宮本茂が語る『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』 マリオの生みの親はキャラクターの進化に何を思うのか

テーマパークや映画を手がけても、宮本茂氏はあくまで任天堂に注力している

宮本茂が語る『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』 マリオの生みの親はキャラクターの進化に何を思うのか
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任天堂で、誰もが知るキャラクターやビデオゲームを生み出してきた宮本茂氏。その仕事を始めた40年ほど前、宮本氏はしばしばウォルト・ディズニーと比較されていたが、彼自身はそれを好んでいなかった。だが2023年の今、任天堂はテーマパークを日米に作り、マリオを題材にしたアニメーション映画ももうすぐ公開される。任天堂の伝説的クリエイターである彼だが、ウォルト・ディズニーと比較されることを、今なら受け入れてくれるだろうか?

「いや、それはおこがましいです」。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の全米公開直前にIGNが行ったインタビューで、宮本氏はそう答えた。

だが当時、2人にはたしかに共通点があったのだ。ウォルト・ディズニーと宮本氏は両者とも大企業の顔であり、順風満帆にキャラクターを世界の誰もが知る存在へと押し上げていった。だが宮本氏はウォルト・ディズニーと並べられることに納得したことはなく、その理由としてディズニーのキャラクターがマリオよりも長年にわたり持続していることを挙げていた。彼はさらに、「企業の成功が1人のクリエイターのビジョンに還元される」という考え方にも異を唱える。

「僕と比べるのはとんでもない話ですけど、『ウォルト・ディズニーが全部を作っているわけではないが、ウォルト・ディズニーというブランドがある』ということには若い頃からすごく興味があって。だから任天堂というブランドを、どうやってみんなで作っていくか、ということにはすごく興味があったんですね。それが今、だいぶできてきて、任天堂にはたくさんのタレントがいて、いろんなキャラクターがいて、それを『任天堂という人』が作っているわけではないけれども、任天堂が作っているように見えてるというのには、けっこう近づけたかなと思います」

任天堂ブランドは今までにないほど成長を続けている。Wiiが2006年に発売された際は、リモコンの動きで操作するという革新性によってハードの販売記録を塗り替えることに成功した。次に発売されたWii Uはそこまでの成功を収めず、任天堂にも限界が出てきたという見方も当時はあった。だが次のハードNintendo Switchでまたしても大成功した任天堂は、2023年の今、ディズニーに近づいている企業である。2つのスーパー・ニンテンドー・ワールドがすでに開園し、今月には宮本氏の一番有名なキャラクターであるマリオのアニメ映画が公開される予定なのだから。

任天堂とイルミネーションが最初に接触したのは2014年。宮本氏は、映画を作るためには常にそれにふさわしい才能が必要だったのだと言う。「もともと、ゲームを映画化しませんかという話は何度もいろんな人からされていました。僕らがゲームで絵もお話も作ってるので、勘違いした人は『自分らで監督をしたらどうか』と、映画監督にはとても失礼なことを言うような人もいたんです(笑)」

今回の映画は、マリオというキャラクターを今までにない形で描き直している。その見た目は誰もが知っているだろうが、マリオのバックストーリーや性格といったものは深く設定されていなかった。しかし『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のマリオは行動的で野心的な人物であり、また同時に満たされない苦悩を持ち合わせてもいる。

とはいえもちろん、本作は壮大なビジュアルを誇り、みんなを笑わせるジョークがあり、スピード感のある楽しい物語の映画作品であるため、今回のマリオが持つ内面はあくまでサブテキストである。これまでのマリオは大人気アクションゲームの主人公として名高いキャラクターであって、自身の存在意義について考える現代人を映す鏡ではなかった。だがマリオがここまで人気を得た理由は、本当にゲーム内容のおもしろさだけなのだろうか。それだけで、世界でもトップクラスの有名キャラクターになったり、さらには物語映画の主人公になれたりするものだろうか?

「そうなんですよ。昔からそういうことはよく聞かれていて、結論は『マリオのゲームの仕組みがおもしろかったので、みんながマリオを自分のものとして覚えてくれた』っていうことに尽きると思っていた」と宮本氏は語る。

「そう言ってたんですけど、今回映画になってちゃんと動いているのを見ると、『こんなヒーローはゲームの都合からしか生まれないな』とあらためて思いました。だから、『ゲームの都合で生まれたすごくユニークなヒーロー』ができあがっているような気がして、そこはとてもうれしいです」

マリオがほかのキャラクターと一線を画するのは、彼がビデオゲームで操作するための主人公として創作された点だ。しかし今回、それを映画化することで、ジャンプやブロックの破壊といった動作のうちに埋もれていた、マリオのキャラクター性というものに日の目が当たることになった。映画ならではのキャラクター性は、イルミネーションが任天堂とパートナー関係となり、巧みにマリオの物語を作り上げた成果といえるだろう。

「イルミネーションでは、常にスタジオの技術力を向上させてきました。しかし今回の映画化における方法論としては、ゲームのために作られ、ファンに愛されてきた重要なデザインの要素を、真に尊重するという話になりました」と語るのは、イルミネーションのCEO・創設者であるクリス・メレダンドリ氏。「この目標を達成するには、細かい部分まで精密に表現する必要があります。たとえば映画でマリオやピーチ姫を見れば、おなじみの『マリオ』のキャラクターなのだと認識できるでしょう。ですがじっくり観察してみると、ドレスの非常に細かい模様や、折れた布によって影が見えるのも確認できます」

「このようにキャラクターを表現すれば、ゲームで見慣れた世界が、命を得たかのように実在感を持ったと観客は感じられます。原作の意匠自体を変えるというやり方もありますが、本作では原作を尊重したまま精密に描写することによって、実在感を出しています」

ハリウッドのスタジオはビデオゲームの映画化に対する意欲を高めているが、イルミネーションもまたそこへ名を連ねることになった。このトレンドについてメレダンドリ氏は、多くのスタジオがゲーム原作映画を作ろうとしてきたが、宮本氏にアプローチできたのはイルミネーションのみであると話す。

「ハリウッドでも、ビデオゲームに対する関心は以前からありましたね。ですが、ゲームのおもしろさを映画でうまく表現できるのかという懸念もつきものでした……昔はかなり苦戦していたと思います」とメレダンドリ氏は続ける。「我々は、非常に独特なアプローチをとりました。最初から、宮本さんと私自身、任天堂とイルミネーションで強固なパートナー関係を結び、そのうえで本作を作り上げたいと計画してきたのです」

宮本氏は任天堂のチームと同様、イルミネーションのクリエイティブな才能を称賛した。「関係していたアーティストの人たちが本当にマリオのゲームのファンであったり、僕らよりもマリオのことをよく知ってる人がいたりして、そういう人たちの手があったことで、マリオがより自然に作れたんだと思います」

任天堂とイルミネーション、そして宮本氏とメレダンドリ氏がパートナー関係を結んだ結果、マリオはビデオゲームの垣根を越え、複数の媒体で活躍するIPとして進化を遂げることができたのだ。

「期待してたというものではないんですけれども、やっぱり確実に進化を続けてるなと。映画になって初めてマリオというキャラクターが、あるレベルに進化したなと本当に実感しています」と宮本氏は言う。「マリオに限らず、任天堂っていろんなキャラクター、いろんなタレントを預かっているタレントエージェンシーのようなものだと僕はよく言っています。だからどのタレントをどの映画に、どのドラマに出すかみたいなことをやっていけたら、おもしろいと思っているんです。今回、このマリオの映画の中で、マリオに限らず、たくさんのキャラクターが人形からタレントに進化したなと思ってるので、楽しみに見ていただけたらうれしいなと思います」

クリエイター単独の力が成功につながる、という考え方には必ずしも賛同しない宮本氏だったが、メレダンドリ氏の考えは少し違うようだ。「クリエイターを欠いたスタジオが成功することは多くありませんでした。少なくとも1つの実例が思いつくのですが、ゲーム会社が自分でゲーム原作映画を作り、あまり成功しなかったこともありましたね。これはずっと昔の事例で、任天堂ではない企業の話です。ですがこういった事例について考えると、今回我々が任天堂と結んだようなパートナー関係は大事なのだと思います」

宮本氏と協力できるチャンスを逃す者はまずいない。「監督であるアーロン・ホーバスとマイケル・ジェレニックは、この映画に携わることができてすごく喜んでいました。それに脚本のマット・フォーゲルも……まあ、スタッフ全員ですね。宮本さんには、イルミネーションの全員が『マリオ』の映画を作りたがっています、とよく言ってましたよ」とメレダンドリ氏はユーモラスに話す。「スタジオ全体に与える影響も大きかったです。『マリオ』映画のため動いているスタッフもそうでないスタッフも、任天堂と宮本さんと一緒に働いているのだということで、イルミネーションのクリエイター全員がやる気に満ちていました。これも、実際に映画を見てもらえばわかることでしょう」

Shigeru Miyamoto at The Super Mario Bros. Movie premiere. Credit: GettyImages. Photo by Kayla Oaddams/WireImage.
『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』プレミアでの宮本氏。 Credit: GettyImages. Photo by Kayla Oaddams/WireImage.

宮本氏は、本当にエネルギッシュなクリエイターだ。他者と一緒に働くのが大好きで、宮本氏と一緒に働けてうれしくなる人間は大勢いる。「マリオ」になぞらえて言えば「スーパースター」のような人物だ。どうしてもウォルト・ディズニーと比較したくなってしまうが、やはり本人はそれを望まないようだ。

著名なゲームクリエイターから、今やテーマパークや映画のプロデューサーにまでなった宮本氏。だが、自身のキャリアをどのように振り返るか、と尋ねられると「マリオというキャラクターが残っていくってことが大事で、僕はべつに要らないのではないかと思うぐらいです」と答える。

「やっぱり本当に今、痛感しているのは、ユニバーサルのパークも映画も含めて、マリオを知って育ってきてくれた人たちが、いろいろなクリエイティブを持ち寄って、今また新しいものを作っている。これはコンピューター業界でもそうで、コンピューター業界の人たちって、ゲームのコンピューターをやってる人をちょっと馬鹿にしてたんですね。やっぱりIBMの、先端のコンピューターってのが一番だと。ところが、今やもうコンピューター業界の中にはゲームで育った人がいっぱいいて、みなさん同列なんですよ。みんな同じ、コンピューターを使ってる仲間という。そうなっていってることが僕はすごくうれしくて。べつに僕はどちらでもいいと思うんです(笑)」

※本記事はIGNの英語記事にもとづいて作成されています。

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