リディー&スールのアトリエ 〜不思議な絵画の錬金術士〜 - レビュー

いい意味で変わらないアトリエは、より遊びやすく物語と錬金術に没頭できるようになった

3部作感動のフィナーレ!「リディー&スールのアトリエ ~不思議な絵画の錬金術士~」レビュー - リディー&スールのアトリエ 〜不思議な絵画の錬金術士〜
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不思議な本をテーマにした「ソフィーのアトリエ ~不思議な本の錬金術士~」、旅をテーマにした「フィリスのアトリエ ~不思議な旅の錬金術士~」に続き、錬金術で作られた不思議な絵画をテーマにした不思議シリーズ最終章。20周年記念作品となる本作は、PSプラットフォームでナンバリングされているアトリエシリーズ全体ではなんと19作品目で、3DS版ナンバーも含めると合計22作品ものタイトルがリリースされている超長寿シリーズだ。もしかしたら、「最もナンバリングが多いRPG」あたりでギネス記録が取れるのではないだろうか?

このシリーズで味わえるのは、まともな錬金術を行えない新米錬金術士が日々の努力で魔法使いの域にまで達する成長記。そして、ナンバーの変化で新しい錬金術士の成長記に加えて、新たに師匠となった旧主人公の親心にも似た弟子の成長を見守る心情も描かれる。そして最後には、これまで登場してきた主要キャラクターの結末や、すべての錬金術士が知恵を結集し伝説の域にまで達するような、3年がかりの壮大な物語だ。

本作では、前作主人公フィリスのライバルであり大親友のイルメリアに弟子入りすることになる。
本作では、前作主人公フィリスのライバルであり大親友のイルメリアに弟子入りすることになる。

しかしその本質は魔王や王国軍など強大な存在とのバトルがあるわけではなく、説明すると面倒くさいけどやってみると簡単で奥の深いアイテム合成「錬金術」を中心に、あくまで錬金術士の日常生活を主体としている。その世界観は、全シリーズを通して優しさで構築されており、名無しの子悪党すらほとんど出てこないような穏やかな世界が物語の舞台だ。

あくまで錬金術士の日常生活を主体としたゲーム

早速レビューに取りかかる前に、まずは一部(大半?)の読者に存在するであろうシリーズへの誤解を解くところから始めよう。その主人公のほとんどが美少女で、特に「アーランド」シリーズからは、目を輝かせた眩いばかりの可愛らしさ全開のキャラクターデザインになっているが、決して萌えに媚びたギャルゲーではない。若干そう言い切れない部分もあるにはあるが、意外と健全な物語となっている。

膨大に用意されたド直球でわかりやすいショートストーリーによる数の暴力

伏線やトリックなどが複雑に絡み合う深みのある物語ではなく、非常にシンプルな物語でわかりやすい。アニメでたとえるならば国民的アニメ「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」のように、余計なことは考えず純真無垢な気持ちでアトリエの世界を楽しんでいける。逆の見方をすると平凡とも言えるのだが、子供のいたずらから男女の四角関係などチョッピリ刺激的(?)なイベントなども織り交ぜて、膨大に用意されたド直球でわかりやすいショートストーリーによる数の暴力で圧倒しながらプレイヤー引き込んでいく。

「メタルギア」や「ファイナルファンタジー」シリーズのように、グラフィックやカメラワークなどの演出面もこりに凝ったものとはかけ離れており、正直シンプルすぎる面もある。それは、シリーズの大団円となる本作ですら「このキャラの結末はこれだけ?」とビックリすることもあるほどだ。

しかし、毎作かなり大量のエピソードを抱えており、それを1年ごとという今どきのRPGでは考えられないハイペースでシリーズ展開していることなどを総合的に考えると、今の演出のレベルが限界なんだろうとも思う。また、錬金術によるやり込み要素を楽しむ側面もあるため、全体的なバランスは悪くない。むしろ、RPGの本分のひとつであるストーリーを楽しませるという1点では、これ以上ないものに仕上がっている。

本作では、キャラクターのちょっとした暗黒面を垣間見るイベントも多くなった。
本作では、キャラクターのちょっとした暗黒面を垣間見るイベントも多くなった。
フラグの発生はマップに表示されるので、イベントを回収しやすく総イベント量を多く感じるのだろう

しかも、大半のイベント発生は複雑な管理をする必要とせずポンポンとフラグが立っていく。章立てで進行するメインストーリーの冒頭でイベント量が多く重なることが多く、ありがちな「お使い系イベント」も少ないため、全てのイベントを見て回っていくと5分のショートアニメを30分~1時間ほど連続で見るような感覚になるほどだ。こうしたイベント量もシリーズの売りのひとつだが、前作のレビューでは拠点となるテントで止まることなく連鎖的に発生しつづけたイベントに対して指摘したほどだったが、今回のイベントの総量はさらに上回っているように感じる。

おそらく感じるだけで、イベント量はあまり変わらないと思う。ほとんどのイベントは街中で発生するのだが、フラグの発生はマップに表示されるので、イベントを回収しやすく総イベント量を多く感じるのだろう。また、発生するイベントの種類も見分けられるため、「とりあえずサブイベントを一気に楽しんでから、メインを進めよう!」といったプレイも可能だ。旅をテーマとした前作などを除き、伝統的に採用されてきた双六風のマップも廃止されているので、好きな場所へ一瞬で移動できるなど、全体的にゲームの進行におけるテンポを意識したゲームデザインに進化している。

イベントの発生場所を一目で確認できるので、イベントの取りこぼしは発生しづらい。
イベントの発生場所を一目で確認できるので、イベントの取りこぼしは発生しづらい。
資金源にもなっている掲示板の依頼はキャラクターからの依頼も混ざっており、イベントのフラグにもなっていることもあるため、ここだけ注意が必要だ。
資金源にもなっている掲示板の依頼はキャラクターからの依頼も混ざっており、イベントのフラグにもなっていることもあるため、ここだけ注意が必要だ。

そのハイテンポに水を差しているのが、今回の錬金術(合成)だ。素材の属性(色)をパネルに合わせて合成すれば、大体いいものが作れるという直感的にわかりやすいシステムがベースとなっている。これは不思議シリーズからのお馴染みで成熟したシステムで、特に本格的な素材を揃えられるタイミングで、素材の特性を掛け合わせながら、徐々に超強力なアイテムを生み出していく過程は相変わらず楽しいが、その時点での最大限のアイテムを作ろうとすると一気に面倒になる。

難易度というかシリーズ屈指の手間がかかる合成になっている

素材の色を変化させる「活性化アイテム」、素材を配置するパネルを変化させる「触媒」、そのパネルに設置されている「ボーナスパネル」とそれらを上手く組み合わせる必要があるのだが、「活性化アイテム」と「触媒」はアイテムを消費するため下準備が少し面倒で、そこからさらに最適な組み合わせを見つけるのも難しかったりして、難易度というかシリーズ屈指の手間がかかる合成になっている。

合成はストーリーを進行させるうえでの課題のひとつになっており、ただ合成するだけなら何ら難しくはないので適当でも問題ないが、それでは本作の楽しみを放棄することになる。さらに手持ちの活性剤の種類が合成画面以外でわかりづらく、採取にアトリエから一歩外に出ると何が足りないのか一切わからない問題もある。せめて素材を変化させる「活性化アイテム」の大半を店頭で購入できるようにするなど、もう少し下準備の敷居を下げてほしかったところだ。

物語の終盤はある程度楽になるため、それまで錬金術は軽くこなしていくだけでもいいが、適度に錬金術を繰り返し連勤レベルを上げたいもどかしさもある。
物語の終盤はある程度楽になるため、それまで錬金術は軽くこなしていくだけでもいいが、適度に錬金術を繰り返し練金レベルを上げたいもどかしさもある。

そして、イベントや合成をこなしながら目指す目的は、錬金術で作られて描かれた世界を探索できる「不思議な絵画」の世界を探索しながら、アトリエを国1番にすることだ。その流れは「野望ノート」に書かれている多くの課題をクリアしながらアトリエの知名度を上げて、アトリエのランクを上げる試験を受ける資格を得てから、満を持して試験をクリアすることでアトリエのランクが上がっていく。

「とりあえず課題を高評価でクリアすればいいかな」という感じで、消化試合になっているのはもったいない

試験中にはライバル対決というのがストーリーに盛り込まれているのだが、その結末はほぼ固定で張り合いというものが一切ないため、「とりあえず課題を高評価でクリアすればいいかな」という感じで、消化試合になっているのはもったいない。試験内容自体はあくまでどこまで行っても試験であり対決には即していない。それならば「一定期間内に課題をクリアする!」という方向で勝負を織り込んでも良かっただろう。

ただそれだと時間に追われない伸び伸びとしたプレイが不可能になり、息苦しくなる仕様になるためバランスがなかなか難しい。歴代アトリエの中ではプレイ期間の制限を設けているシリーズが多いのだが、プレイするうえでの息苦しさに繋がり嫌われている仕様でもある。ただ自由度が高すぎても張り合いがなくなるため、「一部のストーリーで制限時間」のようなハイブリッド仕様でもよかっただろう。

不思議な絵の世界は独特のエフェクトで演出され、幻想的で美しい景色が広がる。
不思議な絵の世界は独特のエフェクトで演出され、幻想的で美しい景色が広がる。
ストーリーを引き立てるのはもちろん、旧キャラクターの永きにわたるエピソードの結末も描かれたりもする

そんな物語を彩るのは、新キャラクターはもちろんだが不思議シリーズに登場するキャラクターの面々で、その比率が高いためイベントも自然と従来キャラにまつわるものが多くなっている。シリーズ初プレイヤーにとってはシリーズの全体の理解度が深まり、一方で経験者は各キャラクターの後日談として楽しめる構成になっており、ストーリーを引き立てるのはもちろん、旧キャラクターの永きにわたるエピソードの結末も描かれたりもする。

それらは素晴らしいには素晴らしいのだが、従来キャラの比率が高すぎる面もある。結果的に新キャラクターによるイベントが少なく感じ、過去に見たことがあるようなニュアンスのイベントが多くなってしまっている。多くのキャラクターのフィナーレを最終作に盛りすぎていることもあり、不思議シリーズ3作を連続でプレイしているとさすがにマンネリ感をそこはかとなく感じる部分があるのだ。厳しめの意見だと思うが、すべてのシリーズが「日常」を共通のテーマにストーリー構築しているため、なおさら同じように感じやすいイベントになりやすいのだろう。

加えて旧作でプレイアブルで本作にも登場する8名のキャラのうち、本作で実際に仲間になるのはソフィーとフィリスの2名だけ。さらにこれまでのシリーズだったら仲間になっていたであろう個性的な新キャラクターも仲間にならず、パーティーメンバーも旧シリーズより少ない6名と、シリーズ経験者であればあるほど色々と物足りなさを感じる部分が多くなっている。特にソフィー&プラフタ、フィリス&リアーネ(フィリス姉)のコンビで仲間にならないのは違和感すら覚える。

ストーリー上欠かせないキャラクターが多いので、旧作からの登場が多いのはいいのだが、それならそれで仲間にしたかった。
ストーリー上欠かせないキャラクターが多いので、旧作からの登場が多いのはいいのだが、それならそれで仲間にしたかった。

6人のパーティーで行う戦闘は、敵に対して行動を遅らせるデバフを続ければ「永遠に俺のターン!」のように戦える、シリーズ伝統の行動順によるバトルだ。今回は前衛3名が主力として直接戦闘を行い、後衛の3名が前衛をサポートする、パーティーの組み立てからの戦略が重要なコンビネーションバトル。支援による属性のコンビ攻撃が決まれば多大なダメージを与えたり、バフによる支援や回復を受けられるが、パーティーメンバー中5人が錬金術士のため序盤は特に個性を感じづらい。

とりあえず強力なアイテムを合成してポンポン投げるパワープレーに陥りやすい

スールは銃やスキルを使った戦闘が得意で、フィリスはスキルの範囲攻撃を得意とするなど同じ錬金術士でも違いは大きいのだが、強力な装備が整うゲーム終盤まで有効なキャラクターの使い分けが難しい。特に装備の影響が強い新キャラクターのアルトに至っては、強力な装備を用意してやらないとお荷物になりやすいなど、全体的に気むずかしさが少しある。また「錬金術士はやっぱり道具で攻撃だよね」といったイメージで、とりあえず強力なアイテムを合成してポンポン投げるパワープレーに陥りやすい。

ちょっと感じづらいが、せっかくキャラクターごとに個性があるのだから、例えばスールの場合「銃とスキルを使った戦闘は、素早く行動ができて大好き」といった感じでチュートリアルやストーリーに織り交ぜて、キャラクターの個性をプレイヤーに気づかせるような説明や誘導が必要だっただろう。しかし、システムを深く理解してキャラクターを使いこなせるようになると、テンポのいいアクションからのど派手な合体攻撃「コンビネーションアーツ」などで、気持ちのいい戦闘をこなしていける。

特にフィリスは最初から扱いやすく、後衛でも瞬間的な大ダメージを一番出せるため、パーティーの大黒柱として大車輪の活躍をする。
特にフィリスは最初から扱いやすく、後衛でも瞬間的な大ダメージを一番出せるため、パーティーの大黒柱として大車輪の活躍をする。

そんな不思議シリーズ最終章にしてアトリエシリーズ19作品目の今作では、窮地に陥るベタな展開からの盛り上がりや感動のストーリーに、ときおりアトリエシリーズらしさをかなぐり捨てた演出も織り交ぜながら楽しませてくれる。また、シリーズものだが基本的に新規プレイヤーも十分楽しめる内容になっているので安心してほしい。念を押すが新規ファンも問題なく楽しめる。しかし、シリーズの重要キャラクターのファイナルエピソードや、シリーズファンは昇天しかねないご褒美イベントの数々も用意され、本作は間違いなく1~2作目からのファンのために用意された極上のフィナーレだ。

非常に穏やかな性格のソフィーだが珍しく超本気でマジギレするなど、多くのキャラクターの様々な一面も明らかになる。
非常に穏やかな性格のソフィーだが珍しく超本気でマジギレするなど、多くのキャラクターの様々な一面も明らかになる。
次回で20作品目となるアトリエだが、それに向けてひとつだけ釘を刺したいことがある。それは肌の露出が激しいキャラクターの衣装だ

そして次回で20作品目となるアトリエだが、それに向けてひとつだけ釘を刺したいことがある。それは肌の露出が激しいキャラクターの衣装だ。ぶっちゃけ筆者はギャルゲーは主食と言えるほど好物で過激な衣装もウエルカムだが、穏やかな日常を描くアトリエにまでそれを望んではいない。それは個人的な意見などではなく、古参ファンほどそういった意見が多くなるだろう。筆者の場合、プラフタの登場から既に違和感を感じていたのだが(キャラクターは大好き)、本作のリディーの脇腹の辺りが大きく開いた金太郎のような衣装は流石に過激すぎる。

もちろん過激な衣装を好むファンの存在をないがしろにしてはいけないが、そういった衣装は追加衣装や着替え衣装に任せて、せめて主人公のデフォルト衣装は、ソフィーのようにほとんど露出のない落ち着いたものに戻してもらえたらと思う。

長所

  • 膨大なイベントと、そのほとんどを堪能できるシステム
  • イベント量を感じさせないゲームの進行速度
  • 積み重ねてきたストーリーによるファンへのフィナーレ
  • 新規プレイヤーもないがしろにしないストーリー構成

短所

  • 序盤で感じづらいキャラクターの個性(戦闘性能)
  • ゲームのテンポを打ち消す錬金術の手間
  • 発生しやすい処理落ち
  • 露出が多すぎる一部キャラクターの衣装

総評

様々な試みを導入しているが良くも悪くもアトリエだ。膨大なイベントは不思議シリーズファンへのご褒美が満載だが、新規プレイヤーへの配慮も忘れていない。そのイベントはテンポよく消化できるが、錬金術の手間がテンポのよさをすべて打ち消し、旧作と比べての仲間の少なさもあり戦闘は地味と勘違いしやすいため、総じて物足りなさが目立つ。しかし数多く用意された感動フィナーレが、プレイヤーの不満をすべて吹き飛ばしてくれるだろう。

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3部作感動のフィナーレ!「リディー&スールのアトリエ ~不思議な絵画の錬金術士~」レビュー

7.9
Good
良くも悪くもアトリエシリーズといった趣でファンサービスを入れつつも、新規プレイヤーへの配慮も十分にある。物足りなさが先行する側面もあるが、3部作を締めくくるにふさわしい感動のフィーナーレは、それらの不満をすべて吹き飛ばしてくれるだろう。
リディー&スールのアトリエ 〜不思議な絵画の錬金術士〜
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