債務整理

財団債権|自己破産の手続中でも支払わなければならない借金

自己破産の手続中でも支払わなければならない借金

自己破産手続によれば、支払うことができなくなってしまった借金などの金銭支払義務、つまり「債務」(債権者から見れば「債権」)を、原則として全て免除してもらうことができます。

自己破産により債務が免除されることを「免責」、裁判所が免責を決定することを「免責許可決定」と言います。

しかし、自己破産手続を申立てれば必ず債務が免除されるとは限りません。「免責不許可事由」と言って、原則として免責許可決定をしてはいけない事情がある場合には、免責されないリスクがあります。
また、「非免責債権」と言って、免責許可決定が下りても免責されず、手続後に支払わなければならない債務もあります。

それだけではありません。単に免責されないだけでなく、自己破産の手続中であっても、支払わなければならない債務もあるのです。

ここでは、税金・直近の水道光熱費の滞納などを中心に、手続中の支払が問題となりうる債務について説明します。

1.「財団債権」とは?

自己破産手続では、免除されることになった借金の債権者は、原則として配当手続で債務者が持っている配当可能な財産の配当を受けることでしか支払いを受けられません。

しかし、借金・債務の中には、配当手続によらずに、債務者もしくは配当されるべき財産から直接回収できるものもあります。それが「財団債権」です。

財団債権には、手続の費用なども含まれますが、問題となりやすいものは、税金や申立て直前に滞納していた水道光熱費などです。

(1) 税金など

税金や年金、健康保険料などで自己破産の前に納税義務が生じたものうち、

  • 手続開始当時まだ納付期限が来ていないもの
  • 手続開始の前、過去1年以内の滞納分

は、財団債権となります。

ちなみに、それ以外の税金についても、配当の中で優先されますし、なにより、上記の条件に関わらず、税金などは免責の対象となりません。

税金などは、行政による「滞納処分」が認められています。手続開始前に滞納処分による差し押さえを受けてしまうと、他の借金と異なり、差し押さえを止めることができません。

滞納がある場合には、できる限り早くに役所で分納手続を行って下さい。

(2) 直近の公共インフラサービス費用

申立て前直近1か月の水道光熱費など公共インフラサービス料金も、財団債権となります。そのため、もし上記期間の水道光熱費などを支払わなければ、電気やガス、水道を止められるおそれがあります。

それ以前の滞納分については、手続開始の「後」に限れば、そのまま支払わなくてもサービスが止まることはありませんし、免責の対象になりますから支払は不要です。

ともかく、たった1か月分だけですから、申立て直近1か月分の水道光熱費だけは支払いましょう。

なお、下水道料金に限っては、税金と同様の扱いを受けていますので、直近1年内の滞納分まで財団債権となります。

2.財団債権の支払い

せっかく自己破産手続を始めたのに、免責されないどころか、手続中ですら支払わなければならないとなると、債務者からすると自己破産をする意味がないではないかとも思われるかも知れません。

しかし、財団債権があることは、債務者にとって大きなメリットになることもあるのです。

借金全額をもう支払えないとわかっているのに特定の債権者にだけ優先的な返済を行うと、申立前の支払についてすら、債権者平等の原則に反する行為とされてしまいます。このような返済は、債権者平等の原則に反し、「偏頗弁済」と呼ばれています。

偏頗弁済は、免責不許可事由となっていますので、免責されないリスクが生じてしまいます。また、破産管財人は、「否認権」という権限に基づいて、偏頗弁済の相手から偏頗弁済相当額を回収しますので、リスク承知で偏頗弁済をしても意味がありません。

そのため、どうしても支払いたい友人からの借金や、滞納を解消しなければ追い出されてしまいかねない家賃などを支払おうにも、偏頗弁済になるため支払えないということが起きうるのです。

財団債権は、債権者平等の原則の例外です。配当によらずに他の借金よりも優先的に支払いを受けることができます。
支払いたい債務、滞納している税金や水道光熱費が財団債権に該当する場合には、債務者が支払ったとしても偏頗弁済となりません。

もっとも、一般の方には本当に財団債権になるのかどうかを区別することは難しいでしょう。支払い時期などの違いで、税金や水道光熱費であっても財団債権にならないことがあります。

弁護士に相談して以降は勝手に支払いをせず、弁護士の助言に従って支払いをして下さい。

3.自己破産手続開始決定後に生じた債務について

財団債権とは別に自己破産手続の対象にならないため免責されない借金。それが、自己破産手続開始後に生じた債務です。

(1) 自己破産手続の対象を決める基準となる時期

自己破産手続をする上では、どの債務を手続の対象とするかを定めなければなりません。その基準のひとつは、時間で区切ることです。

自己破産手続開始決定の前に発生した借金は、自己破産手続の対象となりますが、自己破産手続開始決定以後に発生した債務は、手続の対象となりません。

ちなみに配当のため処分される可能性がある財産も、原則として手続開始のときに債務者が持っていた財産となります。手続開始以降の財産は、「新得財産」と呼ばれ、配当されません。

(2) 手続開始後の債務の種類

一般的な借金は、債務者が借金全額を借りた上で、単に返済方法を分割払いとしているだけですから、自己破産手続開始決定以降に返済することとなっていた金額についても、手続の対象となります。

それに対して、家賃や水道光熱費、スマホの通信料などは、一定期間ごとに、債務者が利用した借家や公共インフラサービスの対価として発生する債務ですから、手続開始後に請求されたものは、自己破産手続の対象となりません。

また、養育費の請求権についても、支払いを約束したときに一括して発生したのではなく、月々の支払日ごとに発生していますから、手続開始後に支払うべき養育費は、手続開始後に生じた債務となります。

よって、家賃や水道光熱費、スマホの通信料、そして、養育費については、自己破産手続中であっても支払わなければなりません。

なお、上記の滞納分については、それぞれ手続の対象となるか、免責されるかなどの扱いが異なりますので注意が必要です。

特に、手続開始前に支払うはずだったのに滞納していた養育費の扱いには気を付けましょう。手続の対象になり財団債権にも該当しないので偏頗弁済のおそれがありますが、非免責債権であるため手続後に全額を支払わなければいけません。

4.自己破産は弁護士に相談を

自己破産さえすれば、どんな借金でも完全になくすことができるという訳ではありません。

財団債権の中でも、税金を支払っていなければ滞納処分を受けるおそれがあります。水道光熱費を支払っていなければ、生活に必要なインフラが止まってしまいます。手続開始後に支払うべきものも、しっかりと支払わなければいけません。

困ったことに、どの支払いが財団債権に当たるのかどうかなどの問題は、非常に細かく紛らわしい条件で区別されていて、一般の方が実際の支払がどれに当たるのか、免除されるのかされないのか、支払ってしまってよいのか偏頗弁済になってしまうのか、把握することは難しいのです。

早めに弁護士に相談し、支払内容を確認してもらって、どのようなものをいついくら支払わなければならないのか、整理しておきましょう。

泉総合法律事務所では、これまで多数の借金問題を自己破産手続で解決してきた豊富な実績があります。是非、お気軽にお問い合わせ下さい。

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