第10回:ベテラン活用のレガシーの壁をぶっ壊す!

令和になった今でも「人事のレガシー」という亡霊に取りつかれたまま、思考停止している日本企業の人事によくお会いします。第10回目は「ベテラン活用」に焦点を当てます。

◆人事のレガシー10 「ベテランとして若手をフォローして活躍してもらう」
◆レガシーを破る視点 「古田新太のように、持ち味をフルに発揮できる制度と研修を行う」

松本 利明

HRストラテジー 代表

外資系大手コンサルティング会社であるPwC、マーサー、アクセンチュアなどのプリンシパル(部長級)を経て現職。国内外の大企業から中堅企業まで600社以上の働き方と人事の改革に従事。5万人以上のリストラと6500人を超える次世代リーダーの選抜や育成を行った「人の目利き」。人の持ち味に沿った採用・配置を行うことで人材の育成のスピードと確度を2倍以上にするタレント・マネジメントのノウハウが定評。最近は企業向けのコンサルティングに加え、「誰もが、自分らしく、活躍できる世の中」に近づけるため、自分の持ち味を活かしたキャリアの組み立て方を学生、ワーママ、若手からベテランのビジネスパーソンに教え、個別のアドバイスを5000名以上、ライフワークとして提供し、好評を得ている。HR総研 客員研究員。

ベテランにサポート役をお願いするから失敗する

仕事や社内の事情もよく知っているベテラン社員は即戦力。役職定年などで後進に職位を譲った後はサポート役に回ってもらうのがベストと考える気持ちはわかりますが、ここに罠があります。

役職を外れたベテランはどんなに論理的に正しく説明され、頭で理解することは出来ても、心から納得できる人はいません。仕事ができたのならもちろんのこと、仕事ができなかった人も実は一緒です。人生の半分以上を占めた仕事人生が否定され、プライドや存在意義がズタズタにされるからです。

結果、「給料分しか働かない」という働かないおじさんが増殖してしまうのです。ベテランの知見を若手に伝承すべくメンターやキャリア相談をお願いしても「自分の話ばっかりで、こちらの言うこと聞かない。説教調でダメ出ししてくるし、そもそも事例やノウハウが古い」と敬遠されてしまいます。

親身にキャリアの相談に乗ってくれる人もいますが、若手の不安を受け止め、共感するだけで、アドバイスも成果に繋がらない、ただの息抜きのご隠居さん状態。年上の部下を持つことに慣れていない管理職は、過去の先輩・後輩、元上司・部下の関係の方が強く、苦労してしまうのが実態です。

ベテランこそ個性を引き出すマネジメントが必要

ベテランの方に無理に理屈で説得する、働くようお願いするアプローチは止めましょう。同じ歴史が繰り返されるだけです。

大切なのは、マネジメント観を変えることです。役職による序列ではなく、俳優の古田新太さんのように持ち味をフルに発揮することでベテランに活躍してもらう人材マネジメントに切り替えるのです。図1のように考えるとわかりやすいです。

 

従来の役職の序列(と極一部の専門職)を中心にした人材マネジメントは、「アスリート型」。優勝やオリンピック金メダルを目指し、いい意味で競争し、切磋琢磨し、レベルアップしていくモデルです。

アスリートはベテランになり、若い選手にかなわなくなれば引退です。引退すれば現役と同じ土俵で争うことはなく、現役時代の職位に応じ、横綱なら親方、十両未満ならちゃんこ屋など、引退後でも活躍できるキャリアの選択肢が存在しますが、企業ではこれがありません。

引退した選手まで、役職を落としてまで同じ土俵で戦わせようとするから問題が起きるのです。引退した元横綱と現役で教え子の横綱が同じ土俵で戦わせるようなもので、お互いにやりにくさを感じますし、外資系であれば、引退状態になれば、他の会社に移って同じように活躍することも可能ですが、日系企業では、引退後も同じ土俵にいれたままにするのでややこしくなるのです。

ベテランは、アスリート型ではなく「役者型」。自分の持ち味を活かして活躍できる、わかりやすく言うと俳優の古田新太さんのような活躍ができる人材マネジメントにするのです。

古田新太さんは、独特の持ち味を活かすことでオファーはひっきりなし。ドラマの主役もできるし存在感ある名脇役もこなせます。舞台、CM、バラエティーひっきりなしですが、ご自身のキャラにない無理はしていません。休もうと思い長い休みをとっても、復帰すればすぐオファーの山になるでしょう。

古田新太さんはご自身の持ち味を発揮しきることで、自分にあって成果がでるオファーがくるように、我社のベテランも、一人ひとりが持ち味を可視化し、発揮できるようにアサインできるようにすれば、成果がでて会社も儲かる。やりがいも生まれる。成果に合わせ稼ぐこともできる。いいことずくめになるのです。

ベテランは区分けすることで輝きだす

ベテランでマネジメントが得意で周りがついていきたいと思われている人材は既存の役職のままでOKですが、マネジメントや育成が昭和的だったり、苦手な人をまとめて処遇できる人事制度を用いてしまった方が、軌道にはやくのります。

●役者型はひとつにまとめる

役者型で処遇する人材を思い切って一つの部署に集めると、昔ながらの序列の体制が自然になりますが、先輩・後輩で意外と調和します。若手をこき使おうとしても、その部署には若手がいないので、若手の成長の邪魔にはなりません。その役割はベテランの序列の中の若めの人が担うようになりますが、本人達は昔の体制なので違和感ありません。意外と楽しく働くようになります。

●社長や経営陣の直下に置く

ベテラン組織を「ご隠居倶楽部」ではなく、持ち味活かして働いてもらうため、その組織のトップやベテランを長く活躍してきた責任者に担ってもらいましょう。オーナー企業であれば社長直轄。2世やサラリーマン企業の場合はベテランの親分を添えるのです。若造では言うことを聞いてくれないし、一人ひとりの持ち味の発揮のさせ方もわからないからです。

各自のアサインは軌道にのるまではトップダウンがいいでしょう。「鈴木さんは昔から△△をやらせるとうまくいく」など、個々人の持ち味を活かし、社長直命で動くのです。社長とベテラン社員の間だけで完結しない仕事は、社長と人事が入って、若手の組織と連携するのです。不思議なもので、同じベテラン社員で同じミッションでも、若手の組織長からアサインされるより、社長直命でアサインされる方がやる気が違います。

後輩の若手の組織長をたてながら、参謀役やサポート役、特任役をこなすベテランを数多くコンサルティングの現場でみてきました。キーは「ベテランのAさん、実は凄い!」という事例を最初に出すことです。そして、Bさん、Cさんと増やしていくことで、ベテランをみる社内の目が変わってくるので、「ご隠居倶楽部」という見方をおさえるのです。

●成果主義を導入する

ベテランこそ、成果主義を導入しましょう。各自の持ち味を活かしたミッションが明確になるので、業績評価もやりやすく納得感も高まります。アサインに対する不平不満もなくなります。当然、結果がでれば報いることで、やりがい、報酬、尊厳も取り戻せるので、あとから続く人が増えてきます。

ベテランの同年代で勝ち残っている人脈は社外でも上位層が多いこともあり、本気を出して貰えれば、若手以上にパフォーマンスをあげることも多いのです。年功的ではなく、きっちりメリハリをつけた成果主義こそ、実力があるベテラン層では機能します。

不思議なもので結果が出始めると新しい知識やスキルも貪欲かつ素直に学びはじめます。こうなると他のベテランも黙っていません。斜に構えるのではなく、本気を出して取り組むようになります。スポーツドラマのROOKIES(ルーキーズ)のように、バラバラで本気ださないチームがよみがえることは結構現実です。

ベテラン層は、先輩・後輩独自の世界観があり、優秀でなかったベテランも巻き込むようになるのです。

●人事が社内外に宣伝し、「のったもの勝ち」の風土に変える

ベテランの活躍は、その部署や職群の中で閉じておくのではなく、経営者や人事が、その活躍をどんどん社内外に宣伝しましょう。不思議なもので、一人の成功者だけでは、周りは白けているのですが、2人、3人と成功事例がでてくると、社内の雰囲気が変わってきます。「このケースだとベテランの石井さんに力を借りたい」など、現場から声があがってくるまで、経営と人事は宣伝しまくるのです。

ここまでくると社内の雰囲気はガラリと変わります。ベテランの力をうまく借りないと損。ベテランは実は凄いと見方が変わります。ベテランも自信の尊厳も取り戻り、情報やスキルをアップデートすることで昔ではなく今に対応できる準備が整うので、社長直命でなくても、現場から要請があれば、喜んで協力し合えるようになり、アスリート型と役者型の人材マネジメントに神経が通うようになるのです。「のったもん勝ち」の文化をつくるコツは次回解説します。

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