2023年10月26日

2 地球は宇宙に浮かぶ窯

地球は太陽系の惑星として46億年前という途方もない大昔に多くの隕石が集まり、誕生した。

 母なる太陽から生まれた九つの惑星のなかでも、私たちの地球だけは一〇〇〇年間も降り続いた雨のお陰で、一二億年後には満々と水をたたえた海をつくり、その面積は地球の70パーセントを占めた。これによって太古の海にあふれたシアノバクテリアが光合成によって酸素を吐きだし、紫外線をさえぎるオゾン層を形成して温暖な気候となり、多種多様の生命が息づき育まれる別天地をつくりあげた。海と川には魚の群れが躍動し、草原には草食動物が駆け回り、これを肉食動物が追いかける。これらの生態系の循環の中で、それぞれが命を享受し、また土に還っていく。

長い間、雨風にさらされた岩肌が昼は日光に照らされ、夜は気温が低くなって収縮すると、岩石に含まれている鉱物(長石・石英・黒雲母など)はそれぞれ収縮率が違うため、溶岩に割れ目ができてくる。やがて空気中の二酸化炭素を溶かし込んだ雨水がその割れ目に弱い酸として働き、岩石を分解して変質させ、ボロボロに崩れて砂や粘土になっていった。それゆえ水や酸素のない月には粘土はできない。

 古より焼物は「一焼・二土・三造り」といわれてきたが、無釉の焼締め陶に適するよい土が、この風化作用によって育まれてきた。土からできた“焼物”にとって、四季の変化や毎日の天候の変化、そして生物の営みにより大地に起こるこの風化作用こそ、地球がくれた最大の贈物といえる。

 日本列島は2000万年前にユーラシア大陸と離れはじめ、現在の私たちの住む日本列島ができあがってからは五万年にみたない。四六億年という地球の歴史からみれば、ごく最近のことで、それまでは大陸の東端だったり、海の底だったり、沼地のような時代のほうが遥かに長かった。

地球は果てしない変動の中に温帯から亜熱帯の時期があり、水中にも海中にも植物が群生した。地下のマントルの動きで地殻変動や地震が起こり、マグマの働きで火山の噴火・爆発があいついだ。火山活動によって噴出したマグマが地表付近で固まった岩石は二酸化ケイ素(SiO2)の含まれる割合によって流紋岩(70%)や安山岩(60%)・玄武岩(50%)などの鉱物ができる。

なかでも珪酸分(ガラス質)に富んだ灰色の流紋岩が熱水変質を受けると、石英、セリサイト、カオリンからなる白色の岩石となり、李参平が見つけたとされる有田の泉山陶石や熊本天草下島(白岩崎海岸にも露出している)で採掘される天草陶石、江戸後期からの九谷焼に使われた石川・小松市の「花坂陶石」、京焼でも磁器の原料として重宝されている兵庫・出石の「柿谷陶石」、愛媛・砥部焼の「砥部陶石」の原料として利用されてきた。

焼締陶の雄・備前焼にも硫紋岩が使われている。9000万~1億年前にできた流紋岩は、風雨に晒され動植物の遺骸の腐植などによりとてつもなく長い年月を費やして風化を繰り返して水に流され、鉄分や有機物質を含む「二次粘土」となり可塑性と粘りのある「田土」となって使われたのだ。

一方、火成岩の一種である花崗岩は地下深くあったマグマが膨大な時間をかけてゆっくり冷めて固まったので深成岩ともいう。海中の中でも爆発が起こって流れでた溶岩は冷やされて花崗岩となっていく。その花崗岩が隆起し、地表に近づき、外気にあたると太陽の紫外線や雨にさらされ、気温の変化のために浸食されて亀裂が生じて風化作用がすすんでいく。

ヨセミテ滝とハーフドーム
ヨセミテ滝とハーフドーム 
出典:Wikipedia

“天下の奇峰”といわれる中国黄山は、長い年月をかけて侵食された花崗岩で形成されている。切り立った断崖に雲海たなびく仙境の世界、多くの漢詩や水墨画にとり上げられている古代からの景勝地となっている。アメリカ合衆国のヨセミセ国立公園に聳えるエルキャピタンは世界最大級の花崗岩でできた一枚岩でロッククライマー憧れの的。日本でも甲斐駒ヶ岳や屋久島の太忠岳などが巨大な花崗岩を抱いている。

膨大な年月を費やして風化した花崗岩の主成分はアルミナ(Al2O3)とシリカ(SiO2)を含んでいる。アルミナは粘土に粘りをもたせ、シリカはガラスの素となる鉱物、これが更なる風化によって、シリカが抜けていき、その多くを占める長石がさらに風化してカオリン鉱物として堆積して蛙目粘土と変化し、陶磁器に使われる粘土となっていく。

石材の御影石ともいわれる花崗岩の断面をみると細かな粒子が含まれている。灰色の硬く丈夫な珪石(石英)が主成分で、白には長石が、黒には黒雲母(くろうんも)が含まれている。一般的な陶磁器に使われる粘土は主にこの花崗岩から作られている。

宇宙が誕生して100億年後に地球と同じ46億年前に誕生した太陽はあと50億年ほど燃え続けるという。

地球に引き寄せられた微惑星や隕石が衝突して徐々に大きくなる。大量の熱の力でできた岩(火成岩)からでできている地球の表面を100メートル掘れば3度上昇するといい、約100キロ掘るとマントルの温度は1000度以上、マントルと核の境界あたりでは3000~5000度と推定されている。

地球は自らの熱で「粘土のもと」となる花崗岩や流紋岩を焼いて冷ましてくれたばかりでなく、石器時代の狩りに必要だった黒燿石などの岩石、さらに自然界の神秘ともいえる眩いばかりのダイヤモンドやルビー、サファイア、オパールなどの七色の光を放つ100種類以上もの宝石を生んだ。焼物のもととなる岩石、とりわけ陶器の原料である花崗岩の誕生は、地球の火山活動と切っても切れない関係にあって、まさに地球は“宇宙に浮かぶ大きな窯”だといえると思う。

根来椀(拙作)



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