“じぃじに届け!”中村吉右衛門の孫、7歳尾上丑之助が急成長。子役最難「小四郎」で切腹シーンを熱演中

スポーツ報知
「近江源氏先陣館 盛綱陣屋」の一場面。(左から)松本幸四郎、尾上丑之助、中村歌六(C)松竹

 歌舞伎俳優・尾上菊之助の長男、尾上丑之助が目覚ましい成長ぶりを見せている。東京・歌舞伎座「九月大歌舞伎」(27日まで)の第2部「近江源氏先陣館 盛綱陣屋」で、丑之助は子役の中で最も難しいとされる大役・小四郎に挑戦中だ。

 大坂の陣で敵味方に分かれた真田信幸、幸村兄弟の悲劇をもとに、舞台を鎌倉時代に移して描かれる名作。松本幸四郎が主人公の兄・佐々木盛綱を。弟・高綱の子で父の計略のために切腹して自害するのが丑之助演じる小四郎だ。展開でこの子供が重要なカギを握っていることから、難しい役の筆頭格に挙げられる。切腹し、果てるまでの芝居も目を離すことができない。

 丑之助は膨大なセリフの一言一句を、劇場の隅々までよく通る明瞭さと力強さで伝えていた。これまで見てきた丑之助の姿とは違う。自分の役に集中しながら、共演者の芝居に絶えずアンテナを張る冷静さもあった。覚悟を秘めて舞台に立っているようだった。けなげな芝居に目頭を押さえるお客さんもいた。

 2016年5月に初お目見えして5年になる。歌舞伎が大好きな男の子だが繊細さの裏返しか、これまでどこか控えめで線の細い芝居をしている印象を受けてきた。中には小器用に何でもすぐにこなせてしまう達者な子供もいる。対して丑之助はゆっくり、じっくり歩みを進め、大きく、深みのある役者に育っていくタイプなのだろうと想像していた。

 丑之助の祖父、中村吉右衛門は3月末から療養中にある。本来なら、9月の歌舞伎座は名優、初代吉右衛門を顕彰する「秀山祭」が行われるのが恒例。「盛綱陣屋」は上演予定の演目で吉右衛門の盛綱、丑之助の小四郎という配役で話は進み始めていた。かわいい孫の成長こそが、吉右衛門の生きがいで、活力であることは本人も度々語っている。それだけに小四郎の演じ方も近年の“型”とは少し違うものが準備され始めていた。初代が残した「書き抜き」(役ごとのセリフが書かれたもの)があり、倒れる前もそれを吉右衛門は持ち歩いて考えを温めていたという。

 そんな背景を、丑之助も周囲から聞かされただろう。12月で8歳。自害といっても、理解するのは簡単ではない。しかし、闘病を続ける祖父を通して「命」について幼いながらも考えただろう。これまで舞台に出るときにそばにいた父や祖父はこの公演ではいない。いつもと違った環境もまた、丑之助を奮い立たせ強くさせたのではないか。

 今回、縁戚にあたる幸四郎に盛綱は託された。吉右衛門の復帰を願う気持ちは一緒だ。小四郎も経験している幸四郎は丑之助が抱える気持ちも手に取るように分かるだろう。小さな体に詰まった覚悟。成長した頼もしい姿を見ながら「じぃじに届け!」の思いも込められていると受け止めた。(記者コラム)

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