アングル:投資家の中国離れ拡大、人民元安や景気失速で資金流出

アングル:投資家の中国離れ拡大、人民元安や景気失速で資金流出
 中国の金融市場から数年ぶりの速いペースで資金が流出している。人民元安や景気の失速などを主因に投資家の中国離れが広がっているためだ。写真は米ドルと人民元紙幣。9月29日撮影(2022年 ロイター/Florence Lo/Illustration)
[香港 17日 ロイター] - 中国の金融市場から数年ぶりの速いペースで資金が流出している。人民元安や景気の失速などを主因に投資家の中国離れが広がっているためだ。アナリストは「裏ルート」で流出する資金はもっと多く、信認はかなり傷ついている可能性があると指摘している。
流出の大半を占めるのは債券市場で、背景には諸外国の金利上昇がある。しかし流出は規模が大きく、外国人投資家のポートフォリオを超えて広がっている様子がうかがえることから、中国の信認の揺らぎと資本市場におけるドル高の「資金引き寄せ効果」が際立っている。中国の信認低下で将来的に人民元が一段と下落する恐れもある。
富裕層向け資産運用業務を手掛けるリュー・ユアン氏は「誰もが米金利上昇という嵐に見舞われている。嵐の中心に米ドル資産がある。周辺部の生活は苦しいのに、中心部はそよ風が吹き、陽光が降り注ぐ楽園だ」と話した。
株式と債券、直接投資の資金の流れを示す政府の金融収支統計によると、6月までの半年間の収支は1010億ドルの純流出で、今年は通年の流出額が2016年以降で最大となる勢い。
債券市場の月次データによると、外国人投資家の売買動向は8月まで7カ月連続で売り越しとなった。
確かに経常収支は黒字を維持しているし、株式は小幅ながら純流入となるなど、全ての資産で資金が流出しているわけではない。
しかし国際収支は「誤差脱漏」の区分が452億ドルと大規s模な純流出となっており、エコノミストの間には違法もしくはそれに近いルートで資金が流出していると疑う見方もある。
ナティクシスの首席アジアエコノミスト、アリシア・ガルシア・エレロ氏は「誤差脱漏は基本的に非公式な手段による居住者の資金流出を映している。外国の資産運用会社が中国に投資しなくなっただけでなく、統計で捕捉できない資金の流出が増えている。人々は資金を持ち出したいと思っている」と指摘する。
人民元は年初から対ドルで11%余り下落。諸外国が高騰するインフレを抑えるために急速な金融引き締めを行っているのに対して、中国は急減速する景気を支えるために貸出金利を引き下げている状況にある。住宅市場は急激に悪化し、若者の失業率は過去最高を記録している。
<逃避先を求めて>
外国人投資家に続いて国内の投資家も、資本規制下でできるだけ速く資金を持ち出そうとしているようだ。
中国本土と香港および海外市場を結ぶ「債券通(ボンドコネクト)」に基づく対外投資は8月末時点で計3015億元(420億ドル)と前月比34%増加し、3月から19倍に膨らんだ。
国内投資家に海外への投資を認める「適格国内機関投資家(QDII)」の特別枠の申し込みも1─8月に80%増加した。
HSBCが最近公表した調査によると、金融商品の相互投資制度「越境理財通(クロスボーダー・ウエルス・マネジメント・コネクト=WMC)」を通じて外国の金融商品に資金を投じている投資家の85%が、今後1年以内に投資を増やす計画だ。
<裏ルート>
統計で捕捉できない資金の流れを見つけるのは難しいし、「誤差脱漏」のデータは決定的とはいえない。新型コロナウイルス感染対策の渡航制限で資本規制が一段と強化され、資金の移動は非常に難しくなっている。
それでも移住は資金を移動させる口実になり得るし、仲介業者には留学に関する問い合わせが急増している。コンサルタント会社エデュケーション・インターナショナル・コーポレーションのデータによると、1─7月に香港の留学についての問い合わせが前年同期比で41.5%増えた。
富裕層の資産を管理する「ファミリーオフィス」も海外投資のハブになり得る。シンガポール金融管理局(MAS)によると、昨年シンガポールに新たに設立されたファミリーオフィスは約300件。シンガポールの中国語紙、聯合早報によると、シンガポールで今年1─4月に新設されたファミリーオフィスのうち香港、マカオ、広東省の投資家が占める比率は44%に上昇。昨年は通年で39%だった。
本土との往来が可能なマカオで保険商品を購入するのも人気の裏ルートとして注目されているという。こうした金融商品は通常米ドル建てとなっており、人民元安に対するヘッジ手段となる上、長期的な利回りにも魅力がある。
中国離れの理由としては、なかなか終わらないロックダウンや不動産市場の先行き不透明感も挙げられている。「決して人民元安だけが引き金ではない」と話すのは保険会社AIAの代理店で、香港と中国本土の往来が再び可能になれば、香港の金融商品に顧客が殺到すると見込んでいる。
(Georgina Lee記者、Summer Zhen記者)

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