脳腫瘍と聞くと「助からない病気」と思われがちだが、実は脳腫瘍の過半数を占めるのは良性腫瘍だ。しかし、良性の脳腫瘍は進行が遅く、めまいや軽い頭痛などの症状から始まることも多いため、早いうちに病気の存在に気づくのは難しい。どんな症状があるときに脳腫瘍を疑うのか、良性と悪性で症状や治療はどう変わってくるのか、横浜労災病院副院長・脳神経外科部長の周藤高氏に聞いた。
※脳腫瘍には他の場所から転移して起こる転移性脳腫瘍もありますが、今回は脳腫瘍の約85%を占める原発性脳腫瘍について解説します。
脳腫瘍の過半数は、生存率の高い「良性腫瘍」である
脳腫瘍は不治の病というイメージがありますが、どのような腫瘍なのでしょうか。
周藤 脳腫瘍は脳の中にできる腫瘍だと思われやすいのですが、実際は頭蓋骨の内側(頭蓋内)にできるすべての腫瘍を指します。大きく分けると、脳そのものの中にできる腫瘍と、脳の表面を覆う膜(硬膜など)や神経にできて脳を外側から圧迫する腫瘍があります(図1)。
脳腫瘍は悪性より良性のほうが多く、良性の代表が「髄膜腫」です。髄膜腫の中にも、悪性のものや、悪性まではいかないが注意を要するものもありますが、8~9割は良性なので、転移したり命を落としたりすることはほぼありません。
一方、脳そのものの中にできるのが「神経膠腫(しんけいこうしゅ;グリオーマとも呼ばれる)」に代表される悪性腫瘍で、こちらは命に関わります。
脳腫瘍になる人は、年齢や生活習慣などに何らかの傾向はあるのでしょうか。
周藤 脳腫瘍は年齢が上がってから見つかることが多く、多くは40歳以上で判明します。ただし、食事や喫煙、飲酒などの生活習慣が髄膜腫の発生リスクを高めるということは、私の知る限りありません。
性別で見ると、良性の髄膜腫が女性に多い傾向はあります。一部の髄膜腫は女性ホルモンが関与すると言われ、2つ以上の髄膜腫ができる場合(多発髄膜腫)、圧倒的に多いのが女性です。反対に、悪性の神経膠腫は男性のほうがやや多いと言われています。でも、男性ホルモンが関与しているかどうかは分かっていません。
頭蓋内の圧が高まり頭痛が現れる 典型例は「起床時の頭痛」
脳腫瘍はどのような症状がきっかけで見つかることが多いのですか。
周藤 腫瘍の場所にかかわらず、多くの脳腫瘍で現れるのは頭痛です(表1)。脳腫瘍が大きくなるにつれて、頭蓋骨の内側(頭蓋内)がいわばぎゅうぎゅう詰めになり、圧(頭蓋内圧)が高くなって頭痛が出るのです。
脳腫瘍ができる場所により、他にも症状が現れます。腫瘍に圧迫された脳が何の機能を司るかによって、症状はさまざまです。運動中枢が圧迫されれば麻痺が出て手足の力が入りにくくなり、言語中枢が圧迫されると言葉が出にくくなり、後頭部の小脳が押されるとふらつきやめまいが現れます。
悪性の場合は、周囲の脳に広がって神経を侵すため、良性より症状が出やすい傾向があります。また、脳そのものの中に腫瘍ができるので、脳が直接ダメージを受け、けいれんの発作が現れることもあります。
頭蓋内圧が 上がって 起こる症状 |
腫瘍が大きくなって頭蓋骨の内側の圧(頭蓋内圧)が高まり、脳が圧迫されて頭痛や吐き気、意識障害などが起こる |
局所症状 | 腫瘍によって圧迫される脳が何の機能を担うかにより、異なる症状が出る。運動中枢なら麻痺など、言語中枢なら言葉の障害、小脳や脳幹ならめまいや歩行障害が生じる |
けいれん | 腫瘍による脳の圧迫や、腫瘍周囲に生じた脳のむくみ(脳浮腫)により、上記に加えてけいれんの発作も起こす |