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音声翻訳機「ポケトーク S」の実力を中国で検証! ほぼ英語が通じない地域での実用度は?


昔も今も、言葉の壁を超えたいと願うのは人類共通の一大テーマだろう。筆者も常々、世界中の人々と交流を深めたいと思いつつも、外国語を身に着けるのは至難の業。漫画「ドラえもん」で登場した「ほんやくコンニャク」は、まさに夢の道具だ。

ところが、それももう夢ではなくなるかもしれない。ここ最近はAI技術の進展を背景に、音声機械翻訳の実用化がぐっと現実味を帯びてきたからだ。特に日本では、2020年に東京で開催される国際的なスポーツイベントを目前に、「お・も・て・な・し」の一環としても注目度が高まっている。

そこで今回は、そんな「夢の道具」を具体化したような音声翻訳機「ポケトーク」シリーズに着目。2019年12月6日発売の新モデル「ポケトーク S」の実用度を検証すべく、実際に中国に持っていって使ってみた。その実力はいかに!?

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シリーズ最新機種「ポケトーク S」とは

「ポケトーク」は、ソフトウェアの企画・開発・販売で著名なブランド「ソースネクスト」の携帯型音声通訳デバイス。通信機能をベースに、高度なAI技術を駆使し、コンパクトな筐体ながら、数十もの多言語を双方向翻訳できるのが特徴。2017年に初代ポケトークが、2018年には進化版の「ポケトークW」が発売され、シリーズ累計販売台数50万台(2019年7月同社集計)を突破するヒット製品だ。

新発売のポケトーク Sは、さらに筐体がコンパクトになって表示画面は1.3倍に拡大。カメラ翻訳機能が加わったのもトピックだ。また、グローバル・モバイル通信付きモデルは、本体料金だけで契約料も通信料もなしに2年間、133の国と地域(2019年11月7日時点)で利用できる仕様で、シンプルな料金体系も魅力的である。そのほか、英会話の練習機能や通貨換算など、ユーザーが「欲しい!」と思える機能を新たに搭載している。そのほか、くわしい特徴についてはこちらの発表会レポートをご参照いただきたい。

コンパクトになった「POCKETALK(ポケトーク)S」。価格は、グローバル通信付きが29,800円(税込)、グローバル通信なしが24,800円(税込)

まずは日本で予行練習(基本の使い方)

用意周到派の筆者は、出発前に自宅でポケトーク Sの使い方を確認。機能がシンプルなので設定や操作はいたって簡単だった。初回の電源画投入時にユーザーが使用する言語を選択すると、あとは利用時に翻訳したい言語を選ぶだけ。しかもこの選択は「音声」でできるので、100を超える対応言語の中から「探してタップ」する必要もない。

このような画面になり、基本の言語選択から音声で行える!

このような画面になり、基本の言語選択から音声で行える!

翻訳は、ボタンを押して日本語を話し、終わったらリリースするだけ。まず驚くべきは、日本語の認識率の高さである。話し言葉がスラスラと画面にテキスト表示され、その安心感は出来のよいスマホの翻訳アプリと遜色ない。音声を通信回線経由でサーバーに転送し、高度な処理を行っている恩恵に違いない。筆者自身、中国語はあまりわからないので、主に英語であれこれ試してみたが、翻訳精度も十分。「これは実用的!」と思えるものだ。

日本語で話しかけると、その認識率の高さに驚く。しかも英語翻訳で試した感じ、精度もかなり高い!

日本語で話しかけると、その認識率の高さに驚く。しかも英語翻訳で試した感じ、精度もかなり高い!

一点、会話を想定すると、日本語と英語を交互に入力することになるが、これにはタッチでの切り替え操作が必要。あらかじめ言語を宣言しておくのは、認識精度を高めるうえでよく使われる手法だが、使い勝手を考えると自動化が望ましい。デバイスはマイク代わりで、主な処理をサーバーで行うなら、今後改善の可能性は十分にありそうだ。

双方向翻訳で会話する場合は、入力言語の切り替えを手動でタップして行う必要が。ここが自動化されるとより便利

英語がほぼ通じない中国のハイテク都市「深セン」で、「中国語」の通訳力をチェック!

それではいよいよ、ポケトーク Sを持っていざ中国の「深セン」へ。今回検証の地として中国を選んだのは、正直「出張のついで」なのだが、決して投げやりなわけではない。というのも、筆者は英語に関しては「まあまあOK」という状態。日本の義務教育で英語をひと通り学習していれば、流暢に話せなくとも、基本的な単語の読み書きや聞き取りは可能なはずで、多くの日本人がこの状態にあてはまるだろう。

また、訪問先も同様の印象。取材でときおり香港・韓国・台湾を訪問するが、仕事はもちろん、街中でもおおむね英語が通じるので大きな不便は感じない。

しかし、中国に渡ると状況は一変する。今や「赤いシリコンバレー」と呼ばれるハイテクタウン深センですら、街中で英語はほとんど通じずコミュニケーションのハードルが高く感じる。ホテルも国際的な高級ホテルを除いて英語は通じにくい。筆者の感覚だが、1泊2万円クラス以上なら英語OK、1万円クラスならフロントやレストランは英語OK、5千円クラスは中国語オンリーで英語や日本語はNG、といった感じである。

つまり、中国に行くなら中国語は話せるほうがよいし、少なくとも何らかの準備はしておきたい。昔ならトラベル会話集と筆談、今ならスマホの翻訳アプリ、といったところだろうか。そこにポケトーク Sを持っていくとどれくらい便利なのかを、ガチで検証してみたいと思う。

ちなみに、中国も地下鉄には英語表記があり、タクシーは「DiDi」(配車アプリ/英語UI利用可)、支払いは露店まで「AliPay」(外国人も利用できるスマホ決済)が使えるので、コミュニケーションを望まずただ目的を果たすだけなら、中国語が全く理解できなくてもやり過ごせる時代にはなっている。

香港国際空港到着! さっそく新機能「カメラ翻訳」で小手調べ

というわけで、香港国際空港に到着。今回使用した「グローバル・モバイル通信付きモデル」は、通信機能は当然のことながら「グローバルSIM」が内蔵されていて、訪問する国や地域の設定は一切不要。電源をオンにすれば、その地で利用できる通信網に自動でつながる。もちろん通信料金の心配も不要。この安心感は地味ながら、多くのユーザーにとってメリットに違いない。

さて、飛行機を降りると喉の渇きが。給水設備があるが、海外では水道水を飲むのは不安。注意書きがあるので、さっそくポケトーク Sの新機能である「カメラ翻訳」を試してみた。

これが「カメラ翻訳」。外国で買い物するときなど、現地の言葉で書かれた表示ラベルの内容を理解するのに役立ちそう

中国語の表示にカメラをかざし、撮影後に確認のタップをすると、日本語翻訳が撮影画面に重畳される。撮影時の文字が小さいと、翻訳文がうまく収まらないようで字足らずになるが、「消毒されている」のは確認できてひとまず安心。喉をうるおしていざ中国本土へ移動!

なお、この機能は、看板など大きめの文字なら、なかなか実用的だ。フォーカスの遅さ、撮影時の手ブレなど、ユーザーが気を付けるべき項目はいくつかあるが、少し慣れれば役立つ便利機能に感じた。

深センの街中でポケトーク Sを使用! しかし……

ほんやくコンニャク、いや、ポケトーク Sを持っているのでちょっと気が大きくなり、いざ、英語が通じなさそうな地元のレストランへ行ってみた。

場所は香港へのアクセスがよく、深セン市内でも有数の繁華街「福田」。しかし日本で練習した通りに操作してみるが、なぜかボタンを押して話しても通信待機状態で、日本語を話してもテキストの表示がされない。ただ、ボタンを押している間に話し声はとらえているようで、数秒後にはテキストが表示され、またその数秒後に中国語に翻訳したテキストの表示と音声発話が流れるという状態になった。

一応動作はしていると言えるが、簡単なやりとりに往復で1分近くもかかるとテンポが悪く、相手を待たせるのも気まずい。結局、ここでは店員さんが状況を察知してスマホを取り出してくれ、その翻訳アプリで進行した。現地の通信網の速度などいろいろな要因が考えられるが、少々厳しい結果に。

ちなみに本機はWi-Fiも利用可能で、通信速度の遅さによる問題は解決できるかもしれない。とはいえ渡航先のWi-Fiが高速とも限らないので確実ではないが。なお、使用エリアは「中国」の設定が可能で、これは「グレート・ファイヤーウォール」を回避するVPN経由になるのだろう。

残念ながら、深センのレストランでは日本でテストしたときのようにスムーズに動作せず。全く使えないわけではないが厳しい

ハイテク南山地区でも使い勝手をチェック!

お次は、深セン市内でも特に新しくハイテク度の高い南山地区で実験。南山地区は、主にソフトウェア開発の大手企業やベンチャー企業が集まる一大開発拠点で、世界的にも存在感を増している。オフィスビルもショッピングモールも、もう世界最先端と思えるほどイケている街で、5GやAI、IoTの文字であふれかえっている。

さすがにこの南山地区は、携帯電話網も高度に整備されているのか、先述の「福田」よりも音声認識や翻訳結果のレスポンスが早く、レストランの注文には使える。しかし、やはり日本に比べるとワンテンポ遅く、道をたずねてやりとりを何度か繰り返すのは難しく感じるレベルだった。

南山地区だと、お店での注文などは可能。ただ通信状況の影響かまだレスポンスは遅く、双方向翻訳で会話のやり取りを何度か繰り返すのはちょっと厳しめ

ちなみに、現地の人々が利用するスマホ翻訳アプリや、筆者のスマホ(香港SIMでローミング)+翻訳アプリ(VoiceTra)は、まずまず実用的な反応を見せた。ポケトーク Sは、携帯通信網の絶対的な速度、端末側(エッジ)処理の度合い、はたまたサーバーの場所など、何かしらの要因があったのだろうが、今回の英語がほぼ通じない中国での使用では「ほんやくコンニャク」にはまだ遠い印象を受けた。

ポケトーク S、こう使うと便利だった! 現地の言葉でコミュニケーションできるってイイ

さて、深セン市内ではレスポンスの遅さが気になったが、道具は使いよう。ポジティブに、ポケトーク Sの活用方法をあれこれ考えてみた。どんな場所でも、「あらかじめ音声入力しておいて、結果の翻訳音声を再生する」というのは有効だ。

たとえば、コンビニでおみやげのたばこ選び。筆者は非喫煙者で、ましてや中国のたばこ事情は一切わからないが、ポケトーク Sで「人気のたばこはどれですか?」と先に音声入力して翻訳しておきレジで中国語音声を再生したら、店員さんが笑顔で指差しして教えてくれた。

何より、何とか中国語でコミュニケーションを取ろうとしている筆者の熱意が通じるのか、現地の人たちが笑顔で親切に対応してくれるのが楽しくて、心が温まる。これが英語で押し切ろうとすると、高い確率で相手がけげんな顔になり対応も素っ気なくなるケースが多い。

過去、「現地の人は愛想がよくない」と思い込んでいたのだが、どうやらそれは「英語で話しかけられた緊張」によるもので、筆者の誤解だったようだ。中国語で話しかければ、たとえ意味がわからなくても、中国の人たちは日本人以上に人懐っこい笑顔で、親切に接してくれるような気がした。

また、あれこれ翻訳しているうちに、自然と言葉が身に付くことも実感。「チンゲー・ウォー・ピーチュー」で「ビールを下さい」。筆者の場合、これだけ覚えておけば、楽しくやっていけるということで。

ホテルでチェックアウトしたあと、周辺を散策するため、フロントに荷物を預かってもらったときにも使った。中国語で頼めば相手もこちらも安心

カフェでの注文時にも使用。指差しでOKなお店も、数量を伝えたいときは翻訳が使えると簡単!

カフェでの注文時にも使用。指差しでOKなお店も、数量を伝えたいときは翻訳が使えると簡単!

フェリー乗船前にも便利に使えた。乗り物の遅延が日常茶飯事なので、現地で情報を確認できれば安心。係員が大きくうなずいて答えてくれた。

さいごに:2020年に多くの外国人を迎える日本人の相棒にも

今回は深センという限られた地域で、さらにその中でもいくつかの地域でしか確認していないので、本機の実力を全て試せたとは思わないが、同じ地域へ出かける方の参考になれば幸いだ。中国・深センでの使用では手放しで喜べない結果だったが、コツをつかめば少し時間がかかるものの翻訳機能の利用自体は可能だし、事前に翻訳しておき、結果を提示するような使い方も一案。それにポケトーク Sの新機能である「カメラ翻訳」も便利だった。

また、少なくとも日本国内ではサクサク長文が翻訳できるので、国外だけでなく国内でも使い道が多そう。実際、筆者のわかる言語で確認したところ、英語と韓国語はすばらしい精度であった。スマホよりも断然小型軽量でフットワークがよく、スマホを見ながら・使いながら、といった併用にもうってつけ。操作が簡単で、子どもから高齢者、機械モノの苦手な人まで、2020年に多くの外国人をこの国に迎える日本人の「ほんやくコンニャク」として大いに役立ちそうだ。

英語にそこそこ自信がある人も多いと思うが、ポケトーク Sがあればさらに多言語に対応できて、コミュニケーションの幅、ひいては視野が広がるに違いない。

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鴻池賢三
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鴻池賢三
オーディオ・ビジュアル評論家として活躍する傍ら、スマート家電グランプリ(KGP)審査員、家電製品総合アドバイザーの肩書きを持ち、家電の賢い選び方&使いこなし術を発信中。
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