ことばの疑問

「エンターテインメント」が「エンターテイメント」「エンタメ」といったいろいろな語形で使われるのはなぜですか

2019.09.24 前川喜久雄

質問

「エンターテイメント」「エンタメ」などは、本来「エンターテインメント」という形だと思いますが、いろいろな語形が使われるのはどうしてでしょう。
※ この記事の初出は『新「ことば」シリーズ』19号(2006、国立国語研究所)です。当時の雰囲気を感じられる「ことばのタイムカプセル」として、若干の修正を加えた上で公開します。

エンターテインメント、エンターテイメント、エンターテーメントなど、さまざまな語形があるのはなぜだろう?

回答

語形そのもののゆれ

まず「エンターテイメント」を考えます。質問の主旨は英語の原語に存在する「ン」がなぜ脱落するのかという点にあるのだと思います。しかし、実は英語においても [n] なしの発音が普通に行われています。英和辞典の発音項目を読んでみてください。中辞典クラスのものであれば、この語の発音として、 [entɚteɪnment] だけでなく [entɚteɪment] も示している辞書が多いと思います。後者の発音を日本語に引き写せば「エンターテイメント」になります。類例には「任命」「仕事量」「宿題」などを意味する「assignment」があります。この語にも英語として [əsaɪnment] と [əsaɪment] の二つの発音があり、日本語の外来語としても「アサインメント」と「アサイメント」の両方が使われるようです。

また、質問にはありませんでしたが、この語には「エンターテーメント」という発音もあります。この語形が生じる原因は英語とは関係ありません。現代日本語で「エイ」という母音連鎖を「エー」と長母音に発音する傾向を反映したものだからです。「映画」を「エーガ」、「先生」を「センセー」、「その所為(せい)で」を「ソノセーデ」と発音するのと同じく、「テイメント」を「テーメント」と発音したわけです。

エンターテインメント、エンターテイメント、エンターテーメントの3つの語形ができる理由

語形の省略(その1)

次に「エンタメ」を考えてみましょう。まだ辞書には載っていない言葉ですが、インターネットの世界では広く用いられている語形です。この語の場合、明らかに省略が行われている点に特徴があります。日本語では、「自由民主党(ジ|ユ|ウ|ミ|ン|シュ|ト|ウ)」(8拍)が「自民党(ジ|ミ|ン|ト|ウ)」(5拍)に、「東京証券取引所」(13拍)が「東証」(4拍)に縮約されるように、拍数の長い語が盛んに省略されます。

略語を作り出す方策は単純ではありませんが、語や句を意味上のまとまりに従って複数のグループに分割し、各グループの冒頭を取り出して結合するのが基本的な方策です。先の「自民」、「東証」の他、「家裁」(家庭裁判所)、「公取」(公正取引委員会)、「独法」(独立行政法人)「棚ぼた」「やぶへび」など、幾らでも例を挙げられます。この方式の略語は、「デジカメ」(デジタル・カメラ)、「ブラバン」(ブラス・バンド)、「メントレ」(メンタル・トレーニング)、「ブラピ」(ブラッド・ピット)のように外来語でも多数派です。これらの例からは、ほとんどの場合、取り出されるのは各グループ冒頭の2拍であることも分かります。

「エンタメ」は、「エンターテインメント」若しくは「エンターテイメント」にグループ分割に基づく略語法を適用して生まれた略語だと解釈できます。つまり、「エンターテイ(ン)・メント」を・の位置で2グループに分割し、第1グループの冒頭3拍と第2グループの冒頭1拍を取り出して結合したのが「エンタメ」だという解釈です。

ただしこの解釈には、なぜ普通に2拍を取り出して「エンメン」とせずに、3拍と1拍なのかという疑問が残りますが、これについては理由がよくわかりません。

語形の省略のしかたを拍で表したもの。各グループ冒頭の2拍が取り出されることが多い

語形の省略(その2)

外来語の略語を作る方法として余り一般的ではありませんが、「コンペ」(コンペティション)、「シンクロ」(シンクロナイズドスイミング)、「パンフ」(パンフレット)、「サプリ」(サプリメント)のように、意味の切れ目を無視して語句の先頭を取り出すやり方もあります。この方法を「エンターテイメント」に適用してみると、「エンタ」、「エンター」、「エンタテ」などの語形が得られます。さて、こうした語形は本当に存在しているでしょうか? 最近、「エンタの神様」というテレビ番組が放送されたことにより、「エンタ」の存在が世に知られました。そして、「エンター」と「エンタテ」についても、インターネット上の用例を丁寧に見てゆくと、「エンターテイメント」の略語として用いられていることを確認できます。興味のある方は是非、検索エンジンで調べてみてください。

(前川喜久雄)

書いた人

前川喜久雄先生

前川喜久雄

MAEKAWA Kikuo
まえかわ きくお●国立国語研究所 音声言語研究領域 教授。
1956年京都府出身。鳥取大学講師などを経て、国立国語研究所には1989年から在籍。『講座日本語コーパス』(朝倉書店 全8巻)の監修を務める。2011年、2012年日本音声学会 優秀論文賞を受賞。