スーパーマリオブラザーズ ワンダー - レビュー

2Dマリオが遂げた驚くべき「進化」とそこに残る「呪い」

2Dマリオが遂げた驚くべき「進化」と変化へのわずかな躊躇『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』レビュー
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私は2Dアクションゲームが非常に好きなのだが、近年の2Dアクションの「スーパーマリオ」シリーズはマンネリとしか言いようがなかった。

2006年にニンテンドーDSで復活した『New スーパーマリオブラザーズ』は久々のクラシックな2Dアクションに喜んだが、続編はどれも似たようなものばかりであった。しかし、2023年10月20日に発売された『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』では「変化」を掲げているのだ。

遊んでみると、確かに本作は驚くべき進化を遂げている。そして同時に、まだ変化しきれていない箇所も見えてきた。

おさえておきたい「アクションゲームの変化」

『スーパーマリオブラザーズ』(1983)画像は『ファミリーコンピュータ Nintendo Switch Online』のもの。

本題の前にアクションゲームの流れについて軽く触れておこう。

そもそもアクションゲームのルーツはアーケードにあり、それゆえに作られたシステムがたくさん存在する。スコア・残機・制限時間はすべて、ゲームセンターのビデオゲームとして必要な機能だし、コインをたくさん入れてもらうために難易度も基本的に高かった。

しかし、家庭用ゲーム機が台頭してきてアクションゲームもそこに展開されるようになると、これらのシステムや性質は必ずしも必要ではなくなってくる。ゆえに、ゲーム作品としての方向性が徐々に変わっていくのだ。

これは2Dマリオも3Dマリオも同じである。1996年の『スーパーマリオ64』は明らかに「足場を乗り継いでゴールを目指すアクションゲーム」であったが、2017年の『スーパーマリオ オデッセイ』は「いろいろな能力を用いて世界を冒険するアドベンチャー寄りのアクションゲーム」になっている。

『ヨッシークラフトワールド』(2019)

『星のカービィ』が高難易度アクションへのアンチテーゼとして開発されたのは有名だし、2019年の『ヨッシークラフトワールド』は難易度が低いだけでなく世界を旅するようなツーリズム・アクションゲームと呼ぶべきものになっている。

つまり、アクションゲームは現代になるにつれ、演出やグラフィック表現を楽しむアドベンチャー寄りになっていくのである(もちろん物によってはそうではない硬派な作品もあるし、まったく違う方向の作品も存在する)。

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』もまたその流れを汲んでいる作品だ。ただし、本作は「アクションを楽しむゲーム」としての矜持を譲らない一面も持つ。

ゆるやかなマルチプレイとおしゃべりフラワーが冒険の空気を変える

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』のルールはシンプル。マリオたちを操作して右方向へ進み、ゴールを目指す2Dアクションゲームだ。

今回はマリオやルイージのみならず、デイジーやキノピコなど総勢12キャラクターを選択可能。基本性能は同じだが、ヨッシーおよびトッテンはダメージを受けない性質があるなど優遇措置もある。

新たなパワーアップも用意されている。ゾウになって鼻で敵を倒したり水を撒ける「ゾウフルーツ」、泡で敵を倒したり足場を作れる「アワフラワー」、地面に潜れる「ドリルキノコ」が今回の目玉だ。

パワーアップはどれも性能が良いうえに、きちんと差別化ができている。ゾウは基本性能が高く扱いやすく、アワは敵を倒しやすく、ドリルは潜って無敵になれるのが強みである。マリオはいつもタヌキだのネコだの突飛な変身をするが、プレイしてみれば見た目とアクションがとても噛み合っているのに納得できるのもいつものことだ。

なお、ヨッシーおよびトッテンはこれらのパワーアップを利用できない。ただしヨッシーは敵を食べたりふんばりジャンプが可能となっている。キャラクターに関しては、完全にプレイヤーの好みで使い分けていいだろう。

喋る花「おしゃべりフラワー」も新要素である。この花は実際にボイスありで喋る驚くべき存在で、さまざまな現象にリアクションをしてくれたり、時にヒントをくれたり、あるいはマリオたちをねぎらってくれる存在だ。

花が流暢に喋るうえにフランクなので面を食らうプレイヤーも少なくないだろうが、この花はちょうどいい塩梅にリアクションをしてくれる。目立ちはするが不快感を覚えることはなかったし、高いところから落ちたり火山でしおれていたりと、身体を張ってマリオたちの旅を盛り上げてくれるので好感を持てる。

ゾウに変身したデイジーやピーチはドロワーズ丸出しで、いろいろな意味で迫力がある。

当然ながらマルチプレイも存在する。今回は、ローカルで最大4人まで遊べる「おすそわけ」プレイのみならず、最大12人で遊ぶオンライン要素も用意されている。

おすそわけは従来のシステムと基本は変わらない。王冠がついているプレイヤーを中心にカメラが移動し、時に協力しあい、あるいは妨害しあうわちゃわちゃとしたゲームプレイが楽しめる。そう、“楽しいケンカ”になるアレだ。

キャラクターが画面外に行ってしまったりやられてしまった場合、タマシイとなって空を飛ぶことができる。このタマシイ状態で味方キャラクターに触れれば復活というシステムだ。なお、触れられないと残機がひとつ減ってしまう。

透明で表示されているのがインターネット越しのプレイヤー。

オンラインは世界のどこかのプレイヤーと自動でマッチングするほか、部屋を作りフレンドと遊ぶこともできる。こちらはおすそわけと異なり、互いに良い影響だけが与えられるような形となっている。

オンラインの場合は基本他者との当たり判定がないものの、姿は見えるし、タマシイ状態からの復活は可能になっている。また、本作はコースの任意の場所に「パネル」を設置することができ、これに触れることでもタマシイから復帰できる。

この“ゆるやかな繋がり”はゲームにかなり良い影響を与えている。アイテムを探すときにそれとなくヒントを出したり、アクションが難しい場所で助け合ったりと、見知らぬ誰かとの関係を感じられるようになっているだろう。ただし、オンラインの場合は稀にラグが起こるのがネックではある。

なお、フレンドと遊ぶ場合は各コースでレースもできるが、これはおまけでしかない。一部のレースコース以外はスタート地点が統一されないのでズルし放題で問題が多い。あくまで遊びの幅を少し増やす程度である。

インターネットでプレイしているとお互いに良い効果を与えることになるが、タマシイをあえて助けないなんていじわるはできる。

従来と同じくソファに座って友人・家族と騒ぎながら遊ぶのはもちろん、インターネット越しに多くのフレンドと一緒にも楽しめるようになった。ひとりで遊んでいてもインターネットに接続すれば世界中の誰かとふれあいが楽しめるようになっているし、おしゃべりフラワーも場を盛り上げてくれる。

あくまでおまけではあるが、軽い謎解きやちょっとしたボーナスステージも用意されており、バリエーションも豊かになっている。従来のオーソドックスな2Dアクションよりも、盛り上がる雰囲気が醸成されやすくなっただろう。

なお、筆者は2Dアクションに慣れている方だが、その場合クリアまで7時間程度、全コースクリアまで約9時間であった。差はあれど、おおむね10~15時間以内にはクリアできるだろう。ボリュームはアクションゲームとしては標準的である。

各種コースはどれもレベルデザインが高品質で、道に迷ったり意図を理解できないなんてことはまずないだろう。隠し要素もほどよいヒントが用意されているし、前述の謎解きなどの毛色の違うコースも、一息つけるよう適切な量が用意されている。ただし、高難易度のコースはごく一部だけだ。

救済としては優秀だが、上級者には物足りないバッジ

新要素はこれだけではない。自由に装着でき、アクションの性質を変える「バッジ」システムも重要なシステムだ。

「帽子パラシュート」をつければ空中でゆっくり降下できるようになるし、「つるショット」を使えば遠くの崖につるを投げて捕まることができる。このほかにも穴や溶岩に落ちてもやられない「復帰ジャンプ」など、全18種類が用意されている。

アクションゲームが苦手な人にとってバッジシステムは福音となるだろう。帽子パラシュートはかなり汎用性があるし、スタート時にスーパーキノコが出現するバッジをつければ安定性が格段に増すだろう。

バッジは道中のショップなどで購入できるほか、専用のコースを攻略することでも手に入る。なかには「達人」という分類のゲームの難易度が上がるバッジもあり、マリオが透明になったりダッシュが止まらなくなったりもする。

「しゃがみ大ジャンプ」のバッジを使用している様子。『スーパーマリオUSA』を思わせるアクションが可能になる。

このバッジシステムにはやや難点がある。前述のように不慣れな人を救済する要素にはなっているが、あまり上級者向けのシステムとはいえない。なぜなら、アクションゲームにおいてキャラクターの挙動はレベルデザインと密接に結びついているからだ。

バッジの性能を試す専用のコースは確かにバッジの特性を活かしたものになっているのだが、それ以外では特別なバッジのアクションが死ぬことがしばしばある。常にジャンプし続けるバッジは水中では無意味だし、つるショットは大して使えないコースも多いし、透明になるバッジはおすそわけプレイにおいて価値が発生しないこともある(前述のようにカメラ役は王冠のマークがつくからだ)。

結局、新しいバッジを手に入れたら直近のコースでいくつか使う、というのが基本となる。あるバッジを最終コースに持ち込むと……といった隠し要素はあるが、使い分ける必要性やいろいろなバッジを活用する楽しさは控えめだろう(もしくは、ものすごくやりこむ人だけがそれを見つけられる可能性がある)。

クリア後の要素も取りこぼしたアイテムの収集に寄っており、正直なところバッジでアクションの幅が大きく広がったとは言いがたい。一部のコースで多少の拡張性がある程度だろう。とはいえ、2Dアクションに不慣れな人にとっては間違いなく素晴らしい要素といえる。

2Dアクションの地味さをかき消し、プレイヤーに驚きを与える「ワンダー」

もうひとつ重要な新要素がある。それが「ワンダーフラワー」だ。これはコース中のどこかに隠れており、取得すると名前のとおりワンダーな出来事が起こるというものだ。

土管が尺取り虫のように動いたり、パックンフラワーが急に歌いだしたり、マリオたちが影の存在になって長く伸びたりする。前述のようにアクションゲームは演出重視のアドベンチャーに寄っていく傾向にあり、このワンダー要素もまさしくそのひとつだ。

マリオがトゲトゲのボールになってすべてを破壊し尽くすワンダー。効果音もボウリングのようで気持ちいい。

横スクロール2Dアクションは画面がどうしても地味になりがちである。キャラクターを小さく表現しておかねばならないし、敵やギミックの視認性も重要だ。ゆえにカメラが急に寄るようなダイナミックな動きがしづらいわけだが、ワンダーフラワーのおかげで画面全体に突飛な仕掛けを発動でき、プレイヤーに驚きを与えられるのである。

グラフィックといえば、本作はキャラクターのモーションにもこだわられている。マリオが土管に入るときは帽子を置き忘れそうになるし、敵の攻撃に巻き込まれそうになったクリボーは驚くリアクションをきちんととってくれる。マリオたちの表情が豊かになったのも、2Dアクションの地味さを打ち消してくれるだろう。

パックンフラワーが急に歌い出すワンダーもある。『スーパーマリオRPG』のCMを思わせるニクい演出だ。

サウンドは歴代シリーズのオマージュがかなり印象に残った。ボーナスステージではシリーズファンがニヤリとする音の仕掛けが用意されているし、とある中ボスを倒したときも聞き覚えのあるメロディが流れる。マリオファンであればあるほど嬉しいサウンドになっているだろう。

ワンダーフラワー取得時のふざけた雰囲気のBGMや、ゾウフルーツを取得したときのアレンジ変化などもアクションの移り変わりとかなりマッチしている。また、ワンダーにはサウンド関連のネタが多く、専用の曲までいくつか用意されている。

「疑問を抱くワンダー」と、変化しても残っている慣習

マリオたちがクリボーになる場面も。頭のパーツでなんとか元の姿が表現されている。

インターネットを介したマルチプレイやワンダーフラワーのおかげでかなり新鮮な体験ができる『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』だが、明確な不満もある。それは「2Dアクションとしての矜持を持ってしまっている」ところだ。あるいは「2Dアクションの呪い」と言うべきだろうか。

その問題はワンダーの物足りなさに現れる。いや、確かに本作のワンダーは楽しい。ハックンダンサーズが登場するコースでは、リズムに合わせてジャンプしつつ攻略するという新しい体験ができるし、大量のトッシン(サイのような敵)が突っ込んできてそれに乗って進むコースもかなり驚いた。

巨大ガボン像の攻撃を避け続けるワンダーも、インパクトがあるようでアクションゲームとしては並の発想である。

しかし、なかには微妙なものも多い。時間の流れが早くなったり遅くなったりするのは、確かに難易度は変わるが何がおもしろいのだろうか。ロングキラー(砲弾型の敵)に乗っていくワンダーは、前述のトッシンに乗って進むそれとほとんど変わらないではないか。

本作のワンダーは、アクションに関連するものがほとんどである。ドラゴンの背中に乗れるワンダーは要するに動く足場でしかないし、マグマを泳げるワンダーは水中と見た目が違うだけである。このように、ワンダーなのに従来のアクションゲームと大して変化がないように見えてしまうものもけっこう存在するのだ。

『星のカービィ Wii デラックス』(2023)

2Dアクションゲームにおける特殊演出は、ほかの作品にもっと優秀なものがある。たとえば『星のカービィ Wii』であれば、「ウルトラソード」で敵だけでなく大地を破壊したり大暴れした挙げ句、ラスボスにトドメを刺す重要な存在になっていたりする。

『ヨッシークラフトワールド』はより演出重視で、アクションゲームなのに途中でバス停に座ってバスを待つなんてものが用意されている。これは思い切った演出だが、のんびりした作風にぴったりだし、ビジュアルの魅力が強いので納得できるものに仕上がっている。

結局のところ、『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』は2Dアクションからアドベンチャー寄りに作風を変えようとしたが、まだ前者寄りなのである。

公式インタビューでは「8頭身リアルサイズの実写版マリオがBGMを鼻歌で歌いながら進む」アイデアがボツになったと語られているが、そのくらいの思い切った仕掛けを採用してもよかったのではないか。ましてや本作ではワンダーフラワーを無視することも可能なのだから。そう思ってしまうほど、ワンダーにはワンダーがまだ足りないのである。

クッパJr.のセリフは、そっくりそのままお返ししたい。もう何十年も同じような中ボスと戦っているので……。

アクション寄りの問題はもうひとつある。それはクッパJr.や戦艦といった「定番の中ボス」だ。クッパJr.はワンダーな戦法を仕掛けてくるものの、実際の戦い方は『スーパーマリオブラザーズ3』の「ブンブン」とほとんど変わらない。戦艦はボスもワンダーもワンパターンだ。このあたりもいい加減、変化してもよい頃合いだろう。

2Dマリオの新たな時代が到来したのは間違いない

私は本作のワンダーに「ワンダーさ」が足りないと考えているが、しかしそれでも『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』は優れた2Dアクションゲームである。

「スーパーマリオメーカー」シリーズを遊んだことがある人ならわかると思うが、無駄なく誘導の効いたコースデザインは見事の一言だ。新しいマルチプレイやおしゃべりフラワーのおかげで雰囲気もガラっと変わったし、各種パワーアップはどれも優秀で見どころがある。

ワンダーのおかげで単調な2Dアクションに大きな変化ができたし、バッジシステムもアクションゲームが不慣れな人への重要な手助けとなるだろう。グラフィックやサウンドも高品質で、バグなどの問題らしい問題も見当たらなかった。

気になるのは、過去の2Dマリオをまだ少し引きずっているところである。それは一部のオマージュだけでよい。「変化」の土台は十分に整ったので、次の作品で変わりきってほしいところだ。

長所

  • 2Dアクションとして非常に高品質
  • 優秀でインパクト大なパワーアップ
  • 驚きをもたらすワンダー
  • 救済要素として効果のあるバッジ
  • 遊びの幅が増えるマルチプレイ

短所

  • バッジは思いのほか制約が多い
  • ワンダーにはワンダーがまだ足りない

総評

『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』は、昨今の「アドベンチャー化する2Dアクション」の様式を取り入れた11年ぶりのシリーズ新作である。意外な展開が起こるワンダーフラワーや新たなマルチプレイにより、マンネリ化した「スーパーマリオ」シリーズの印象を一変させることに成功しているだろう。ただし、変化には少し躊躇が残っている。

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2Dマリオが遂げた驚くべき「進化」と変化へのわずかな躊躇『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』レビュー

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『スーパーマリオブラザーズ ワンダー』は、変化に少し躊躇が残っているものの、マンネリ化した「スーパーマリオ」シリーズの印象を一変させることに成功している。
スーパーマリオブラザーズ ワンダー
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