<出会う>京都のひと

「単に雑貨を扱うだけではなく、その国の歴史や文化も伝えたいのです」

北欧やイギリス、ドイツ。本と輸入雑貨のセレクトショップ。

NORR KYOTO 店主 石川瑤子

■先入観なしで そのものと向き合う

セレクトショップを訪れる楽しさは、店主の「好き」を堪能できることにある。ここNORR(ノール)も然り。BOOKS&THINGSと記されたガラス扉を開くと、白と水色を基調にした小さな空間に本と雑貨がひしめきあっている。すべて、店主の石川瑤子さんのお眼鏡にかなっているからだろう、一つ一つの品は表情が違うのに、不思議な調和を放っている。

左手の本棚には、イギリス・ドイツ・北欧の文学作品が厳選されている。BOOKS&THINGS と本を先にしたのは、「本は文化そのもの。文学なしにはその文化は伝えられませんから」

■北欧に魅せられて ロンドン、スウェーデンで学ぶ

店名のNORRは、スウェーデン語で「北」を意味する。そう、ここ北山の「北」でもある。石川さんは北に縁の深い人生を歩んできた。

北山のお隣り、松ケ崎出身の石川さん。子どもの頃から建築といった、北欧にまつわるものが好きだった。早稲田大学を卒業後、北欧の輸入雑貨専門店に勤める。

「ビンテージ品を扱う有名店でした。でも、物について知ることはできるけれど、その国の人がどのように暮らし、どのような文化に根ざしているのかは知らない。なにか物足りなさがありました」。

石川さんは27歳でユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンに留学する。北欧地域研究を専門に、歴史、文化、政治経済などあらゆる角度から学んだ。

「6年間かけて、ロンドンとスウェーデンに住みました。ヴァイキングの暮らしまでさかのぼり、今では死語となった古語も勉強しました」。

帰国後には就職を考えたが、ピンとくる会社が見つからなかった。

「単に雑貨を扱うだけではなく、それぞれの国の歴史や文化が伝えたかったんです」。

ならば自分でと、2017年7月に本と輸入雑貨の店をオープンした。

■ビンテージと現代作家を隔てなく

歴史と文化を重視する石川さんの仕入れの方針は、「自分で語れるものしか置かない、売らない」。北欧、イギリス、ドイツの雑貨は、留学中に見つけた文房具や、街や展示会で出会ったものが中心で、すべて石川さんが納得のいくものばかり。現代作家には自分でコンタクトを取り、ビジネスパートナーとなる。

NORRでは、イギリスのヴィクトリアンジュエリーと遊び心のあるオモチャっぽいアクセサリーが隣に並んでいるのがユニークだ。石川さんは、19世紀後半のアンティークと現代作家の作品を、隔てなく陳列する。

「古さの価値や値段にとらわれずに見てほしいのです。『かわいいな』と手に取って、実はそれが100年も前のものだった、なんて素敵なことですよね」。

まずは感じて、そこから深めていくのは、石川さんのスタイルだ。

「雑貨は、北ヨーロッパへのひとつの入り口だと感じています。雑貨から、文化そのものである文学に興味を広げてもらえたら、うれしいです」。

かわいいだけじゃなく、奥深い。さあ、石川さんの「北(ノール)」へ、探索に出かけよう。

(2018年5月10日発行ハンケイ500m vol.43掲載)

コンクリート好きなイギリスの陶芸家・エマのカップ。その奥は、カーネーションとニワトリを取り合わせたテキスタイル。「異種の取り合わせがロンドンっぽいと思うんです」。

NORR KYOTO

京都市左京区下鴨前萩町6-4樹樹ビルD2F

▽TEL:0757085309

▽営業時間:13時~ 19時(木・金・土)

▽定休:定休:日~水、出張のため不定休あり。5月13日~ 30日は休業。