「M3GAN」(ジェラルド・ジョンストン監督)ポスター  左:日本版=IMDb https://www.imdb.com/title/tt8760708/mediaviewer/rm4064033281?ref_=ttmi_mi_all_pos_31     右:米国版=IMDb https://www.imdb.com/title/tt8760708/mediaviewer/rm4216980993/?ref_=tt_ov_i

「M3GAN」(ジェラルド・ジョンストン監督)ポスター 左:日本版=IMDb https://www.imdb.com/title/tt8760708/mediaviewer/rm4064033281?ref_=ttmi_mi_all_pos_31 右:米国版=IMDb https://www.imdb.com/title/tt8760708/mediaviewer/rm4216980993/?ref_=tt_ov_i

2023.7.25

「M3GAN ミーガン」は日本版だけ刃物を持っている! 洋画ポスターについて考えた

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

山田あゆみ

山田あゆみ

海外版ポスターを探して眺めるのが好きだ。自分が日本人だからか、英語表記のポスターはスタイリッシュに感じるし、映画の内容に合っていると思うデザインも多い。洋画の日本版ポスターはキャッチコピーや説明文が多すぎるものがほとんどだ。
 

なぜこうも説明的なのか

そこで現在公開中の「M3GAN ミーガン」を楽しく鑑賞したあとに、海外版ポスターを探してみた。日本版のポスターは、ミーガンが左手に刃物を持っている。ところが本国の米国版はじめほとんどの国・地域のポスターでは、ミーガンは両手を体の前で重ねていて、刃物は持っていないことに気付いた。
 
やはり説明なしでは日本版ポスターは成立しないのか? なぜ日本版は刃物を持たせたのか? おそらくひとめ見て、ホラー映画だと分かるように工夫したということだろうが、そこまで説明的である必要があるのか。
 

おもわぬ〝事故〟を防ぐため?

疑問をツイッターでつぶやいたところ、驚くほど多くの反響があった。リプ欄を見ていると、その反応はさまざまだったが「説明しすぎ。安っぽい」「刃物をもっていなくてもホラーに見える」というコメントが複数あった。だが一方で「ホラー映画だと分かりやすくて良い」というコメントも多く寄せられた。ポスターだけを見て鑑賞する映画を決める人にとっては、ホラーだと分かりやすい方がいいそうだ。
 
コメントの中には、「実際に母親が『ザ・メニュー』(2022年)を料理人のサクセスストーリーだと思って見に行き、ドヨンとした」というものもあった。あの狂気に満ちた映画をほんわかした心持ちで見はじめたと思うと、かわいそう……。そういう〝事故〟を防ぐには、映画ポスターが説明的である意味はありそうだ。
 
では、日本版映画ポスターがいかに説明的なのか、その意図も考えながらいくつか比較したい。


「アナベル 死霊博物館」(ゲイリー・ドーベルマン監督)のポスター
左:日本版=IMDb https://www.imdb.com/title/tt8350360/mediaviewer/rm2804782081/
右:米国版=IMDb https://www.imdb.com/title/tt8350360/mediaviewer/rm573877505/
 

︎ホラーは「怖い」と分かるように

まず、呪いの人形が大暴れする「アナベル 死霊博物館」(19年、ゲイリー・ドーベルマン監督)だ。日本だけメインポスターが、本国や他国と違う。眠る少女の後ろに不気味な人形が顔をのぞかせて、いかにも恐ろしいことが起こりそうな雰囲気が満載だ。このビジュアル自体は本国にもあるが、説明文は日本オリジナルだ。ひらがなの「おるすばん」がシンプルに怖い。
 
また、「エスター ファースト・キル」(23年)のポスターの違いに注目してほしい。


「エスターファースト・キル」(ウィリアム・ブレント・ベル監督)のポスター 
左:日本版=©2021 ESTHER HOLDINGS LLC and DC ESTHER HOLDINGS, LLC. All rights reserved. Prime Videoにて独占配信中
右:米国版=IMDb https://www.imdb.com/title/tt11851548/mediaviewer/rm3640789505/?ref_=tt_ov_i
  
孤児院から引き取った少女エスターが引き起こす惨劇を描いたシリーズの2作目。米国版のメインポスターは、背景と服がピンク色で、エスターの後ろ姿が真ん中にある。このポスターだと、タイトルが「エスター」と書かれていても1作目を知っている人や続編の存在を知る人でなければ、ホラーだと分からないかもしれない。
 
日本版はピンクと青で明確に分けて「この娘、やっぱり変だ。」と真ん中に書かれている。少女の顔に血がついているしホラーだというのは一目瞭然。これだけやれば、この女の子がやばいことは分かるだろう。
 
ちなみに、前作「エスター」(09年)のポスターとタイトル文字の装飾や「この娘、どこかが変だ。」というキャッチコピー等が、リンクしている。シリーズ作品へのリスペクトを感じさせる作りだ。
 

スターかアクションか

では、ホラー映画以外はどうだろうか。「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(03年)は、トム・ハンクス演じる捜査官が、詐欺師のレオナルド・ディカプリオを追いかけるサスペンスだ。各国のポスターを比べてみると、主演のトム・ハンクスとレオナルド・ディカプリオの映りが大きく違う。


「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」(スティーブン・スピルバーグ監督)のポスター
左:日本版=IMDb https://www.imdb.com/title/tt0264464/mediaviewer/rm2373020416?ref=ttmimi_all_pos_227
右:米国版=IMDb https://www.imdb.com/title/tt0264464/mediaviewer/rm4129593344/

米国版の方が疾走感があり、映画の内容を表現していると感じるが、宣伝のためにはふたりの顔がはっきり見える日本版の方が効果的だろう。なんせ2人とも大スターだ。ちなみにフランス版も日本版と同バージョンをメインポスターにしていた。
 

「M:i」シリーズ日米で大違い

ハリウッドスターといえば、トム・クルーズ主演のアクション映画「ミッション:インポッシブル」は、シリーズを通してデザインに米国版と日本版に大きな違いがあった。


「ミッション:インポッシブル」(ブライアン・デ・パルマ監督)ポスター
左:日本版=IMDb https://www.imdb.com//title/tt0117060/mediaviewer/rm2002994432?ref_=ext_shr_lnk
右:米国版=IMDb https://www.imdb.com/title/tt0117060/mediaviewer/rm3243234304/?ref_=tt_ov_i

日本版の多くは、見どころのアクションシーンをポスターにしているのに比べて、米国版はキャストを押し出したデザインとなっている。アクションシーンのスリリングさがパッと分かる日本版は、注目を集めたはずだ。



「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」(ブラッド・バード監督)ポスター
左:日本版=IMDb https://www.imdb.com/title/tt1229238/mediaviewer/rm4152385280?ref=ttmimi_all_pos_304
中:米国版=IMDb https://www.imdb.com/title/tt1229238/mediaviewer/rm3598430720/?ref_=tt_ov_i
右:IMAX版=IMDb https://www.imdb.com/title/tt1229238/mediaviewer/rm458430464?ref_=ttmi_mi_all_pos_306 
 
ちなみにこのシリーズはIMAXが導入された「ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル」(11年)から、IMAX版ポスターが存在する。こちらは、1作目の日本版ポスターと同様に、見せ場のワンショットを一枚絵にしたデザインになっている。日本版は、ある意味先取りをしていたともいえる。

オタクはどうせ見るんだから

ここまで比較してみて、やはり日本版ポスターは作品にもよるが、海外版に比べると説明的だ。ただわざわざ他国のポスターと比較するなんて、自分も含めた映画オタクのすることだ。そういう映画ファンの多くは、ポスターがいかにダサいと感じても、見たい映画ならば見にいくだろう。
 
とはいえ、日本人全員が映画に興味があるわけではない。より多くの人を映画館に呼び込むにはポスターを分かりやすくすることは、必要かもしれない。
 

国民性映すポスター談議

今回「M3GAN ミーガン」についてのツイートが拡散され、さまざまな考察や意見が飛び交った。「こういう視点はおもしろい!」というコメントがあったように、世界のポスターを比較すると国民性や宗教観などに、話が膨らむかもしれない。
 
そう、映画ポスターはやっぱりおもしろいのだ。映画オタクではない人も、映画ポスターに目を向けてみてはどうだろうか。

ライター
山田あゆみ

山田あゆみ

やまだ・あゆみ 1988年長崎県出身。2011年関西大政策創造学部卒業。18年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを開催。「カランコエの花」「フランシス・ハ」などを上映。映画サイトCinemarcheにてコラム「山田あゆみのあしたも映画日和」連載。好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を見る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中。