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- カテゴリ:一般
- 発行年月:2003.6
- 出版社: 社会評論社
- サイズ:20cm/217p
- 利用対象:一般
- ISBN:4-7845-1301-9
紙の本
移民のまちで暮らす カナダマルチカルチュラリズムの試み
著者 篠原 ちえみ (著)
「人種のモザイク」カナダは1980年代、多文化主義を法則化し、多民族を包摂する新たな国づくりをスタートさせた。異文化ひしめく町トロントに暮らしながら、その「実験」の試練と...
移民のまちで暮らす カナダマルチカルチュラリズムの試み
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商品説明
「人種のモザイク」カナダは1980年代、多文化主義を法則化し、多民族を包摂する新たな国づくりをスタートさせた。異文化ひしめく町トロントに暮らしながら、その「実験」の試練と成果を伝える。【「TRC MARC」の商品解説】
著者紹介
篠原 ちえみ
- 略歴
- 〈篠原ちえみ〉雑誌のライター、高校講師(英語)を経て、結婚を機にカナダへ移住。現在、ライター、フリーランスの翻訳者として働く。
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紙の本
移民から見たカナダの光と影(主に光に焦点)
2006/05/01 05:53
6人中、5人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:半久 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は1999年に結婚を機にカナダのトロントに移住した。移民の目を通して、モザイク社会カナダの「光と影」を活写する。
著者のように英語ができて、受け入れ側にサポート体制があっても、移民としての暮らしは苦労があるようだ。
移民には二つの直面しやすいハードルがあるという。一つは就職の困難さ。言葉の問題や既存の資格が通用しないこと、高い失業率等がある(ただし「年齢差別」はない)。移民には家族移民、経済移民、難民という3つのカテゴリーがあるが、高学歴な経済移民の就職が厳しいというのは意外だった。トロントでは、高学歴者が余っているからだ。それでも高い生活水準と、市民の自由と権利が手厚く保証されているカナダは魅力的ではあるのだ。
もう一つは文化適応の過程で生じる、ストレスからくる鬱病である。著者も3年間苦しんだそうだ。各エスニック・コミュニティの役割が重要だと、指摘する。
先に言葉の問題と言ったが、トロントには英語を理解せずとも生活には不自由しない民族グループも幾つかあるそうだ。グループで固まって暮らすことで「地政学的な分断」がおこる。これを「ゲットーイズム」として、多文化主義政策(著者はマルチカルチュラリズム政策と呼ぶ)のせいだと批判する人もいる。
しかし著者は、文化適応を強制する方がむしろ「ゲットーイズム」に嵌ると見る。多文化主義政策の良さは《移民が文化適応を自然な速度で行うことを保証した点にある》と擁護する。
9.11以降はカナダ市民の寛容さにも揺らぎが出たが、復元力を失ったわけではないそうだ。
移民政策には人口や労働力の維持、高齢化社会の対応という意味での経済力の維持という、ポピュラーな賛成論がある。他にも統計では表せない活性化を、異文化はもたらしてくれるという。
例えば、移民の様々なベンチャー・ビジネスがある。メディアや大学は多彩な意見で賑わっている。異なるものへの寛容性を養うことにも役立つ等々。そして著者にとっての一番は、《世界各国の人たちと知り合うチャンスに恵まれていること》だ。
《カナダに来るまで、自分の親友としては日本人以外は考えられなかったが、今は違う。友情を通して、文化背景が違ってもお互いに心を通わせることができるのだと実感できた。》
《こうして多くの移民たちと知り合うことで、文化が違っても共有できるものが本当にあるのだということを確信するようになった。このことは、何よりもパーソナルに私の人生を変えた出来事であったと言える。》
しかし、移民のまちでは驚くこと、イライラするようなこと、不快なことにもよく出会うそうだ。それでも「移民はいらない・不快だ」という意見は出ないという。
《移民が試行錯誤のなかでカナダの価値や文化を学んでいる間、一方ではカナダ生まれのカナダ人を含むカナダ社会のメンバー全員が、「寛容さ」、そして「妥協」というレッスンを課される。
(中略)マルチカルチュラリズムという(むしろ観念的な)政策がパーフェクトな成功を収めることができるというのは幻想に過ぎない。なぜならば、マルチカルチュラリズム政策が成功するためには、そこに暮らす国民一人ひとりが完璧であらねばならず、(中略)そんなことは不可能だからである。成功のかわりに私達が最大限期待できるのは、妥協である。(中略)そして「寛容さ」こそ、困難なこの実験のなかで、妥協を導き出すために、カナダ人が苦心して探し出したカギであった。
カナダの「マルチカルチュラリズムの実験」は、妥協の連続であるといってもいいだろう。》
なるほど。私は理念的な面に注目しがちだったが、カナダが「高邁な理想」を掲げて走ってきただけではないということを、この「妥協」という視点が教えてくれる。
単なる見聞録の域を超えた、秀逸な「社会論」の書だ。