ドラム(1)―アート・ブレイキー、フィリー・ジョー・ジョーンズ
楽器ごとに代表的アーティストを紹介するとして、先ずヴォーカルを取り上げたが、さて次は何を――と考えた時、初めに頭に浮かんだのは、やはり表に立つトランペット、サックスなどだった。
演奏形態に関する記事などにおける視聴曲などでも、名前を挙げたのはほとんどこれらのプレイヤーであるし、早めに名前と楽器との繋がりを付ける意味でも、それが本筋かもしれない。
しかし一方、ジャズを土台として支える、リズム・セクションから始めるのも、これはこれで有意義に違いない。
で、少々悩んだ末、後者を採ることにした。
ドラムは、ご承知のとおりリズムを生み出すもっとも重要な楽器だが、この縁の下の力持ち的な性格から、ドラマーが表舞台に登場することはそれほど多くはない。
そんな中、アート・ブレイキー(Art Blakey、1919年10月11日-1990年10月16日)は、多彩な奏法を駆使して強烈に自己を主張したユニークなドラマーだ。
そのテクニックとしては、「ナイアガラ・ロール」と呼ばれる高速スティッキングによる連打、ドラムのヘッド(膜)ではなくリム(縁)を打つリム・ショット、スネア・ドラムのヘッドに肘をつき、その位置を変えることにより音階を移行させるグリッサンド奏法などなど。
1940年代後半からチャーリー・パーカー(Charlie Parker)、セロニアス・モンク(Thelonious Monk)、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)などとのセッションを重ねて自らの音楽に磨きをかけた後、「ジャズの使者」を意味する「ジャズ・メッセンジャーズ(Jazz Messengers)」を結成。
そのメンバーはブレイキーを除いて頻繁に入れ替わったが、ここから巣立ったアーティストはいずれも華々しい活躍を見せ、彼の名伯楽ぶりを物語っている。
試みにそれらアーティストの名前を挙げると、クリフォード・ブラウン(Clifford Brown, tp)、ルー・ドナルドソン(Lou Donaldson, as)、ホレス・シルヴァー(Horace Silver, p)、ジャッキー・マクリーン(Jackie McLean, as)、ベニー・ゴルソン(Benny Golson, ts)、リー・モーガン(Lee Morgan, tp)、ボビー・ティモンズ(Bobby Timmons, p)……
ここではメッセンジャーズ結成の約一年前に行われ、「ハードバップが誕生した夜」と言われるライブ演奏をお聴き頂こう。
続いて、フィリー・ジョー・ジョーンズ(Pillie Joe Jones、1923年7月15日-1985年8月30日)。
本名は「Joseph Rudolph Jones」だが、カウント・ベイシー(Count Basie)楽団で活躍した先輩のジョー・ジョーンズと混同されないよう、出身地のフィラデルフィアの略称"Pillie"を付したという。
フィリー・ジョーもブレイキー同様、ドラムを強くたたくハード・ヒッターであり、豊かな技量、多彩な技法を駆使してモダン・ジャズのドラミングに多大な影響を与えた点も共通している。
特に、レッド・ガーランド(Red Garland, p)、ポール・チェンバース(Paul Chambers, b)と組んだリズム・セクションは、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)の「黄金のクインテット」を盤石の土台として支え、ジャズ史に燦然と輝く数多の名演を生んだ。
マイルスのフレーズの後にジョー・ジョーンズの入れる独特のリム・ショットは、「フィリー・キック」として知られ、そのマイルスをして、「フィリーには、オレが演奏しようとしていることのすべてがわかっていた。」とまで言わせた。
ここでは、錚々たるメンバーを率いたフィリー・ジョーのリーダー・アルバム「ドラムス・アラウンド・ザ・ワールド(Drums Around The World)」から一曲。