夫の実家に夫婦で帰省した時、義母から「(息子に)むいてあげて」とミカンを渡されて戸惑った、というトピを見つけました。共働きで生活費も折半しているのに、夫のためにミカンの皮をむくことを妻が強制されるのは納得できない、とトピ主さんは言います。
しかし、義母に「強制する」というまでの意識は、おそらくなかったと思います。妻が夫の食べるリンゴや梨の皮をむく……そんな実家の慣習の延長線上に、ミカンの皮をむいてあげる行為もあったのでしょう。そして、母が結婚した息子のミカンの皮をむくのはお嫁さんに失礼だとも思い、「むいてあげて」と軽い気持ちでトピ主さんに言ったのだと思います。
どの家庭にも、その家庭ならではの慣習があるものです。一般家庭では一代限りのこともあるでしょうが、伝統芸を継承する家庭などでは数百年にわたって代々受け継ぐ慣習もあるでしょう。ただし、専業主婦の存在を前提とした、一般家庭の「慣習」は廃止すべきで、それが現代社会における流れだと、私も思います。
40年前、私が結婚してすぐのこと。実家の母が父の魚の骨をむしってあげているのを見た夫が「きみのお母さんは何でそこまでお父さんを甘やかすのだ?」と驚きの声をあげたことがあります。幼いころから見慣れていた私は、その光景に何の違和感も持たず、魚の骨もむしれない不器用な男だと思っていたのです。
そんな夫も当たり前のように「リンゴをむいて」と新婚の私に言ったのです。父と違い手先の器用な夫ならば、私よりも上手にむけるはずだと思い、「リンゴは、食べたい人がむきましょう」と返したところ、「俺は、リンゴは今は、食べたくないかなあ」と言ってその場を去って行ったのでした。
柴門ふみ(さいもん・ふみ)
漫画家、エッセイスト。1957年、徳島県生まれ。お茶の水女子大在学中から漫画を執筆し、代表作に「東京ラブストーリー」など。働く女性や恋愛をテーマにエッセーも手がけている。