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アメリカで廃止されつつある入国スタンプ情報をモバイルアプリで確認

 先日、Money20/20 USAという金融系カンファレンス取材のために米サンフランシスコ経由でラスベガスに行ってきた。ここでの取材内容はImpress Watchの連載の中でおいおいフォローしていくが、今回は米国入国の際に気になった現象について紹介したい。

サンフランシスコ国際空港を飛び立ってラスベガスへ向かうところ。サンフランシスコのダウンタウンとベイブリッジが見える

あれ? ビザスタンプがない……

 過去に米国に入国したことがある方ならご存じだと思うが、入国審査官に滞在目的や日数などを伝えると、パスポートのビザ欄にスタンプを押して貰っていざ入国となる。到着する空港によって入国プロセスが異なり、時間の経過とともにその手順などは変化しているが、おおむねこの流れに変化はない。

 ところが2020年以降のコロナ禍を経て、このあたりの慣習は大きく変化している。すでにコロナ禍突入前に「I-94W(ビザ免除プログラム用)」「I-94(それ以外)」の名称で機内で配られる“紙”の出入国管理フォームは廃止されていたが、筆者が昨年2021年10月に渡米した際には税関申告書も不要だった(ESTA利用時はAPCの自動審査端末で代用だが、後述)。

 電子化の流れはコスト削減と処理の迅速化で、10年ほど前まではI-94の情報がシステムに反映されるまで1カ月近くかかっていたそうで(入国して2週間後にサンフランシスコ市役所に問い合わせて「入国記録がない」と言われて判明した)、それだけ人件費をかけてデータ入力が行われたことを意味する。

 筆者の場合、米国はジャーナリストビザ(Iビザ)で入国しているため他の旅行者に比べて手続きが煩雑で(オンラインチェックインが利用できないなど)、「I-94」の紙のフォームへの記載がESTA利用者に比べて長らく必要だったりしたのだが、ずいぶんと簡便になったものだと感心していた。だが今年2022年10月に米国に入国したときにびっくりしたのは、バゲッジクレームを抜けた後の税関(荷物)チェックが完全に廃止されていたばかりでなく、到着ロビーに出てビザ欄を確認していたところ、いま入国したはずの入国スタンプ記録がないことが分かった。

サンフランシスコ国際空港の外観
現在の日本のパスポート。増補ができなくなったようだが、ビザ欄がスタンプで埋まることがないため、おそらく今後も期限内に使い切ることはないと思われる
通常はこのようにパスポートのビザ欄に入国日とステータスが記載されたスタンプが押される。「D/S」とは「Duration of Status」の略で、Iビザの有効期限までの滞在が許可されることを意味する

 「入国審査官のミスかな?」とも思ったが、きちんと出入国記録が残っていないのはオーバーステイが疑われる危険性もあり、頻繁に渡米する人間としては不安だ。

 実際、過去に米国を周遊する取材ツアーでの同行者の1人が直前の渡米での出国記録が残っておらず、オーバーステイの疑いで空港で取調室へと連れて行かれて何時間にもわたって詰問されるというトラブルに巻き込まれたこともあり、シビアな話題だ。また米国では大使館へのビザの申請の際に過去5回分の出入国情報を“間違いなく”伝えなければいけない取り決めがあり、記録の記載ミスは次回のビザ更新時に致命的だ。

 空港からサンフランシスコ市内へと向かう電車の中、素数を数えて心を落ち着かせながらいろいろ調べていると、2022年に入って「米国入国時のスタンプが押されなかった」という情報がいくつか出てきた。同じサンフランシスコ空港でもタイミングによって「押された」「押されなかった」という情報が混じっており、どうやらスタンプの廃止に向けて段階的にテスト運用を開始しているらしいということが分かった。米国国土安全保障省 税関・国境取締局(DHS CBP)の公式アナウンスを見つけることはできなかったものの、近い将来でのスタンプ正式廃止に向けた動きの一環のようで、とりあえずは納得することにした。

それでも出入国記録を正確に把握したい

 とはいえ、ビザスタンプが廃止されることで入国記録が紙で残ることはなく(米国は出国審査がないため出国スタンプは存在しない)、電子的な記録に頼るしかない。もし何かの折に自分の滞在記録を証明する必要があったり、あるいは電子記録が間違えていたケースに備えて修正を依頼する必要があったりしたとき、目に残る形で情報がすぐに見られないのは不便だ。CBPではこうしたケースに対応するためCBP Oneというモバイルアプリを配布しており、ユーザーアカウントを作成後、パスポート情報などを入力することで過去の出入国記録や直前の入国ステータスを確認できる仕組みを提供している。

CBP OneのiOS版アプリ
「I am a...」の項目で「Traveler」を選択して表示されるメニュー。陸路入国時には同アプリでの事前申請が必要(90日以内の入国記録がない場合
直前の「I-94」のステータスを確認できる。通常は滞在有効期限が見られるが、Iビザなので「D/S」と表示されて日付は分からず
入力したパスポート情報での過去の出入国記録も全部見られる。過去の記録を見返して楽しむのもよし

 正直なところ、一般的な旅行でこの仕組みのお世話になることはほぼないと思われるが、何かのトラブルの折に出入国記録の証明をしたり、滞在期限を確認したり、あるいは筆者のようにビザ申請のための情報確認であったりと、いざというときに備えて“お守り”的に控えておくといいかもしれない。また、過去の出入国記録が一通り見られるため、旅行の思い出に浸るつもりでアプリの情報を眺めてみるのもいいだろう。