楳図かずおさん、決めポーズ「グワシ」誕生のきっかけ明かした「意味は・・・」

スポーツ報知
86歳になっても好奇心と漫画への情熱は全く変わらない楳図かずおさん(カメラ・頓所 美代子)

 「漂流教室」「まことちゃん」などで知られ、ホラー漫画の第一人者でもある漫画家の楳図かずおさん(86)は今年、27年ぶりの新作「ZOKU―SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館」を発表した。60年以上にわたる漫画家人生の中で、楳図さんがこだわり続けてきたもの、そして現在もクリエイティブな活動を続けられる力の源は、どこにあるのだろうか。(高柳 哲人)

 やや甲高い声のあいさつは、本人そのもの。でも何かが違う。「なぜだろう…」という疑問は、楳図さんがシルバーグレーのダウンジャケットを脱ぐとすぐに氷解した。下に着ていたのは、おなじみの紅白のボーダーシャツ。そこには、誰もが知る楳図さんの姿があった。

 「そんなにたくさんは持っていないですよ。30着くらいかな。縞(しま)の太さもいろいろあります。太いのを着るのは、気が大きい時。気が小さくなると、だんだん幅が狭くなっていく。なるべく目立たないように。シマシマって目立つ模様なんだけど、それで『目立たないように』ってのも難しいよね」。ボーダーを着始めたのは高校卒業後から。「理由は単純で、僕はやせていたから、それをごまかすため」だった。

 楳図さんといえば、「ホラー漫画の第一人者」。そのきっかけとなったのが、子供の頃の思い出だった。「4、5歳くらいの時だったんですが、当時住んでいた村に伝わる『へび女』の話に興味を持ったんです。怖いけれど、すごく面白かった。でも、その後忘れていたんですね。それで、漫画家をやろうして『どのジャンルを選ぼうか?』と考えた時に『そうだ、へび女だ』と思いました」

 漫画には一般的に快活な作品が多い中で、「ホラー」は“邪道”のようにもみえる。だが、そこには楳図さんの矜持(きょうじ)があった。「僕はギャグ漫画も描くけど、それぞれの道で王道をやっているつもりなんです。ホラーの王道、ギャグの王道。気まぐれでその道を選んだんじゃないんですね」。漫画家になる時、「戦争、病気、貧乏」を描かないと決めた。「それを描くと、すぐに話ができちゃうので。残ったのがホラーだった。ホラーというのは、嫌がったりバカにする人もいるけれど、難しいんですよ」

 それだけに、世間にあふれるホラー作品に対する目も厳しい。「最近のホラーには(物語の背景を描かずに)おどかすだけというものもある。それは、話を考えたとは言えないんです。昔、川端康成が『怪談を書けなければ賞をもらえるような作家にはなれない』と言ったそうですが、その通りなんです」

 「まことちゃん」に代表されるギャグ漫画にも、その思いは共通している。「ギャグとホラーというのは、対極のようであって、実はそうではない。怖いとおかしいの違いはあるけれど、どっちもありえないこと。『エーッ』という着想点やオチが入っていないと成り立たないという意味では、同じなんです」

 その「まことちゃん」で知られる決めポーズが「グワシ」だ。左手の中指と小指を曲げ、前に突き出すポーズは、読者からの投稿がきっかけで生まれた。「意味は特にないんですが、力強くてインパクトのある言葉ということに尽きます。『グワーッ』だと叫び声になっちゃうから、そこで『シ』で締める。決めぜりふみたくなりますよね。そうやって言葉を考えていくのって楽しいんです」

 最近は自らの顔を明かさない漫画家も多い中で、“マルチタレント”として表に出た先駆者。今世紀に入ってからは映画やバラエティー番組への出演など、タレント活動が中心だったが、今年1~3月に東京で開かれた「楳図かずお大美術展」(20日まで大阪・あべのハルカス美術館で開催中、その後は全国を巡回予定。詳細が決まり次第、順次公式ホームページ等で発表)では、「14歳」(90~95年)以来、27年ぶりとなる新作「ZOKU―」を発表した。

 きっかけは、意思を持つようになったロボットが主人公のSF漫画「わたしは真悟」が、2018年に欧州最大規模の漫画の祭典・仏アングレーム国際漫画祭の「遺産賞」を受賞したことだった。「(受賞を聞いて)すごいタイトルの賞で『わー、すごい』と思って、その途端に『あ、描くわ』と言ったんです。スルスルっと(アイデアが)出てきちゃったんですが、『これはスゴイぞ』と。(休筆していた)27年間のものが一気に出てきたというしか、言いようがない。火山がドカーンという感じですね」

 「ZOKU―」は制作に4年の期間を費やしたアクリル絵画による101点の連作。漫画というよりも、「芸術品」とも呼べる。そんな楳図さんは自身の肩書を「大芸術家」とするが、さらに「その先」を目指しているという。「究極は自分の名前だと思うんですよ。肩書は『UMEZZ(楳図)』。ピカソだってダリだって(画家という肩書を付けられずに)名前で呼ばれる。あんなふうになりたいです。でも、まだそこまではいけてはいない。これからなるつもりです」

 その目標を達成するために不可欠なのが「3密」。もちろん、新型コロナウイルスの「密接・密集・密閉」ではない。「僕の言うのは『3つの秘密』。そのうち一つは今回の展覧会のことで、もう公になっちゃったから、今は『2密』ですけどね。次のが明らかになるのは、いくら早くても来年か再来年かな…。みんな、ひっくり返ると思いますよ。僕自身も楽しみにしています」

 秘密だけに、その内容を最後まで明かしてはくれなかったが、自信満々の様子。早く「実はこれが『2密』のうちの一つでした」と種明かしをする楳図さんの満面の笑みを見たい。

 ◆楳図 かずお(うめず・かずお)本名・一雄。1936年9月3日、和歌山県高野町生まれ、奈良県育ち。86歳。小学4年の時から漫画を描き始め、高校3年の時に「別世界」「森の兄妹」でデビュー。貸本漫画家として活動後、少女漫画誌「週刊少女フレンド」で恐怖漫画家として知られるようになる。72年連載開始の「漂流教室」が人気となり、75年に同作で第20回小学館漫画賞受賞。2014年には映画「マザー」(主演・片岡愛之助)で初監督を務めた。19年、文化庁長官表彰。

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