広報に転身の春日由実さん「人生の幅を広げてくれた会社に感謝」…フジテレビ元アナウンサー第二の人生(4)

スポーツ報知
「人生の幅を広げてくれた会社に感謝」とフジテレビへの思いを明かす春日由実さん(カメラ・関口 俊明)

 会社員にとって避けられない人事異動の瞬間は華やかにテレビ画面を彩るアナウンサーたちにもやってくる。高倍率を勝ち抜き、フジテレビに入社。カメラの前で活躍後、他部署に移り奮闘中の元「ニュースの顔」たちを追う今回の連載。2回目に登場するのは現在、広報局企業広報部副部長として日々、取材の窓口として奔走する春日由実さん(46)。「とくダネ!」などで魅力的な笑顔を見せてきた春日さんは今、現役アナの魅力を各媒体に届けるプロの広報ウーマンになっていた。(構成・中村 健吾)

 (前編から続く)

 6年先輩のフジテレビプロデューサーの夫を持つ妻の顔と小5、小2の女児を育てる母の顔も持つ春日さん。広報局社員としての多忙な毎日も笑顔で語る。

 「ずっと動いていますね。仕事が終わったら猛ダッシュで帰宅。子供たちに宿題をやらせて夕食。お風呂に入れて寝かせて。子供が寝たら、今度は学校の準備や自分の仕事を済ませ、あっという間に1日が終わる。毎日が時間との闘いです。なので、朝の時間がとても貴重で、とにかくできることは早朝に終わらせる。洗濯を済ませ、お弁当と朝ごはんを作り、朝も子供たちの勉強を見て、夕飯の下準備をしてから仕事に。ありがたいことに『めざまし天気』や『とくダネ!』などを担当していたので、朝早いことや不規則なのは体が対応できるんです」

 体の順応性とともに「あの人の教え」が体に染みついている。常に心にあるのが、今年3月26日の放送で「情報プレゼンター とくダネ!」が終了した小倉智昭さん(73)の言葉の数々だ。

 「『とくダネ!』が入社3年目に始まり、プレゼンターとして参加しました。番組のスローガンが『そこに発見はあるのかい? そこにドラマはあるのかい?』でした。スタッフから『現場に行ったら必ず何か発見がある。そこにあるドラマを取材して、プレゼンしなさい』、『カメラは見なくていい。小倉さんが納得するプレゼンをすれば、視聴者にも伝わるから』と言われ、毎日が叱咤(しった)の嵐でした。当時は進行が書いてあるだけの台本が2~3枚。MCの小倉智昭さんと佐々木恭子アナにスタジオでプレゼンをして、いかに納得してもらうかが勝負。小倉さんは人生経験も知識も豊富な方。私が答えられるか答えられないかは関係なく、プレゼンで感じた疑問や好奇心をそのまま生放送で質問してきます。いつ、どんな質問が飛んでくるかドキドキで、相当、鍛えられましたね」

 その時、小倉氏からかけられた一生の支えになる言葉があった。

 「『とくダネ!』のプレゼンでは『春日らしさが全然、伝わらない』って、スタッフにいつも言われていました。私らしさってなんですか?って、心の中で泣きながら少しキレ気味に聞いていましたね。25歳くらいの時かな。『らしさ』がないのは、その時の私の言葉には響くものがなかったから。でも、小倉さんは『俺がスタジオにいるんだから、何があっても必ずフォローできるよ。安心してプレゼンしなさい』って。それから不思議と思いっ切りプレゼンできるようになりました。私だけでなく番組に携わったフジテレビアナウンサーは皆、小倉さんに育ててもらったと思っているのではないでしょうか。アナウンサーはきれいな声で原稿を読むだけでなく、自分の言葉で伝えることが大切だと」

 小倉氏の教えのもとで気付き、培った「自分の言葉で伝える」こと。それは42歳にして異動した企業広報の分野でも武器になった。

 「まず『奇跡体験!アンビリーバボー』や『アウト×デラックス』、『ボクらの時代』などの広報宣伝を1年間担当しました。タレントさんや制作陣のコメントを取って、原稿を書き、各媒体にリリースする。このリリースが採用されるか否かは私の文章力次第のところもあって、ものすごくプレッシャーを感じました。私は20年も社会人をやっているのに、まだ、こんなにドキドキするんだって。でも、元アナウンサーって得ですね。顔を知ってもらっているので、リリースのためのインタビュー取材も、すごくやりやすかった」

 その後、企業広報に異動し、現在は局の顔であるアナウンサーたちの取材の窓口も担当している。

 「弊社のアナウンサーを取材していただくのであれば、そこにあるドラマを知って欲しいんです。画面には映らないアナウンサーの素を知ってもらうことで、親近感を持って理解を深めてもらえる。取材してもらって、第一印象を越えて好感度2割増しで帰っていただけたら、それが今、私が一番、やりがいを感じる瞬間。『今日の取材をセッティングできて良かったな』と感じた日は、とてもいい日ですね」

 アナウンサーの魅力をいかにうまく伝えるか。それが腕の見せ所だ。

 「良くも悪くも情報量が多い時代なので様々な誤解もある中、丁寧に理解してもらうことも大切です。1人でも多くのアナウンサーの取材をコーディネートし、オンエアでは見られないそれぞれの素顔を取り上げてもらう。例えば、『S―PARK』キャスターの宮司愛海アナは積極的に現場に足を運び、アスリートの試合結果やコメントなどを競技ごとにルーズリーフにまとめて勉強しているんです。それがものすごい量で…。アナウンサーの仕事は100調べてもオンエアに反映されるのは、その10も満たない程度。現場での温度感なども肌で感じたいと一生懸命に取材する彼女の姿は1人の先輩としても心から応援したくなりました。彼女の仕事との向き合い方とアスリートの情報をまとめたルーズリーフは『ノートのまとめ方特集』として、あえてスポーツをあまり見ない(読者層の)ファッション誌で掲載してもらいました。同じ働く女性として、何か共感してもらえたらと思って」

 後輩にあたる女性アナたちをサポートしつつ、フジのイメージアップを図る―。そんな仕事をこなす上で、自身がアナウンサーだったことが生きている。

 「私が企業広報で働いている利点は誰よりもアナウンサーのことを知っていること。華やかな画面に出ている姿だけでなく、彼女たち、彼らがいかに努力をしているかを近くで見てきました。その姿を1人でも多くの人に知ってもらいたいと思うんです」

 それでも、ここまでの気持ちにたどり着くまでには時間がかかった。

 「アナウンサーだった時は私も同じ出役(出演者)だから主観でしか考えられなかった。いかに自分が画面に出て、どう伝えるかにしか興味がありませんでしたから…。企業広報に来てからは客観的にアナウンサーを見られるようになりました。今、アナウンス室には70人以上いますが、仕事をする舞台はそれぞれの番組で成果を出すのも個々。目の前の仕事にがむしゃらに貪欲に。個人商店ののれんを守る意識がないと、結果を残せないから―」

 企業広報マンとして、妻として、母として、がむしゃらに突っ走る毎日の理由に「フジへの愛」がある。

 「感謝しているのは人生の幅を広げてくれたのがフジテレビだから。20代にアナウンサーとして入社し結婚。30代に出産を経験。40代で初めての人事異動。アナウンサーであれ企業広報であれ、環境や年齢が変わっても、どれも手が抜けないことばかり。育ててもらった恩返しは、まだまだこれから。だから、アナウンサーとしてもオンリーワン、広報マンとしてもオンリーワンでいたいんです。『空気を読むだけでなく、空気をつくる人間になりなさい』って、子どもにもいつも言っています」

 テレビ画面の裏側でフジのイメージアップのために奔走する元女性アナは、そう言って誰をも明るくするとびきりの笑顔を見せた。(次回15日配信分は川端健嗣さんが登場)

 ◆春日 由実(かすが・ゆみ) 1974年12月25日、兵庫県生まれ。46歳。中、高校時代を米ウィスコンシン州で過ごし、帰国。97年、学習院大文学部卒業後、フジテレビ入社。アナウンサーとして「とくダネ!」プレゼンター、「FNNスーパーニュースWEEKEND」メインキャスターなどを務め、02年、同局社員と結婚。17年、広報宣伝室に異動。現在、企業広報部勤務。

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