Google Cloudのライブサービスゲームをターゲットにした取り組み

Jack Buser氏
Google Cloudのライブサービスゲームをターゲットにした取り組み
 2023年4月13日,都内でGoogle Cloudによるゲーム業界向けソリューションと取り組みに関するグループインタビューが開催された。対応してくれたのは,同社ゲーム業界ソリューション担当ディレクターJack Buser氏だ。

 Google Cloudというと,GCP(Google Cloud Platform)として知られるクラウドサーバーを扱う会社だが,氏はゲーム業界で25年の経歴を持つゲーム畑の人物だ。Googleに入る前はSIEでPlayStation Nowなどを担当しており,Google入社後はStadiaで10番めの社員だったという。ゲームストリーミングサービスについては第一人者と言える経歴だろう。

 さて今回紹介されたのは,ゲーム業界向けという括りの中でも,ライブサービスゲームをターゲットにした取り組みについてだった。

 その中でGoogle Cloudが新しく導入したライブサービスゲーム向けのエコシステムの紹介されたが,分かる人向けに簡単に書くと,ゲームのライブサービスで使うと便利なCloud Spannerなどの提供を始めたというものである。

Google Cloudのライブサービスゲームをターゲットにした取り組み

 現在ゲーム業界はライブサービスゲームに向けて舵を切っており,同社ではそれをサポートするために新たな取り組みを行うことになったのだという。ただし,これらのサービスは日本では導入済みなものであり,日本企業の要望で先行して導入されていたものを全世界で展開することになったというのが今回の発表内容であった。ということで,日本のゲーム企業にとっては新規性の薄いニュースかもしれない。

 この説明だけで分かる人は「ふーん」とでも思ってもらって,これ以上読み進める必要はない。ネットワークやクラウドと言われてもよく分からないという人のために,少し噛み砕いて現状のゲーム業界を取り巻くネットワークの動向を説明していこう。

 まず,ライブサービスゲームとはなにか? これは日本ではほとんど使われていない言葉だろう。伝統的な流れからはオンラインゲームとほぼ同義だと思ってよさそうなのだが,単にネットワークを使うゲームではなく,「ライブサービス」という名前のとおり,サービスが長期間にわたって行われるタイプのゲームである。つまり,発売後(サービス開始後)も継続的に新規コンテンツが追加されていく,長期運営型のゲームであるということだ。

 たとえばBattle.netが提供されているDiablo IIはオンライン要素はあってもライブサービスゲームではないが,年4回の新コンテンツ追加がコミットされているDiabloIVはライブサービスゲームだと言える。
 典型的なものについて言えば,サービスとマネタイズは同時に行われ,継続的に収益を得るタイプのものが多い。

 Buser氏は,Googleがこのようなライブサービスゲームに特化したエコシステムを作るに至った理由としての観点を3つ挙げていた。

 まず,誰でもプレイできるという点だ。昨今ではスマホは世界で37億人と誰でも使うようになっており,通話してメールしてその次にはゲームを立ち上げると言われるくらいにゲームが浸透している。そして,モバイルゲームはごく一部の売り切りなどを除けば,ほぼライブサービスゲームでできた市場だといっていい。

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 こういったモバイルゲームは,多くの人にとって最初のゲームプラットフォームとなっており,そこからPCやコンシューマゲームに移行したとしても,モバイルであったようなライブサービスゲームが自然と期待されるようになっているのだという。

 2点めとしては,すでに市場にあるゲームのトップ10はライブサービスゲームになっていることが挙げられた。これはPCやモバイルでの話だが,将来的にはコンシューマゲームもそうなるだろうと氏は語っていた。実際,現状のコンシューマゲームでもプレイタイムでトップ10を取ると,すべてライブサービスゲームになるのだそうだ。
 3点めは,2027年までにゲームのプレイヤー数が世界で4億人増加するという試算が行われているという事実だ。これらの新しいプレイヤーは,これまでのゲーマーとは少し性格が異なり,そのうちの半数は同じゲームを複数のプラットフォームでプレイしていくだろうと見込まれているという。ゲームをいつでもどこでもプレイできるような時代がやってくるのだ。これがどのようにライブサービスゲームに有利になるのかは明言されていなかったが,このトレンドを生かすためには,もの凄い規模でライブサービスゲームを展開していかなければならないのだと氏は主張していた。複数のプラットフォームで同じゲームのパッケージを買うよりも,サービス自体の料金で運営されるゲームのほうがマルチプラットフォームに向いているなどといった理由だと思われる。

 そういった需要を支えるために,ゲーム会社からGoogleに支援を求める声が高まっているのだそうだ。これは,ライブサービスゲームを作るにはゲームデザインに多大な投資が必要であり,ゲーム制作以外の負担を減らしたいと考えるところが多いためとのこと。ご存じのようにGoogleはライブサービスを生業とする会社だ。億単位のユーザーを抱えるライブサービスを多数展開している。そのための技術やノウハウも持ち合わせている。それはゲームでも同様に使えるものである。つまり餅は餅屋というわけだ。

 今回Google Cloudから発表があったのは,そういったライブサービスゲーム向けのエコシステムをまとめて提供するというものであった。これまでもゲーム向けの案件はあったであろうが,あえてライブサービスにフォーカスしたソリューションをまとめたということのようだ。

 こういったゲームは,接続人数が大きく変動する可能性が高い。とくにコンテンツの新規追加時などはトラフィックが一時的に増大するのが特徴である。負荷変動の激しいライブサービスゲームではクラウドを使うのが最適である。なぜなら,クラウドであれば,一時的にサーバーの台数を増やすといった対応が柔軟にできるからだ。

 では,多くのクラウド業者が鎬を削る中で,Google Cloudが提案するエコシステムの特徴はどこにあるのだろうか。普通に考えると可用性の高さが最初に挙げられそうなものだが,Buser氏はゲーム会社を支える3つの分野を挙げた。

 まず,ゲーム会社はオンラインゲームなどでこういった分野関わってきていないわけではなかった。昔からそういった需要はあったのだ。ただし,かなり初期の段階から展開されていたようなゲームでは,ゲームを構成する技術自体が非常に古くなっており,セキュリティや,大量のユーザーを捌くといった点で課題を抱えている。さらに,技術が古すぎて若いエンジニアでは手に負えず,人材の面でも苦境に立っているのだという。これをGoogle Cloudエンジンに置き換えることにより,セキュリティ,スケーラビリティ,そして最新技術に対応できる人材の面など多くの問題を解決できる。

 古いゲームシステムを最新のクラウドで置き換えることは大変チャレンジングなことのようだが,Googleには難しい課題を大歓迎する技術者が揃っているので安心して任せてくれとBuser氏は笑っていた。

Google Cloudのライブサービスゲームをターゲットにした取り組み

 2つめはデータベースだ。現在では毎月のようにライブサービスゲームが登場しているが,トラブルに見舞われるものも少なくない。メンテナンスでダウンタイムが発生したり,新規ユーザーが登録できなくなったりすることもある。こういった問題の多くは,レガシーのデータベース技術を採用したことによって引き起こされているものだと氏は指摘していた。旧式のデータベースでは短期間に急増するユーザーを支えるだけのスケーラビリティを持っておらず,人気ゲームであればあるほど問題が発生しやすくなる。

 実は,この問題にいち早く気づいて「Cloud Spannerを使えないか?」と問い合わせてきたのは日本のゲーム企業だったという。Cloud Spannerは,比較的負荷に弱いと言われるデータベース周りで,柔軟なスケーラビリティを持ち,タフな用途にも耐えられるクラウドベースのデータベースシステムである。「Cloud Spanner」でGoogle検索をしてみれば「高いけどスゴイ!」というのがすぐ見つかることからも察せられるように,非常によくできたデータベースだ。負荷が高くなれば自動的にシャーディングが行われるので,ユーザーが急増しても手間なく処理ができる。機能や性能的には文句を付けるところはないだろう。はっきり言ってこれはGoogle自体の基幹システムそのものなのだから,堅牢で高性能なのは当たり前ではあるのだ。

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 Cloud Spannerは日本ではかなり人気を博しているが,大勢のユーザーが集中するような状況でもトラブルを起こしたことは一度もないのだという。そして,日本ではすでに提供されているものではあるが,これを世界的に提供していくというのが今回の発表の軸になるものとなっている。

 3つめはデータ分析だ。多くの企業はゲームの中がどのような状況になっているのか把握することが困難になっているという。そこでGoogleに支援を求める声が出てくるわけだ。Googleはデータ分析をも得意としている企業である。

 そこで提供されているのがGoogle自身も使っているBigQueryだ。これを使うことで,膨大な情報を簡単に処理できるようになり,ゲーム内の状況を把握することが容易にできるようになる。

 BigQuery自体は従来のGCPでも提供されていたものではあるが,AI機能なども用意されていてビッグデータを扱う際に強力なツールであることは間違いない。多くのゲーム企業で,一般の社員にBigQueryの使い方を教えており,運営しているゲームではにが起きているのかを的確に把握できるようにすることで,従来のゲームを作って売るだけの企業からライブサービスゲーム企業への移行を促す動きも見られるという。

 これらの3つの分野以外にも,多彩なユースケースに対応できるようにGoogle Cloudでは協力企業のサービスとも連携を強めている。
 そのうちの1社であるUbitusは,ゲームストリーミングを行う企業として知られる台湾企業だ。過去にはドコモと協業でクラウドゲームを提供したり,日本,中国,韓国などアジア圏を中心にサービスを展開していたりした。それがGoogle Cloudでも利用可能になるというわけだ。これにより,ゲーム機能を持たないケーブルテレビや極めて性能の低いスマホなどでも高品質なゲームを提供できるようになり,「いつでもどこでも」ゲームができる環境がいっそう広がることになるだろう。

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 会場では,ストリーミングだと,Stadiaはどうだったんだといった突っ込んだ質問も行われたが,ゲームプラットフォームを作る側ではなく,それを支援する側に立たなければいけないのだというのがStadiaの教訓だったと氏は語っていた。

 同社のクラウドを使用している事例としては,まずバンダイナムコが紹介された。同社はCloud Spannerを導入することによって,運営が非常に簡単になり,超低レイテンシよってトップレベルの体験を全世界数百万人のユーザーに問題なく提供できるなったとコメントしている。

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 もう1つの事例,Wright Flyer Studiosでは,ゲームのスケールインとスケールアウトがまったく問題なく行えているという。クラウドサービスによっては,急需要に対して迅速に並列化を展開することはできても,それを縮小するときには多少手間がかかるものもあるのだが,そういったことがダウンタイムもなく自在にできる点などが評価されていた。また,同社ではGKE(Google Kubernetes Engine)によるコンテナ化も行われているほか,BigQueryによるログ分析も活用されており,トータルにGoogleのエコシステムが活用されている。

 さらに任天堂がSwitchのためのライブサービスプラットフォームとしてGKEとCloud Spannerを採用することが明かされ,非常に嬉しく思っていると氏は語っていた。

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 Kubernetesという単語を聞きなれない人のために少し説明しておこう。
 クラウドでは,多くの場合,仮想化されたサーバー上でサービスを動かしている。サーバーが十分な台数あるのなら仮想化しなくてもよさそうだと思う人もいるかもしれないが,サーバーが十分にあっても積極的に仮想化を行うのがクラウドというものだ。なぜかというと,直接的なサーバーハードウェアで実行するよりも有利な点が多々あるためだ。

 たとえば,サーバーを大量に増やしたいといった場合に物理サーバーだと設置台数には物理的な上限がある。それ以上を望むならデータセンターのラックに新しいハードを設置してセットアップする作業が必要なのに対し,仮想的なサーバーであれば物理サーバー以上の台数であってもソフトウェアの処理だけで済む。また,仮想化のレイヤーを介しているのでセキュリティ的にも強くなる。ここで仮想化を行うソフトウェアをハイパーバイザと呼ぶ。

 仮想化されたサーバーは個別のサーバーとして設定されており,個別にOSを立ち上げて個別にアプリを実行する。それが基本ではあるのだが,なにか新しいアプリを立ち上げるときにいちいち仮想化を行うのは負荷が高いという考え方もある。物理サーバーよりは楽ではあるものの,仮想サーバーのセットアップにもそれなりに手間とリソースはかかるのだ。

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 そこで,もっと軽い仮想化っぽいものをOSレベルで実現できないかとして出てきたのがコンテナ化という考え方だ。アプリの実行に必要なリソースをまとめておいて,そこだけほかの処理から切り離すような方式である。それを行う管理ソフトウェアの代表格となるのが,Googleが開発したKubernetesというものである。

 詳細は省略するが,低負荷でたくさんのサービスを管理できるのがコンテナ化で,それを使う際のハイパーバイザ的なソフトがKubernetesだと思っておけばいいだろう。クラウドを最大限に活用したいなら選択肢に入れるべき項目だ。当然ながら,GoogleはKubernetesの活用に最も秀でた企業である。

 クラウド事業者にはそれぞれのサービスや得意分野などの特徴もあるので一概にどこがいいとは言えない面もある。すでに他社のクラウドを使っているところが移行する価値があるかどうかはともかく,これまでライブサービスゲームなどは扱っていなかったところであれば,できるだけ楽に始める選択肢としてGoogle Cloudを考えてみるのもよいだろう。サービス基盤の安定性とGoogleのライブサービスに関するノウハウは世界一と言っていいのだから。

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「Google Cloud」公式サイト