ステージセットに見る新しい未来の音楽の楽しみ方
(引用元:Pneumatic cannons make a big finish for Rolling Stones' Concerts)
The Weekndが来月11/26にシェアする新作『STARBOY』。おそらく、いや、間違いなくKanye West『The Life of Pablo』, Frank Ocean『Blonde』同様、”これ以前、これ以後”と時代を分かつ作品として語り継がれることだろう。
そんなThe Weekndだが、つい先日までここ日本を訪れていたことがネットを中心に話題となっていた。自身のInstagramに東京、京都の観光地を次々と写真に収めてはアップする様子は、純粋につかぬ間の休息を堪能していること伝えてくれるものとなった。
さらにここ最近の大きなトピックとして、アルバムのシェアを記念したポップアップショップが世界数カ所で展開されることがアナウンスされている。日程は11/4〜6にかけての3日間。場所や時間については未だ具体的なアナウンスはされておらず、その動向は常に気になるところである(ショップアカウントでメール登録すると情報がいち早くアナウンスされるらしいので、気になる方は要登録)
STARBOY POP-UP SHOPS NOV 4-6 || https://t.co/BZwmkQ8SX2 for more details 🔥🔥🔥 pic.twitter.com/QRpoOMVbBP
— The Weeknd (@theweeknd) 2016年10月25日
今回取り上げるのは、そんな話題満載のThe Weeknd...ではなく、最新のライヴパフォーマンスでお披露目したインパクト抜群のステージセットについて。早速ご覧いただこう。
Instagramの方にも同様に動画がアップされている
ニューオーリンズはシティパークにて3日間(10/28〜30)開催された〈Voodoo Music+Arts Experience〉の初日にヘッドライナーとして出演したThe Weekndが披露した最新のステージセットがこれだ。まず、何といってもあの大きな三角形の装置だ。見て分かる通り、推定全長30mほどのトライアングル型の装置は、ライティング、特攻効果を備えながらも、場面によってはその巨体をグルグルと回転させているのである。
Instagramの動画コメントには”🌏”の絵文字があるのみで、単純に推測すれば”地球を回している”ということなのだろう(さらに”ワールドツアー”の意味も踏まえているはず)。何かモチーフがあるのか、それともメタファーなのか。アルバム同様、未だコンセプトが明確になっていないこともあり、ハッキリとしたテーマもわからない。
だが、今回アルバムにかける彼の意気込みは過去の比ではない。鬼気迫る衝動を体内に留めながら、顔色一つ変えずに時代を裏返そうとしている。それは過去の自分に刃を突き刺してまで新たなフェーズを創造し、シーンや時代、全て巻き込んだ変革を成そうとしているようだ。
変革への予兆はこれまでにもあった。アルバムアナウンスの際にも「コレが新時代の前に投稿する最後のポストだ」というコメントを残してInstagramのポストを全て排除(The WeekendがInstagramの写真を全消去。新たなアルバムに向けた準備か? - FNMNL (フェノメナル))。その後、Daft Punkを迎えて発表されたリードシングル「STARBOY」のMVでは過去の自身を殺すシーンから始まり、途中、グラミー賞と思われる栄光の数々を次々と破壊するシーンまで存在する。
意気込みだけでも、単に良質なトラックを作ったところでも、明瞭な意志と思惑が交差したコマーシャルを戦略的に打ち出さなければ、2016年に変革は成し遂げられない。インスタグタムの排除もポップアップショップの展開もその1アクションに過ぎず、それは世間から”どう見られるか”をいかにセルフジャッジできるかというテーマにもなってくる。ネットで誰かが拾い上げてくれると受け身でいては、成功とも失敗とも判断されない。それだけ私たちはシビアで、かつユニークな時代に生きているだ。
ライヴ産業は国内・国外関係なく、今も成長の一途をたどっている。日本では老朽化に伴うライブ会場の減少が問題視されているが(最近では2019年9月に日本武道館も改修されることが発表となった)、今年夏のリオ五輪/パラリンピックにおける”トーキョーショー”含め、体感・体験できるライヴは今後も人の五感を刺激してメッセージを伝える、重要なコンテンツであり続けることだろう。
The Weekndのように時代の変革者たらしめるため、大規模なビジュアルメイクを施すことも2016年において有効なコマーシャルの一つだ。しかし、テクノロジーを駆使することはもちろん、自身がそのとき示したいメッセージ性によってはアナロギーなスタイルを選択することも、選択肢の一つであることを決して忘れてはならない。
例えば 、今年ステージセットという点で大きな話題となっているのは紛れもなくKanye Westのそれだろう。最新作『The Life Of Pablo』に伴うツアー「Saint Pablo Tour」では、まさに何者にも縛られることのないフリーダムなKanyeを象徴する”空中浮遊するステージ(フローティング・ステージ)”が具現化されている。
実際のレポートを読むと(渡辺志保 Kanye West『Saint Pablo Tour』シカゴライブレポート:miyearnZZ Labo)その異常で異様な熱気が存分に感じられる。ジャニーズなどではよく目にする移動式ステージだが、2016年のトレンドセッターというべきKanye Westが、アリーナ規模でアップデートさせていることにこそ大きな意味がある。さらにステージ下はエリア分けされておらず、アリーナ全体がフロアーになっている点も注目したい。観客が彼を見上げる形で熱狂する様は、幾度となく自身を神=GODと称して来た経緯を内包したデザインと言い例えられる。
ラッパーで言えば、Kendrick LamarのステージはKanyeと相反するシンプルなセットを組み上げている。バックバンドをステージサイドに置き、あくまで自分1人がステージに立っていることを強調するようなデザインが特徴だ。それは去年シェアされた『To Pimp a Butterfly』に見るリスナー対Kendrick=1対1の関係性を表現していると思われる。
彼の音楽は常に弱者に寄り添い、強者や権力者に対してアンチテーゼを放っている。そこに過度の演出はいらない。自分と君、あなた、お前がいればいい。シンプルなステージセットはまさにKendrick Lamarのアイデンティティを投影しているのだ。
ラッパーではなくシンガソングライターというフォーマットでもセットにこだわりを持つ人がいる。来年1月に22年ぶりの来日公演が決まったPJ Harveyの最新ツアーでは、以下のようにパースペクティブな造形がなされている。
写真と映像(ステージ下から捉えたオーディション視点)ではバックセットの見え方が異なる。
今年シェアされた『Hope Six Demolition Project』は彼女がコソボ、アフガニスタン、ワシントンD.C.を約3年かけて旅した後にレコーディングされた。しかもレコーディングの模様をガラスを隔てて全て一般公開するという試みが行われており(PJハーヴェイ、新アルバムのレコーディング作業を箱の中のアート作品としてファンに公開 | All Digital Music)、一連のレコーディングプロセス、紛争地帯を歩いた経験、それを合わせてデザインされたこのステージセットは、偏見や固定概念に飲まれた世間の目の盲点を象徴しているのかもしれない。
テーマに沿ったステージセットは追求に追求を重ねると一つの擬似国家を創造することもできる。〈Tomorrowland〉などをまさにその極みと言っていいだろう。
〈Tomorrowland〉はフェスティバル規模でEDMというテーマを具現化しているが、ここ日本でもSEKAI NO OWARIなどはその音楽性を幻想的なステージセットを持って表現している。
自分も今年足を運んだ〈The Dinner〉と称したツアーでは入場ゲートから終演後に至るまで、徹底的に作り込まれたそのコンセプチュアルな脚色に、アミューズメントを超えた映画体験に近い感覚を味わうことができた。
上記のように装飾を凝らしたセットによって、そのアーティストの音楽の持つメッセージ性や可能性は何倍にも膨れ上がる。裏を返せば、セットが音楽にテーマを与え、より噛み砕いたアートワークのように機能する場合もあり得るということだ。
昨年、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが最新アルバムを引っさげて行った全国ツアー〈Tour 2015「Wonder Future」〉では建築家:光嶋裕介がそのステージデザインを担当したことで話題になった。
東京国際フォーラムで観たそのライブは、プロジェクションマッピングも合わせたまさに総合芸術の域に達したパフォーマンスだった。決して音楽も建築も高尚なものとせず、何が優位かなども定めず、ひたすらに観客に自由にその場を楽しんでもらうことに向き合っていたライヴだった。
ステージセットを建築的見地から音楽と共に考察していく。とても面白いアクションだと思う。同時に、それはここ日本における音楽の権威を、また新たなカタチで更新する可能性の一つでもある。
ステージセットという点において、日本は世界に引けを取らない、むしろ最も多様な変化を繰り返している国ではないだろうか。シェイクスピアが築き上げた演劇は、当時上演する会場の作りそのものが舞台の装飾であり機能だった。そこから時を経て、場所も移り、ブロードウェイではエンターテイメントを醍醐味とした演出が極められるまでになった。そのブロードウェイの演目「ウエスト・サイドストーリー」に感化されたジャニー喜多川が、アリーナからドーム、そしてブロードウェイミュージカルまでショーアップする「ジャニーズ事務所」を築き上げたことは、今現在、日本に息づくエンターテイメント文化の発展に大きく貢献したと言える。
振り返ればJ-POPが歌謡曲と呼ばれていた時代から、私たちはテレビ越しに奇抜なステージセットを観続けてきているではないか。上記に挙げた海外アーティストも、MTVなどのミュージックビデオカルチャーによって視覚的デザインの教育を自然に受けてきている。今はテレビからスマホ、スマホからYoutubeを発端にトレンドは生まれているが、いつかそれを生まれながらに育った本当に新しい世代によって作り上げられた音楽のライブステージにどんなセットが組み上がっているのだろうか...
自分は未来に不安を抱くより、常に興味を抱いていたいです。そのためには今、どんな変革が起きているのか、五感をフル動員して吸収していこうと思う。