船越英一郎「2時間ドラマは天職」…デビュー40周年「サスペンスの帝王」が挑むセルフパロディー

スポーツ報知
「犯人はお前だ!」と鋭い眼光を見せる船越英一郎(カメラ・関口 俊明)

 俳優・船越英一郎(62)が、今年でデビュー40周年を迎えた。在京民放5局の2時間ドラマ全てに主演作品がある唯一の俳優で「2時間ドラマの帝王」「サスペンスドラマの帝王」の異名を持つ。父で俳優の船越英二さん(享年84)を「追いつけない背中」と改めて尊敬しつつ、役者としての“帝王学”を説いた。(増田 寛)

 2時間ドラマで犯人と対面し、崖で追い詰める鋭い眼光とは異なり、柔和な雰囲気を醸し出す。「船越と言えば崖。皆さんは崖と聞くとポニョか僕を想像してくれる」。実際のところ、出演した作品でトレンチコートを着て崖で犯人を追い詰めたことは少ない。「何となくのパブリックイメージ。でも、そのおかげでCMに出演できたりした。アイコンにしてもらい感謝です」と笑顔が光った。

 船越のパブリックイメージをいじり倒しているのが、テレビ東京系連続ドラマ「警視庁考察一課」(月曜・後11時6分)。船越はトレンチコートを着た、崖に詳しい考察一課長を演じる。秋元康氏(64)が企画・原作のオリジナルドラマで、山村紅葉(62)、西村まさ彦(61)、高島礼子(58)、名取裕子(65)、内藤剛志(67)と競演する“2時間ドラマのアベンジャーズ”だ。

 ドラマでは謎解きはもちろん、コメディー要素も強い。パロディーがちりばめられており、船越は崖へのこだわりやトレンチコート姿はもちろん、女性関係をいじられたりするなど、攻めた内容となっている。いじられる回数も格段に多いが、船越にいらだちはなく「純粋にセルフパロディーは僕の中で幸せだった」と明かす。

 「過去は笑い飛ばすためにあると思っている。でも、簡単なようですごく難しい。今まで命を削って真摯(しんし)に取り組んできたものを否定せず、でも笑ってもらうために、神経質になりながら挑みました」

 船越は、父に俳優・船越英二さん、母に女優の長谷川裕見子さんを持つ役者一家に生まれ、小学校高学年からフィルムセンターに通い詰める映画少年だった。「とにかく映画監督になりたかった」が、当時の日本映画会社の狭き門を通ることができず。将来を思い悩んでいた時、中井貴一(61)らが2世俳優ブームを巻き起こしていた。

 「僕も2世の端くれ。このブームに乗って、すぐにスターになり、お金がザクザク入ってくると思っていた。その資金をもとに映画を作ろう! 目指せ、伊丹十三ってね。そんなことを思うくらい無知だった」。俳優になることは父から猛反対され、業界の内情は何も知らなかった。

 英二さんは家庭でとても厳しく、突き放されもした。

 「オヤジから『お前には残念ながら何の才能もない。だから、お前は俳優として間違いなく失敗する。3年でいなくなる。3年たって、明日のご飯に困ったらやめろ』と言われたことは今も忘れられない」

 反対を押し切り、船越は1982年にTBS系ドラマ「父の恋人」でデビューしたが、父の予言通り、3年で鳴かず飛ばずになった。

 「全く思い描いた通りにならなかった。とりあえず映画監督の夢は脇に置いて、まずは目の前の俳優の仕事に全身全霊をかけようと思い直した。そこが僕の本当の俳優生活の始まりだった」

 半端な意識を捨て去り、全力を注いだところ、NHK連続テレビ小説「ノンちゃんの夢」(88年)に出演。実力が認められ2時間ドラマの仕事が舞い込むようになったが、当時は思い悩んだという。

 「正直、僕の中で予想外だった。2時間ドラマいっちゃうの?って。焦燥感もいっぱいあった。当時、トレンディードラマブームがあった中、僕は視聴者層が高めの2時間ドラマにひたすら出演。僕も同世代の人たちに多く見られるドラマに出たいと思ってた」。ただ、父親から「役者は人様にいただく仕事。それを享受、感受できないやつは役者をやめたほうがいい」と激励され前を向いた。

 フジテレビ系主演ドラマシリーズ「所轄刑事」(2004~16年)で、船越は主演シリーズ民放5局を制覇する唯一の俳優となり、「2時間ドラマの帝王」の異名がついた。現在までに170作以上、16シリーズの2時間ドラマに出演する。「いまだに面映(おもは)ゆいです。僕よりたくさんやられてる先輩方も、尊敬する先輩方もいらっしゃる。最初は抵抗があった」と振り返るが、今は原動力だ。

 「2時間ドラマを自分の天職として全うしたい。その思いが、民放全局で自分の主演シリーズができたっていう時に生まれた。自分の冠に抵抗している場合ではない。今まで以上に、2時間ドラマに思いをこめて、俳優として生きていこうと覚悟が生まれた瞬間ですね」

 「―考察一課」の他にも、冬クールはNHK BS「赤ひげ4」、TBS系「クロサギ」、BS松竹東急「商店街のピアニスト」に出演する。「僕のキャリアの中でもこれほど同じクールに連続ドラマが重なるのは初めてのこと。俳優って振り幅が大きければ大きいほど楽しい。いろいろな表情の僕を見てほしい」。まだまだ船越のセルフパロディーは広がりを見せていく。

 ◆船越 英一郎(ふなこし・えいいちろう)本名・栄一郎。1960年7月21日、神奈川県生まれ。62歳。俳優・船越英二さんと元女優・長谷川裕見子さん夫妻の長男。日大芸術学部映画学科に在学中から演劇活動を行い、82年にTBS系ドラマ「父の恋人」でデビュー。2001年6月にタレントの松居一代(65)と結婚も17年12月に離婚。

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