【森永卓郎の本音】毒まんじゅう再び 

スポーツ報知
森永卓郎氏

 今から18年も前の話だ。私は、「年収300万円」という言葉が新語・流行語大賞のトップテンに選ばれて、授賞式の会場にいた。隣の席は、「毒まんじゅう」で大賞を受賞した野中広務元官房長官だった。

 2003年の自民党総裁選は、現職の小泉純一郎に藤井孝男、高村正彦、亀井静香が挑む形で、4氏によって争われていた。そこで裏切りが起きた。橋本派の会長代理である村岡兼造氏が自派の藤井孝男ではなく森派の小泉純一郎を支持したのだ。野中広務氏はそれを受けて、「村岡氏は毒まんじゅうを食らったのではないか」と発言した。それが流行語となったのだ。

 私は、隣席の野中氏に語り掛けた。「小泉さんは、今回の総裁選で野中さんにも毒まんじゅうを送ってきたんですか」。野中氏は即答した。「そうだよ。副総理にしてやるって。もちろん、すぐに拒否したけどね」

 そうした自民党内の権力闘争の構図は、ちっとも変わっていない。今年の総裁選は史上稀(まれ)にみる激戦だと言われている。だから、1回目の投票で決着せず、決選投票になった時点で、とてつもない数の毒まんじゅうが飛び交うのではないか。

 本当は、どの陣営が誰にどんなポストの毒まんじゅうを送ったのかが分かれば、綺麗(きれい)ごとを並べる政治家の本当の姿が見えてくるのだが、具体的な毒まんじゅうの事例が報道されることはほとんどない。

 それは当然だ。もし毒まんじゅうの存在が露(あら)わになったら、送った方も、食べた方も、政治生命に関わってしまうからだ。「支持をしたのに約束のポストをもらえなかった」という抗議は、一切できないのだ。

 ただ、膨大な数のまんじゅうが飛び交えば、一つくらい拾えるまんじゅうが、あるかもしれない。ここはジャーナリストの腕の見せどころだ。(経済アナリスト・森永卓郎)

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