構えが変わります。襲名した名前を傷つけてはいけませんし、常にその名前に相応しい芸を望まれます(まだ出来ませんが)。

本人はそんなに変わっていないと思いますが、皆さんの見る目が変わるのではないかと思います。

(渡辺)

今回「玉助」を襲名されるのですが、「玉助」、そして師匠である「玉幸」という名前について教えて下さい。

(幸助)

玉助は祖父が三代で(昭和十七年襲名) 、初代は初代玉造の子息です。弟子には文五郎師匠など。二代は血縁関係なく弟子が玉助襲名。後に二代玉造。祖父は初代玉助の弟子である三代玉造(蔵)の弟子です。父の二代玉幸は三代玉助の弟子で、三代玉助の幼名です。

(渡辺)

これから約1年後の襲名まで、どんなスケジュールがあるのですか?

(幸助)

ご挨拶回りや、それに必要な手拭い、扇子、ご挨拶状を揃えます。他にも色々揃えるものはありますが、半年前に記者会見して演目発表、スチール写真撮影などあります。

(渡辺)

襲名披露公演はどんな風に行われるのでしょうか?

(幸助)

襲名披露口上ののちに、披露狂言上演。口上は三業の大師匠や人形部の一門、ならびに先輩方に並んでいただき、先代玉助のことや私のことを口上していただきます。本人は何も言わず、頭を下げているだけです。

(渡辺)

ファンの方に襲名をどう楽しんで欲しいですか?何を知って欲しいですか?

襲名する幸助さんの決意みたいな事を聞かせて頂けますか?

(幸助)

文楽にとって襲名は大きなイベントですし、楽しんでいただきたいと同時にファンとしては今まで本公演で遣うことがなかった主役の大きな役を遣うので楽しんでいただきたいと思います。53年ぶりに玉助の名前が甦ります。その大きな名前を皆さんに知っていただけることの喜びと名前に大きくしてもらうこともありますが、自分自身でも大きくしていけたらと思います。

 

第一回

?「うめだ文楽」という公演があります。中心になっている吉田幸助さんにお話を伺いました。どう
ぞお読みください。そして行かれて下さい。ご自身が難しい場合は関西にいるご親戚、知人、友人へのご吹聴、よろしくお願いします。

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幸助様、実相寺での文楽イベントお疲れ様でした。楽しい会になりましたね。お客様から「幸助さんのトークが面白いかった」というお話が多かったですし、酒気帯び鑑賞、一杯飲んでから(それもお寺で)良い気分になって文楽人形を間近で観る、とても素敵な時間になりました。有難うございました。


さて、あの時もちょっとお聞きしましたが、「うめだ文楽」についてお話を伺いたいと思います。NHK以外の民放5局が一緒になる事業という事で、実は大変画期的な公演なのですが、関東ではなかなかこの公演の事を聞くチャンスがないので、どんなものかこの機会にぜひお聞かせ下さい。よろしくお願いします。

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以下、インタビューです。

 

(渡辺)

「うめだ文楽」とはどんな公演ですか?

?

(幸助)

うめだ文楽は2015年に第一回目を、梅田のグランフロント、ナレッジシアターで公演をして来年三月に三回目の公演となります。
在阪民放五局が集まり、文楽の若手を応援するのがうめだ文楽です。
?

(渡辺)

幸助さんはリーダー役ですが、この公演の意義をお聞かせ下さい。
?
(幸助)

文楽って難しいね、 私には無理!!というかたの入り口になるような初心者にもご覧いただきやすい公演です。
各局アナウンサーの解説、著名人とのトークショー、最後に文楽のお芝居の構成です。
うめだ文楽は大半がはじめての方です。この方たちが文楽劇場にお越しいただければと思っております。
?
(渡辺)

昨年やって良かった事、反省点、通常の公演では感じられない事、出来ない事なども教えて下さい。
?
(幸助)

こういう公演は二回目が大事で、大体一回で終わってしまいます。反響が良かったので、二回目、三回目と続けることとなりました。
昨年は私も挑戦の意味で、女役をさせていただきました。未熟な芸の集まりですが、成熟された芸は国立劇場で見ていただくとして、若い熱いエネルギーのお芝居をうめだ文楽で見てほしいです。
カーテンコールなどもあり、著名人とのトークショーでは普段前に出て話すことの少ない技芸員のこえも聞ける楽しい公演です。

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(渡辺)

技芸員の中での評価は如何でしたか?
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(幸助)

1日2回公演なので、体力的にもきついですが、六回も公演があるので1日1日勉強になり、充実です!!と言ってもらってます。
?
(渡辺)

この公演に出なかった先輩方から言われた事はありますか?
?
(幸助)

参加されていない方からもチラシ見たよ、とかテレビ見たよ!とか嬉しく言ってもらってます。
?
(渡辺)

普段文楽に来られないお客様、特に若い初心者のお客様へのメッセージをお願いします。
?
(幸助)

うめだ文楽は若い人たちがお届けする、初めての方にも見ていただける公演です。この公演をきっかけに文楽劇場、東京は国立劇場に足を運んでいただければと思っていますので、お越しをお待ちしています。
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(渡辺)

こういうきっかけ作りの企画公演は、大阪以外でもありますか?
?
(幸助) うめだ文楽以外にも、三谷文楽、杉本文楽といった大きな企画もありますが、個々に色々な街に解説、ミニ公演をしたり学校に行って学生に楽しんでもらっています。
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(渡辺)

2017年公演の概要、意気込みを教えて下さい。
?
(幸助)

2017年3月24日金曜から3月26日日曜の全6回公演、場所はナレッジキャピタルナレッジシアターposter_14(グランフロント北館4階)
開演時間
24日(金)15時(ゲスト桂南光)、19時(ゲスト嘉門達夫)
25日(土)11時(ゲストはるな愛)、15時(ゲスト斎藤雪乃)
26日(日)11時(ゲスト長谷川義史)、15時(ゲスト有栖川アリス)
演目は義経千本桜より河連方眼館の段
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?
ほとばしる情熱と緊張が交差する若手技芸員達によるフレッシュな公演です。バラエティ豊かなゲストとのトークショーも評判で、今回は春という季節にピッタリな演目です。お勤め帰りやお買い物、観光のついでにもどうぞ気軽にお越しください。
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<インタビューを終えて>
うめだ文楽は大阪の大阪とも言える場所、大阪駅に隣接しているグランフロントで開催される画期的なイベントです。渡辺も観に行きましたが、普段大阪の国立文楽劇場に来ているお客様とは全く異なる若いお客様が沢山詰めかけていてとても華やいだ雰囲気でした。若い技芸員の方の表情もまた劇場で見るものとは少々異なるもので、ポスター写真を見ればよく分かります。こういう公演が東京でも出来ればなあというのが実感です。(渡辺幸裕)

 

 



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