【報知美術部】第13弾 坂井泉水「負けないで」普遍の言葉たち―歌い継がれるZARDの名曲

スポーツ報知

 「負けないで」「揺れる想(おも)い」などの名曲で知られるZARDの坂井泉水さん(1967~2007年)が残した詞の世界をたどる「ZARD/坂井泉水 心に響くことば」展が、東京・町田市民文学館ことばらんどで7月11日まで開催されている。ZARD世代のアートテラー・とに~(38)は「負けないで」の詞に込められた普遍性にアートの神髄を見ている。

 毎年夏になると、ZARDの「負けないで」が聞こえてきます。甲子園球場のアルプススタンドからも。「24時間テレビ」のチャリティーマラソンのクライマックスシーンでも。リリースから28年が経過した今も、日本人の応援歌で在り続けています。国宝を追い求めて日本中を旅している僕も、険しい山道を歩く途中で聴くと、不思議なくらい頑張れるんです。

 「揺れる想い」「マイ フレンド」「運命のルーレット廻して」…。ZARD世代の僕ですけど、文学館で坂井さんの詞を展示すると聞いた時は少し意外でした。文学的と語るには、ZARDの詞はあまりにシンプルでストレートではないかと思ったからです。しかし、展示を見てゆっくりと言葉に触れた今では、考えが変わりました。

 会場には、坂井さんが好んだという石川啄木や室生犀星らの詩集も紹介されていて、ふと合点がいきました。巨木から仏像を削り出すように、極限まで削ぎ落として生まれたものがZARDの詞だったのだと思います。複雑でレトリック(巧みな表現)を駆使したような言葉ももちろん文学的ですが、坂井さんの残した普遍的な言葉もまた、アートだと思えたんです。

 阪神・淡路大震災や東日本大震災の被災地でも流れた国民的応援歌「負けないで」。とても優しく自然に歌われていますけど、改めて考えてみると、とても強い5文字です。「負けるな」「勝て」ということですから。日本シリーズ第7戦まで取っておきたいフレーズです(笑い)。「追いかけて 遥かな夢を」というのも、実はムチャクチャ大変ですよね。同じ応援歌で言うなら、中島みゆきさんの「ファイト!」と比べても、もっともっと強く背中を押す歌詞です。今、コロナ禍になって「リーダーから強い言葉を聞きたい」と言われたりしますが、まさに「負けないで」の歌詞こそが強い言葉。時節柄、とても強く響きました。

 揺れる想いは持っていたであろう坂井さんですけど、表現者としての姿勢は揺れることはなかったと思います。シンプルでストレートで、普遍的な言葉で歌い続けた。表現者はキャリアを重ねると技巧を見せたくなったり、社会的なメッセージを発したくなりがちですけど、普遍的であることを貫いた。言葉だけでなく生きざまも強いアーティストです。

 自分自身の心情を書いているようで、坂井さんは誰もが抱いているものを書いていた。だから、僕らは坂井さんがどんな人だったかを、あまり知りません。存在が持つ神秘性が、さらに普遍性を際立たせるのです。あ、でも、今回の取材で知りました。小田急線に乗ってスタジオに通っていたこと、ジャイアンツ・ファンだったこと。素顔は等身大の女性だったようですね。

 ◆ZARD(ザード)1991年デビューのユニット。ボーカルの坂井泉水さんが155曲の詞を手掛けた。シングルとアルバムの総売り上げ枚数3763.3万枚は歴代10位。今月27日、初の全編フルオーケストラ公演「永遠」を東京文化会館大ホールで(昼夜2公演)。「心に響くことば展」では「負けないで」の直筆原稿、愛用のヘッドホンやトイピアノなどを展示。坂井さんの詞を体感できる空間展示やZARD検定も。

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