バビロン - レビュー

『ラ・ラ・ランド』を手がけた監督の最新作は壮大な惨事だ

映画『バビロン』レビュー 狂騒のハリウッド黄金期を描く挑戦は盛大な惨事に
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本稿は2023年2月10日より公開の映画『バビロン』のネタバレなしレビューです。


デイミアン・チャゼルの壮大な最新作『バビロン』では、ハリウッドという映画製作マシンに対する執着と反発が描かれている。映画産業の急成長の舞台となった1920年代のロサンゼルスは、華やかで、混沌としていて、けばけばしく、いやらしく……いくら言葉を尽くしても形容しきれない。『バビロン』はチャゼル版『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』といえる作品で、大金持ちの倒錯した乱痴気騒ぎや、古風な秘密のナイトクラブ、監督が完璧なショットを撮るまでスタッフをいくらでもこき使えるスタジオ、といったものを背景に語られる一大叙事詩だ。両刃の剣である「成功」の物語を通して、つらい悲劇、夢想者のコメディ、威勢のいい失敗が描かれる。しかし、それよりも何よりも、『バビロン』は、ブラスバンドがスイングする中で散らかってふくれ上がっていく大混乱になっているのだ。

『バビロン』では、トーキー(映像と音声が同期した映画)の幕開けという時代に生きるキャラクターたちの試練と苦難が時系列で描かれる。ジャック・コンラッド(ブラッド・ピット)はサイレント映画の大スターだが、トーキーのコツがつかめそうにない。ネリー・ラロイ(マーゴット・ロビー)は片田舎から出てきた新進女優で、これからあらゆる映画ポスターに登場する主演女優になるのは間違いない。マニー・トレス(ディエゴ・カルバ)はメキシコ出身の映画製作アシスタントで、プロデューサーの悪評を注視している。ご都合主義者タイプの人々、ありきたりではない人生を切望する彼らの声、名声に向かって駆け上がっていく彼らの姿……こういったものはこれまでにも観たことがあるだろう。今回はチャゼルがそれを語る番だ。彼は、地獄のような赤い照明に照らされた部屋での急降下から、ハリウッドの輝かしい神々が意識を失うオリンピア宮殿風の豪邸まで、ジャズ時代のアドベンチャーを作り上げる。

 
(C) 2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

映画が始まって1時間かそこらはかなりの勢いで進んでいき、ほとんどカーニバル状態だった予告編の印象そのままだ。チャゼルはギャスパー・ノエの『CLIMAX クライマックス』を思わせるめまぐるしさで、派手で下品な丘の上のパーティーへ観客をいざなう。映像は、タントラ風のリズムに合わせて身体をくねらせる裸のダンサーたち、有名人のお客とドラッグを過剰摂取した愛人がいる上階の部屋、なんとかごまかして中に入ろうと外で様子をうがかっているネリー、と一巡していく。これらを見ると、『バビロン』は1920年代の墜落した人々を次々に勢いよくパレードのように描く作品なのだろうと思える。つまり、あのハリウッドの魅力的なきらめきを、ということだ。チャゼルは、興奮をエレガンスとコカインのアドレナリンを融合させたものとして描き、富と名声に目がくらんだ人々がパーティーに明け暮れるようすに、あからさまなまでに性的な要素を加える。

その最初の1時間は、メインキャラクターを紹介し、ありえないほど大きなチャンスが湧き出るハリウッドというオアシスを理想的に見せる部分で、これはこの1年に公開された映画の中でも最も熱狂的な映像表現といえるだろう。けれども、残りの2時間でそれは変わっていってしまうのだ。

(C) 2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

『バビロン』の第1幕といえる部分の熱狂が冷めると、残念ながら、チャゼルのファンタジーの語り方にはまとまりがなくなっていく。キャラクターたちは、お互いの人生に出たり入ったりし、映画界に迫りつつある「トーキーの流行」に乗っかろうとしてみたり、自分は時代遅れだと感じたりする。俳優陣にはそれぞれ目を引くシーンがある。とにかく自己顕示に躍起なギャンブル中毒者を演じるマーゴット・ロビー、キャリアの終焉と対峙する俳優を演じるブラッド・ピット、そして、モラルが問われる人間としてのディエゴ・カルバ。しかし、多すぎるキャラクターをそれぞれきちんと描くには、この長さでも時間が足りない。

ジョヴァン・アデポが演じる才能ある黒人トランペッターのシドニー・パーマーや、リー・ジュン・リー演じるレディ・フェイ・ジュー(中国系アメリカ人女優のアンナ・メイ・ウォンがモデルになっていると思われる)などの脇役が、メインの3人と同じくらい重要人物になっているというのもその一因だろう。センセーショナルなジャーナリストのエリノア・セント・ジョン(ジーン・スマート)とジャックの3番目の妻でスノッブな舞台女優のエステル(キャサリン・ウォーターストン)も同様に見逃せない存在だ。撮影現場におけるレイシズムから人間性を失わせるような仕事まで、演技に関連した問題に本気で取り組まなければならない彼らのようすを通して、素晴らしい俳優たちがひとりずつ紹介されていく。だんだんと、行く末が最後まで描かれるキャラクターは何人いるかを当てるゲームのようになっていくのだ。

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これは残念なことだ。ゆらめくカメラの光が徐々に消えていくときにキャラクターの間にかいま見える、簡潔で美しいシーンもあるからだ。ジャックとジャーナリストのエリノアが対立するシーンでは、エリノアを演じるジーン・スマートのセリフ運びが素晴らしい。有名人に攻撃的な雑誌記事についての考えをぶつけるジャックに対し、エリノアが発したセリフは、浮き沈みのある役者という存在を描く本作のテーマを凝縮したような言葉である。

意識をもうろうとさせるドラッグのかすみが切れ、キャラクターが居心地悪く無防備になっているときは、チャゼルの脚本は最高だ。しかし、その最高な瞬間はそれほど多くは訪れない。この脚本には、キャラクターが悪循環に陥っていくさまを描くという大がかりな構想があるが、特にネリーとジャックについては、そのせいで存在が軽くなってしまっているように感じられる。なぜなら、同じようなハリウッドの没落の物語を、われわれは何十年にもわたって見てきているからだ。『バビロン』は、緻密な風刺と深い内省で3時間の上映時間を正当化しようとしている。このため、出来事が層状に重なると何か意味があるのではないかとも思わせるが、期待されていたその層は薄く、見たままで、特に意味をなすことはない。

(C) 2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

『バビロン』の物語がどんどん膨らむにつれて、チャゼルはその縫い目が裂けないよう必死にもがくことになる。このコンセプトなら、より長く、エピソードを区切ることのできるミニシリーズにするという選択肢もあったかもしれない。なぜなら本作を観ていると、それぞれのエピソードの始まりや終わりになりそうな一時停止のポイントが透けて見えるからだ。

ジャスティン・ハーウィッツの陽気な音楽はアカデミー賞に値し、時代ものの体裁で描かれるデカダンスは圧巻である。問題は、それにもかかわらず、本作がじゅうぶん練り上げられていないように感じられ、最後まで観るのが試練であるように思えることだ。それでも、壮大な戦闘シーンで刃物を避けるエキストラに向かって外国人監督たちが叫ぶところや、サマラ・ウィーヴィング演じるネリーのライバルが人気者になって気取って歩いてくるところ(完璧なシーンだ)では思わず声をあげて笑ってしまうはずだ。『バビロン』には、熱にうなされたどんちゃん騒ぎの中に失われてしまったおもしろさ以上のものもたくさんある。

(C) 2023 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

総評

デイミアン・チャゼルの『バビロン』は壮大なる惨事だ。この映画が今年一番のお気に入りだと言う人もいれば、悲惨で宿敵のような作品だと思う人もいるだろう。タランティーノを思わせる大胆さもあるが、群像劇の描き方としてはかなり手ぬるく、まとまりがない。『バビロン』は、ディストピア的なホラー作品に見える場面もあれば、ロマンティックなハリウッドのドタバタ劇になる場面もある。ハリウッドのステレオタイプをばかばかしいほど誇張するシーンもある(ただし、度を超えて時代遅れな言葉を笑いを誘うために使っていることにはいい気はしない)。残念ながら、騒がしい醜態、心に響く苦い体験、映画製作への敬愛、欠点からの学び、驚きの奇跡、といったさまざまなものをまとまりのある作品集のように見せることはできていない。チャゼルのスタイルとしてはこれまで一番巧みかもしれない。しかし、『バビロン』はチャゼル初の(野心的な)失敗といえるのではないだろうか。

※本記事はIGNの英語記事にもとづいて作成されています。

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バビロン

Marc Platt Prods. | 2023年2月10日

映画『バビロン』レビュー 狂騒のハリウッド黄金期を描く挑戦は盛大な惨事に

5
Mediocre
デイミアン・チャゼルの『バビロン』は、かつてのハリウッドを描く美しき大惨事だ。ファンタジーの語り方は悲惨なほどまとまりがなく、雑然と散らかって、ふくれあがったような作品となっている。
バビロン
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