月刊現代ギター - 2016年7月号

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Vol.50 No.8 July 2016 No.632

July

特集 14

山下和仁ロング・インタビュー with 山下紅弓、山下愛陽

CONCERT PHOTO REPORT 27

コンサート・フォトレポート

山下和仁 益田正洋、清水麻依(S) ミエ(Fl)& アタナス・ウルクズノフ 中川祥治

79

オールド・ポップス・コレクション〔28〕

82 83

あなたの街の~ギター教室紹介〔16〕 ポピュラー・ヒット・レパートリー〔40〕

悲しき雨音( ザ・カ ス ケ ー ズ)

(たしまみちを)

てぃんさぐぬ花(沖縄民謡) (小関佳宏)

中島晴美、下山静香(Pf)

名曲・名演 聴き比べ~ナクソス・ミュージック・ ライブラリーで聴くギタリストたち〔4〕

長 佑樹

(朝川 博)

東京・春・音楽祭

つのだたかし(Lt)、波多野睦美(S)

、名 平尾雅子、頼田 麗(ヴィオラ・ダ・ガンバ) 倉亜矢子(S)、佐藤亜紀子(Lt) エマヌエーレ・セグレ

REPORT 54 第 47 回クラシカルギターコンクール 新井伴典 & デュオ・トラサルディ 61 in フィリピン 64 「中国ギター教育協会」講習会 in 上海 72 追悼:大島富士子

INTERVIEW 34 第 11 回 Hakuju ギターフェスタ 荘村清志、福田進一 38 益田正洋 46

Jiro's Bar ~濱田滋郎対談[40]

58

クピンスキー・ギターデュオ

三田一則(豊島区教育委員会教育長)

清水麻依、益田正洋

86

時空を超えて~歴史的ギタリストへの (手塚健旨) インタビュー〔4〕

88

92 94 96

ICHIRO のギターの宝箱〔4〕 (鈴木一郎) a tempo 日記〔75〕 (渡辺和彦) (松岡 滋) レパートリー充実講座〔256〕

モンテベージョ組曲①(オリーバ)

INFORMATION 66 68 70 74 78 99 102 104

新譜案内 外盤案内 新刊案内 コンクール & 演奏会通信 2016 めもらんだむ コンクール・インフォメーション 今月の見どころ聴きどころ イベント & コンサートガイド

ENSEMBLE 100

アンサンブルの広場

SCORE READING / ESSAY / LECTURE 42

愛器を語る[88]

50

ポインツ・オブ・ギターテクニック[28]

75

12 のエチュード〔4〕

富川勝智(19 世紀テルツギター) 上垣内寿光

121 今月の楽譜解説 122 50 の漸進的な小品 Op.59 より 第 39 番~第 40 番(カルカッシ~原 善伸) 125 カプリチョ(ウルクーリュ) 130 真夏の夜の夢(松任谷由実~岡崎 誠) 134 あなたの港(山下俊輔~莉燦馮 編曲)

●表紙 山下和仁、山下紅弓、 山下愛陽

Remembrance ~記憶 (鈴木大介)

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特集

山下和仁

ロング・インタビュー with 山下紅弓、山下愛陽 山下和仁……洋の東西を問わず、その名を知らぬ者なき 大ギタリストである。年の大半を海外を中心とした演奏 活動に費やす山下氏だが、この度、多忙なスケジュール の合間を縫って我々の取材に応じて頂くことが出来た。 愛娘でありデュオ・パートナーでもある山下紅弓、山下 愛陽のお二人も同席のもと、近況を始め色々とお伺いす ることが出来たので以下に紹介したい。 2016 年 3 月 23 日 ホテル JAL シティ長崎 インタビュアー:渡邊弘文(本誌編集長) 山下和仁(やました かずひと) 1961 年長崎市に生まれ、父、山下 亨に 8 歳よりギターを学ぶ。また作曲家の小 船幸次郎に師事。15 歳で全国コンクール(現:東京国際ギターコンクール)に優 勝のあと、1977 年、16 歳の時にラミレス、アレッサンドリア国際、パリ国際の 世界三大ギターコンクールに、いずれも史上最年少優勝という快挙を成し遂げた。 LP、CD 合わせてこれまでに 78 枚のアルバムを発表。 『展覧会の絵』がドイツ・ レコード賞受賞。国内外の作曲家、特にアジアの作曲家たちの新作委嘱初演にも 意欲的で、山下和仁のために書かれた作品は 60 曲を越えている。CD『黎明期の 日本ギター曲集』で平成 11 年度文化庁芸術祭大賞を受賞。 撮影:田井夙虫/提供:日本クラウン(株)

●ギターオクテット・コリア=ジャパン―――――――

けて「ギターオクテット・コリア=ジャパン」。日本人

――まず、最近の活動についてお尋ねしようと思います

が 4 人、韓国人が 4 人、日本人は私の家族です(山下和

が、昨年(2015 年)は海外での演奏が多かったと伺っ

仁、紅弓、愛陽、波父)。韓国側からはイ・ジュノ、キム・

ています。

ウージェ、ソン・ヨンギュ、チョ・イェリという 4 名の

山下和仁:はい、そうです。一番最近だと、今年(2016 年)

ギタリストを対馬にお招きしました。藤家溪子の〈韓国

の 1 月に韓国で演奏しました。これは元々、長崎県で行

と日本の旋律による子供の情景〉と〈カシューナッツの

なわれていた「ながさき音楽祭」の一環として、2014 年

雨〉という作品を演奏しましたが、それが第 1 回目で、

に対馬で演奏会が開催されたのですが、対馬は古来、日

第 2 回目を韓国で開催しましょうということで、今度は

本と朝鮮半島を繋ぐ海道であったいうこともあって、日

この 1 月にソウルへお招き頂きました。

韓両国のギタリストによる八重奏を行ないました。名付

――今回も日本側は山下さんのご家族ですか?

こゆみ

かなひ

なみふ

てるかく

山下:はい。ただ、今回は愛陽に代わって、長男の光鶴 が出演しました。あとのメンバーはすべて前回と同じで す。私は韓国が大好きで、1980 年代からもう 30 回くら いは行っていますが、今回は、ソウルのアートセンター という大施設の音楽専用ホールである IBK ホールという 600 席の所で演奏しました。 ――そういう大きい会場では、PA を使うんでしょうか? 山下:いや、PA は全然使わないです。ソウル・アート センターにはこの IBK ホールの他にも、2,500 人入るコ ンサートホールもあります。私もそこで何度か演奏した ことがあります。この 2 つが音響的にはソウルで一番良 ギターオクテット・コリア=ジャパン

いホールです。

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山下和仁 Kazuhito Yamashita 写真:田丸幸介

今月号の特集インタビューで言及されている、山下和仁の福 岡公演が 4 月 17 日にあいれふホールで開催された(主催: すたじお G)。最高級の演奏家による自編のオール・バッハ・ プログラム、しかも〈チェロ組曲〉が 2 つに、 〈シャコンヌ〉 を含む BWV1004 パルティータとくれば、最早言葉は不要で あろう。そこには純粋に音楽のみが存在するのである。折し も九州地方は、直前の熊本地震とその余震に見舞われ不安を 余儀なくされていたが、山下の演奏は、聴衆を勇気づけ鼓舞 すると共に深い安らぎと感動をもたらしたに違いない。 山下和仁の福岡あいれふホール公演は、今後シリーズ化が決 定し 2017 年 4 月 22 日(土)に第 2 回目が開催される。また、

今年の 9 月 5 日(月)には、長女・山下紅弓のコンサートが 開催され山下和仁も共演することとなった。 プログラム:無伴奏チェロ組曲第 1 番 BWV1007[プレリュー ド/アルマンド/クーラント/サラバンド/メヌエット I & II /ジーグ]、無伴奏チェロ組曲第 2 番 BWV1008[プレ リュード/アルマンド/クーラント/サラバンド/メヌエッ ト I & II /ジーグ] 、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第 2 番 BWV1004[アルマンド/クーラント/サラバンド/ジー グ/シャコンヌ] (バッハ~山下和仁) [4 月 17 日/福岡・あいれふホール]

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第 11 回

Hakuju ギター・フェスタ 2016 武満 徹へのオマージュ 2

August 19-21

ギターファンには今や夏の風物詩として定着した Hakuju ギター・フェスタ。第 11 回目となる今年は、第 1 回に続き再び、今 年没後 20 年を迎えた作曲家「武満 徹」を特集する。武満のギター作品が生まれるきっかけとなった荘村清志を始め、福田進一、 鈴木大介、ジェレミー・ジューヴらの人気ギタリスト、世界的フルート奏者の工藤重典、カウンターテナーの藤木大地が登場し、 多彩な武満の作品世界を 3 日間で網羅する。恒例の委嘱作品はアコーディオン奏者の coba による新作。若手ギタリストの登竜 門「旬のギタリストを聴く」には猪居 謙が登場する。 開催に先立ち、当フェスタのプロデューサーである、荘村清志、福田進一のご両人にお話を伺うことが出来たが、多忙を極める お二人だけにスケジュールの調整がつかず、今回は個別のインタビューとなった。

荘村清志 Kiyoshi Shomura

Shin-ichi Fukuda

福田進一 © 得能通弘 CHROME

5 月 17 日・23 日/現代ギター社 インタビュアー/渡邊弘文・中里精一(編集部)

荘村清志 ―――――――――――――――――――― ――今年は武満 徹さんの没後 20 年ですので、第 1 回に続 いて再び武満さんを取り上げるということですね。 荘村清志 そうです。Hakuju ギターフェスタは武満 徹さ んから始まりました。一人の作曲家、しかも現代音楽とい うことで、最初は Hakuju Hall 側もお客さんが集まるかなと 案じていたようですが、蓋を開けてみたら 3 日間とも超満 員でした。第 1 回目が上手くいったお陰で回を重ねること が出来、一回りして再び武満さんに戻って来た訳です。 ――それでは、今回の内容を教えてください。 荘村 まず 1 日目には、私がギターソロ作品を演奏します。 武満さんの最初のギター独奏曲であり私が委嘱した〈フォ リオス〉 、そして〈エキノクス〉、そしてジュリアン・ブリー ムに捧げられた〈すべては薄明のなかで〉。あと今回は、 私と福田進一さんとジェレミー・ジューヴの 3 人で《ギター のための 12 の歌》からそれぞれ何曲かずつ演奏するので すが、私がまず〈インターナショナル〉など 4 曲を演奏し ます。今年の 2 月 20 日に、これは武満さんの命日なんで すが、上野の東京文化会館でオリジナルのギターソロ作品 を全曲やったんですが、どれも素晴らしい曲だなぁと改め

て感じましたね。 ――1 日目の後半は映画音楽ですね。 荘村 鈴木大介さんにギター編曲をお願いしました。大介 さん、福田さん、私とで演奏しますが、大介さんは、今非 常にノッていて、どんどん伸びて進化していますし、素晴 らしい演奏をされていますので、これは期待出来ますよ ! 武満さんの映画音楽には凄く素敵なメロディーが沢山あっ て、〈ワルツ~他人の顔〉や〈めぐり逢い〉とか、素晴ら しい曲がいっぱいあります。 ――2 日目は? 荘村 まず若手の「旬のギタリスト」に猪居 謙さんが登場 します。凄く注目されているギタリストなので、ぜひ彼の 演奏を聴いて頂きたいと思います。福田さんが CD をプロ デュースされていますね。 2 日目の本編前半は福田進一さんのソロです。これにつ いては福田さんご自身が語ってくださると思います。 ――はい。 荘村 2 日目の後半には、今やフルートの世界的巨匠であ る工藤重典さんをお迎えして、福田さんと一緒に演奏して 頂きます。それから私と福田さんとのギター二重奏で〈不 良少年〉 、 〈ヒロシマという名の少年〉を演奏します。

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ニューアルバム 『ギター版による12のスペイン舞曲』 発売!

益田正洋インタビュー グラナドス没後100年によせて、 益田正洋が放つ意欲作、 ギターソロ版 『12のスペイン舞曲』 / 『詩的ワルツ集』 を収録! 益田正洋◎プロフィール 1978 年長崎市生まれ。両親の手ほどきによりギターを始める。長崎大学経済学部卒業後、ジュリアード音楽院修士課程にてシャロン・イズビン に師事。これまでに福田進一、藤井眞吾、オスカー・ギリア、マヌエル・バルエコ、デイヴィッド・ラッセルなどにも指導を受ける。1990 年第 21 回クラシカル ギターコンクールにて史上最年少(12 歳)で優勝した他、国内外のコンクールで数々の賞歴を重ねている。1991 年のデビュー リサイタルを皮切りに演奏活動を開始。ソロのみならず他楽器の演奏家、オーケストラとの共演も多数。2001 年にはロドリーゴ生誕 100 周年 記念コンサートでニューヨーク・ リンカーンセンターにて海外デビュー、《アランフエス協奏曲》を好演する。東京オペラシティ主催「B → C リ サイタル」、ディズニー・オン・クラシックの日本ツアーにも出演。2012 年にはギター製作 家 J.L. ロマニリョスに招聘されスペインツアーを行 ない絶賛を受ける。バロックから現代に及ぶ幅広いレパートリーによる演奏は常に好評を獲得。これまでに 20 枚以上の CD をリリース、 『レコー ド芸術誌』特選盤に選ばれるなどいずれも高評を博す。

5 月 16 日 現代ギター社 インタビュアー:渡邊弘文(本誌編集長)

――今回のアルバムはグラナドス作品集ですが、グ ラナドス没後 100 年、生誕 150 年(2017 年)とい うことで企画されたのでしょうか? 益田:実は 2015 年 5 月には全てのレコーディングを 終えていたので、昨年中の完成・リリースも可能で したが、せっかくグラナドスという作曲家に絞って、 しかも「スペイン舞曲全曲」の CD をリリースする 訳ですから、最も相応しい時期にしようとプロデュー サーと相談しまして、没後 100 年(2016 年)に合わ せたこのタイミングでのリリースになりました。 ――〈12 のスペイン舞曲〉〈詩的ワルツ集〉という 物凄い組み合わせですが、 この 2 つを選んだ理由は? 益田:ライナーノーツで濱田滋郎先生も言及されて いるように、グラナドスの作曲の 特徴として、「スペイン民族楽派」 という側面と、ショパンなどに影 響を受けた「ロマンチックな作風」 という 2 つの側面を持ち合わせて います。その両面を 1 枚の CD の 中で皆さんに感じて頂きたかった というのが大きな理由です。 ――確かにグラナドスは、アルベ ニスやファリャに比べると、ロマ ンチックな印象がありますね。 益田:グラナドスの方がよりヨー ロッパに近い作風かなと思ってい ます。スペインに行って各地の街 並みを見ていると感じるのですが、 フランスに近いカタルーニャ地方 (例えばバルセロナ)はかなり西欧 的な雰囲気です。これと同じよう な印象をグラナドスの音楽には感 じます。特に若いころの作品には ね。グラナドスは即興演奏が得意 で、綺麗な女性に出会ったとした ら、彼女に捧げる曲をその場でサッ と作ってしまうようなエレガント な人だったと聞きます。メロディー

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photo:Hideyuki Igarashi

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愛器を語る 富川勝智 ◆ 19 世紀テルツギター (1880)

Masatomo Tomikawa 1972 年北海道札幌生まれ。上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業。ギターを佐藤佳樹、手塚健旨氏に師事。その 後スペインに渡り、ホセ・ルイス・ゴンサレス、アレックス・ガロベーに師事。帰国後、精力的に演奏活動を行なうと ともに出版物への編曲や教本執筆なども行なう。クラシックギターの本格的なプログラムによる演奏会と同時に、都内 ライブハウス、美術館やカフェなどの“ライブ”によってクラシックギターの魅力をより多くの人に伝えるべく活動を 続けている。スペイン音楽とギター音楽の研究の分野でも活躍し、最近ではオリジナル 19 世紀ギターやテルツギター などを使用したコンサートを行ない、可能性を拡げている。音楽史への造詣も深く、楽曲解説や奏法解説を多数連載。 ギター史研究家としても精力的に執筆活動をしている。 写真:木田新一 写真:木田新一

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