日韓W杯ベルギー戦から20年 "つま先ゴール"の鈴木隆行氏、勝負決めるのは「強い気持ち」

スポーツ報知
1次リーグ初戦のベルギー戦、後半14分に右足つま先でゴールを決めた鈴木

 サッカー日本代表が初めてW杯を自国開催し、1次リーグ突破を決めた2002年の日韓大会から5月31日でちょうど20年を迎えた。2―2のドローで初の勝ち点を獲得した初戦のベルギー戦で同大会初得点をマークしたのは、元日本代表FW鈴木隆行氏(45)だ。20年の節目にスポーツ報知のインタビューに応じ「つま先ゴール」が生まれた背景、森保ジャパンへのエールなどを語った。(取材・構成=種村 亮)

 日韓W杯を象徴するシーンの1つである「鈴木隆行のつま先ゴール」。1点を追う後半14分、2トップの一角として先発した鈴木氏が自陣にいたMF小野伸二(42)=現・札幌=からのロングボールに反応した所から始まった。

 「DFラインの背後を狙おうという意識はあまりなくて、伸二からボールが出たから追いかけたって感じですね。走ったからパスが出たわけじゃなかった。伸二としては『ここに走れよ』ということだったんだと思います」

 前方にはベルギーDFがいたが、進路を塞ぐように速度を緩めた相手を鈴木氏が押しのけ、GKとの1対1に。バウンドして浮き上がってきたボールに懸命に右足を伸ばし、つま先でゴールへと押し込んだ。同点弾を呼び込んだのは、最後まで諦めない姿勢だった。

 「前に1人、DFがいたけど(ボールの処理を)ミスしたな、という感覚はあった。GKに任せてボールに向かってなかったから、自分が先に触れるなと。(シュート後は)GKと真正面からぶつかってボールが最初は見えなかったのですが、GKの横からのぞいたらゴールにまっすぐ転がっていったのは記憶に残ってますね」

 立ち上がると歓喜の雄たけびをあげ、鈴木氏は仲間からもみくちゃにされた。5万5256人が詰めかけた埼玉スタジアムも大歓声がわき起こったが、ストライカーの耳には届いていなかった。

 「熱狂ぶりは分からなかったです。覚えているのは安心した、という気持ちだけ。得点できたという、うれしい気持ちはあるんですけど、追いついただけだったので。心からは喜べなかった。安心しただけです」

 日本はベルギー戦で貴重な勝ち点1を手にすると、続くロシア戦、チュニジア戦に連勝し無敗で1次リーグ突破。決勝トーナメント1回戦でトルコに敗退したが、フランス大会では1勝もできなかった日本の躍進に世間は大いに湧いた。その盛り上がりとは対照的に、W杯という大舞台で感じたのは世界の強豪とのレベルの差だったという。

 「大会での経験は、自信には一切ならなかった。逆です。逆に『このままではダメだ』と痛烈に感じた。これから代表やヨーロッパで活躍するには、今のレベルでは無理だなと正直思いました。実力と、ああいう場で戦う経験が足りない。国を背負って戦うプレッシャーは他の大会とはまったく違った。欧州の厳しい環境でもまれて、そこで結果を出していかないといけない、と。だからすぐ『ヨーロッパに行きたい』と思いました」

 日韓大会から20年。日本サッカーの成長を「技術レベルはすごく上がった。今の代表には到底及ばない」と話す一方、森保ジャパンへ望むものもある。当時の代表チームに備わっていた、強い思いをプレーに表現して戦うことだ。

 「周りを見ると、絶対に負けないという気持ちの強さがあった。チームメートとして心強いというか、気持ちをプレーに乗せられる選手が多かったと思います。上のレベルで最後に勝ちきれるかどうかという状況では、そういう所がないと競り勝てないのかなという気がします。僕らにはチームでの力がなかった。しかし、今の代表には力がある。高い技術の上に気持ちをプラスしていってくれれば」

 11月に開幕するカタール大会まで残り半年を切った。1次リーグはドイツ、スペインが同組に入る激戦区だが、鈴木氏は日本サッカー界にとって悲願の8強進出へ太鼓判を押す。

 「今のチームには大舞台で経験を積んできた選手も多い。トップクラスが相手ですけど、自分たちの目標まで勝てる可能性は十分にあると思っている。とにかく良い準備をして、良いコンディションで大会に臨めることを願ってます」

 ◆鈴木 隆行(すずき・たかゆき)1976年6月5日、茨城・日立市生まれ。45歳。日立工から95年に鹿島へ入団。2000年から主力に定着しリーグ、ナビスコ杯(現ルヴァン杯)、天皇杯の3冠に貢献。日本代表は01年4月のスペイン戦でデビューし、国際Aマッチ通算55試合11得点。J1通算108試合17得点。J2通算128試合24得点。現在は首都圏で「UNBRANDED WOLVES SOCCER SCHOOL」を運営。

 ◆1次リーグ第1戦 日本2―2ベルギー(6月4日、埼玉) 得点【日】鈴木、稲本【ベ】ウィルモッツ、ファンデルヘイデン

 追いつかれてのドローとなったが、W杯の舞台で史上初めて勝ち点を奪った。0―1の後半14分、MF小野のロングパスをFW鈴木がつま先で押し込んで同点に。22分にはMF稲本が相手DFを抜き去り、左足で豪快に蹴り込んで2点目を挙げた。同30分に同点に追いつかれたものの、最難関とみられた初戦での勝ち点1獲得に日本中が沸いた。

 ◆1次リーグ第2戦 日本1―0ロシア(6月9日、横浜国際) 得点【日】稲本

 前半は共に守備を意識し、スコアレスドローで折り返した。均衡を破ったのは日本。後半6分、DF中田浩のパスをFW柳沢が左足でコースを変えると、ゴール前に抜け出したMF稲本が右足でゴール上に突き刺し、2戦連続得点となる決勝弾を入れた。後半26分にFW中山、同29分にはMF服部を入れて守りを固め逃げ切った。6万6108人が集まった横浜で日本が待望のW杯初勝利を挙げた。

 ◆1次リーグ第3戦 日本2―0チュニジア(6月14日、長居) 得点【日】森島、中田英

 0―0で折り返し、後半からMF稲本、FW柳沢に代えてMF市川、FW森島を投入。同3分、右サイドでFW鈴木と競ったDFブザエンヌのクリアが中央に流れ、森島が体をひねりながら右足でゴール左に先制点。同30分には、右サイドの市川のセンタリングに中田英が頭で合わせ2点目を挙げた。1次リーグ首位突破を決め、同日に16強入りを決めた韓国とともにアジア勢初の無敗進出となった。

 ◆決勝T1回戦 トルコ1―0日本(6月18日、宮城) 得点【ト】ダバラ

 手の内を探り合う前半10分過ぎ、DF中田浩のバックパスを突かれ、DF宮本のカバーでなんとかCKに逃れた。だが同12分にそのCKからヘディングで先制された。前半42分にMF三都主が放った左足FKはバーを直撃し、後半7分にはMF中田英がこぼれ球を蹴り込んだが、相手DFに阻まれた。日本はボールを保持する時間は長かったが、ベスト8を目前にして力尽きた。

 ◆日韓W杯アラカルト

 【主な出来事】

 ▽ベッカムヘア流行 イングランド代表MFベッカムに憧れた若者を中心に、ソフトモヒカンの「ベッカムヘア」が流行。ブラジル代表FWロナウドの「大五郎カット」も話題に

 ▽中津江村フィーバー 人口1360人の大分・中津江村(現・日田市)がカメルーン代表のキャンプ地に。同代表がW杯出場ボーナスを巡るストライキなどで予定より遅れて来日するドタバタもあり、大きな話題となった。同年の新語・流行語大賞は「W杯(中津江村)」

 ▽フラット3 トルシエ監督が日本に持ち込んだ3―5―2システムの3バックの動き方。3人が横一線のラインを形成し、積極的にラインを押し上げることで中盤をコンパクトにして相手にプレスをかける動き。W杯本大会では右に松田直樹、左に中田浩二が入り、中央は森岡隆三と宮本恒靖が担った。

 ▽バットマン 大会前に鼻骨を骨折したDF宮本恒靖が、黒のフェースガードを装着して試合に出場。海外メディアが「バットマン」と命名

 ▽名主審がCM出演 日本―トルコや決勝戦などを裁いたイタリア人のコッリーナ主審が、スキンヘッドの風貌(ふうぼう)で人気を博す。大会後に日本企業の冷凍たこ焼きCMに出演

 【記録】

 ▽優勝 ブラジル(2大会ぶり5回目)

 ▽総入場者数 270万5197人(1試合平均4万2269人)

 ▽得点王 FWロナウド(ブラジル・8点)

 ▽最優秀選手 GKカーン(ドイツ)

【日本代表】

 ▽監督 フィリップ・トルシエ

 ▽主将 DF森岡隆三

 ▽最年長 FW中山雅史(34歳)

 ▽最年少 MF稲本潤一、DF中田浩二、MF小野伸二、DF市川大祐、GK曽ケ端準(22歳)

 ▽最多出場時間 GK楢崎正剛、DF松田直樹、DF中田浩二、MF戸田和幸(4試合360分)

 ▽最多得点 MF稲本潤一(2点)

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