森尾由美 インタビューロングバージョン

スポーツ報知
インタビューで笑顔を見せる森尾由美(カメラ・竜田 卓)

 女優でタレントの森尾由美(56)が、5月5日に歌手デビュー40周年を迎える。83年に「お・ね・が・い」で歌手デビュー。「できれば忘れたいもの」という売れなかったアイドル時代を回顧するとともに、家族や苦難を共にしてきた「不作の83年組」と呼ばれたデビュー同期がいたからこそ、続けることができたという40年間の活動を振り返った。(田中 雄己)

 「レモンチックな17歳」のキャッチコピーでデビューして40年。だが、森尾自身にとっては、純粋な気持ちで“祝・40周年”とはいかないようだ。冒頭で節目に触れると、予想に反した言葉が返ってきた。

 「歌手活動は、できれば忘れたいものでね。全然売れなかったので。アイドル的な年齢だったので、単純にレコードを出してという感じでしたけど、一つ上の『花の82年組』の(早見)優さんや(松本)伊代さんらとは、華やかさと輝きが全然違っていた」と苦笑いし、当時を回顧するように目線を落とした。

 レッスンもままならない中、「ねらわれた学園」で表舞台に立った直後に17歳で歌手デビュー。発声はおろか、まともに化粧もできない。小泉今日子や中森明菜ら「82年組」との違いは歴然だった。1年後輩の84年組には荻野目洋子、菊池桃子らがおり、森尾や後にバラエティー番組で人気タレントになる松本明子、大沢逸美、桑田靖子らは「不作の83年組」と呼ばれた。

 「中学時代からずっと保母さんに憧れていたので、ハタチぐらいからなら勉強し直せるだろうし、保育士さんになろうかなって」。心の中に「引退」の二文字がよぎる中、89年に日本テレビ系バラエティー番組「天才・たけしの元気が出るテレビ!」のレギュラーに抜てきされた。「バラエティーだから楽しくいれば」。軽い気持ちで臨んだが、現場は経験したことのない空気だったという。

 「(総合演出の)テリー(伊藤)さんはメチャクチャ怖いし、ディレクターもピリピリしている。人を楽しませる裏で、作り手はこんな真剣に、ケンカまでして突き詰めていくんだと」。ヒットの裏側に触れた森尾は、アイドルにもかかわらず食べ物を詰め込んだ口の中を見せるなど体当たりな姿勢で応えた。「今ではほとんど放送できないでしょうけど、あの“本気”を感じられたことは宝物。もっとやってみたいと思うきっかけでした」

 芸能活動を続けようと決意した直後、92年に米国在住の一般男性と結婚した。「結婚して子供ができて、初めて焦りが生まれたんですよね。周りの同期は、一生懸命働いていたので」。共働きの概念が、今よりも希薄な時代。専業主婦になることも考えたが、「結婚したから仕事を辞めたと、君が後悔するのは違うと思う。やりきったと思うまでやり続けていいよ」という夫の言葉が背中を押した。

 「そう言われたら、急に欲が出てきまして(笑い)。もうちょっとやってみようかなって」。心機に呼応するように、仕事が舞い込む。99年にTBS系ドラマ「五つ子!シリーズ」がスタート。代表作の一つになったが、裏で葛藤もあった。

 「夏に放送されるので、(撮影で)娘と夏休みを一緒に過ごせない。主人と娘が旅行に行くのが羨ましくて。次女が生後6か月の時に始まったんですけど、つかまり立ちも歩き始めたのもベビーシッターさんが見ていた。歯が生え始めたのもよく分からなかった。当時は(仕事と育児の)どちらも一生懸命やっているつもりでしたけど、今考えればとても残念ですよね」

 実家がある埼玉県に移り、仕事場近くの託児所を利用して日々現場まで通い、「2児のママの女優」として走り続けた。2022年6月には初孫が生まれ、おばあちゃんに。現在は自身のSNSで、娘2人や孫との生活を頻繁につづっている。

 「ずっと男性が羨ましかったんですよ。何歳になっても味がある。女性は年を取るごとに需要が減るし、葛藤もある。年を取ってまで表に出るのはどうかなと思っていたんですけど、若い時にOL役、結婚して新妻役、こないだ初めておばあちゃん役をして。これはこれで悪くないかなって思うようにもなった」

 現在でも、米国に住む夫とは“遠距離婚”を続ける。「一緒に暮らしたいとかは、ないですね。初めから別居でしたから。最近はコロナもあって、3年間で計3週間くらいしか会っていない。それ以前は2か月に1回くらい顔を合わせていましたし、ちょうどいい具合ですかね(笑い)」

 3年前に次女が就職した時、子供が結婚などで家を出た時に親が空虚さを感じる「空の巣症候群」に陥った。「やっぱり、子供たちを中心に回っていたんだな。友人に話したら『やっと自分の時間ができたんだから好きなものを探してみな』と言われ、今はジムに通ったり、編み物やお習字とかハマりそうなものを見つけている最中ですね」。

 インスタグラムも始めた。

 「でも何をあげていいか分からないし、マネジャーは1日に一度あげてって言われるんですけど、そんな(ネタが)なくて(笑い)。インドアなので、日々追われています。でも、子供も孫も良いネタだと思って(笑い)」。ただ、同時に「もう(仕事は)フェードアウトかなと思ったんですよ」。

 森尾を襲った2度目の“引退危機”。そこに手を差し伸べたのは、「不作の83年組」の同期だった。「松本明子ちゃんがね、『70歳までロケに行く』と言うんですよ。『それ以降も仕事を続ける』と楽しそうに。なんだかその言葉を聞いていたら、私も頑張ろうと。だから今もお仕事の話が来た時は毎回、アッコ(松本)を思い出すんですよ。『アッコは全力でやるだろうな』って。売れなかったから同期の絆がすごいんですよ」。最近、髪の毛を20センチ短くした。「なんたって40年。もうよどんできているので、スッキリとね」。短くなった髪を触りながら、デビュー当時と同じ、曇り一つない笑顔を見せた。

 ◆森尾 由美(もりお・ゆみ)1966年6月8日、埼玉県出身。56歳。82年、フジテレビ系ドラマ「ねらわれた学園」でデビュー。83年には「お・ね・が・い」で歌手デビュー。TBS系ドラマ「大好き!五つ子」シリーズでは、11シーズンにわたり母親役を演じた。フジテレビ系バラエティー「はやく起きた朝は…」(日曜・前6時半)は、出演30年目に突入。身長162センチ。血液型A。

芸能

×