2023年10月24日、国立国語研究所と沖縄県宮古島市は、宮古島の地域文化の保全と振興を目的として、消滅危機にある宮古島の言語に関する学術交流、その他の諸活動の発展に向けた連携・協力協定を締結しました。
宮古島の言語は地域社会の貴重な財産であると同時に、独自の特徴を持っており学術的にも重要です。それにもかかわらず、UNESCOが2009年に発表した “Atlas of the World’s Languages in Danger” に掲載されるなど次世代への継承が危ぶまれています。
そこで、宮古島の言語文化を将来にわたって享受できるように、宮古島市所蔵の言語資源(映像・音声・文字資料)を恒久的に保存・公開する「デジタルアーカイブ化」を進めることとなりました。宮古島市は資料の提供、著作権者に関する情報提供、広報等を行い、国語研は資料内容の確認、アーカイブ化、コンテンツ化等の作業を行います。締結期間は2027年3月31日までとなりますが、双方の合意があれば延長されます。
締結式で、座喜味一幸市長は「島のことばは先人から受け継いだ大切な財産。できる限り残し伝えていく必要がある」と締結の意義を説明し、必要性は感じながらも市の力だけでは着手が難しかった「デジタルアーカイブ化」に期待を寄せました。
国語研の前川喜久雄所長は「琉球諸語は日本語研究上の重要な価値を持っている。日本語の系統論においても、それ無くしては成立しないと言っても過言ではない」と宮古語の持つ学術的価値を説明し、言語資源のアーカイブ化により研究が一層活発になることに期待を寄せました。
日本語のルーツを探るために「日琉祖語の再建」を目指す五十嵐陽介教授は、「宮古語をはじめとする琉球諸語は日本語の共通語が失った古い言葉の特徴を残しており、歴史言語学的な価値がある。万葉の時代の日本語ではすでに失われてしまった特徴(例えば、「みち」と「みず」の「み」を違う音で発音する)が残っており、日本の文献以前の時代にまでさかのぼれるので絶大な価値がある。」と宮古語の学術的な重要性を強調しました。
今回の締結式では、宮川創テニュアトラック助教による「デジタルアーカイブ化」のデモンストレーション動画が流されました。
宮古島市が保有する昭和50~60年代の音声テープは既にアーカイブ化作業が始まっていますが、その中から1987年(昭和62年)に宮古島市城辺町で採取された民話「寄り木の主」の収録テープをデジタル化し、動画に仕立てたものです(話者の生年は1904年(明治37年))。
会場に流れた宮古語はデジタル音声処理によって大変クリアで聞きやすくなっており、画面には発音記号とカナ表記、共通語訳が示してありました。宮古島の海をイメージして生成AIで作られたイラストも、美しいと好評でした。アーカイブ化した資料は2027年を目途に宮古島市のサイトで公開の予定です。
今年、宮古島市で開催された「みゃ~く(宮古)方言大会」では高校生1年生が宮古島市長賞に輝くなど、若い世代にも宮古語の重要性が認識されつつあります。このデジタルアーカイブ化が宮古語の保存と継承に繋がることを願ってやみません。