はじめての市場調査:アンケート調査票の作り方は?良い例・悪い例

2021年05月10日

はじめての市場調査:アンケート調査票の作り方は?良い例・悪い例

初めてアンケート調査をしようと思う方にとっては、

  • そもそも、どんな質問をするべき?
  • 選択肢はどのぐらい設ければいい?
  • アンケート全体のボリュームは?
  • アンケートでやってはいけないことはあるのか?

こんなふうにわからないことだらけですよね。

「アンケートは調査票がすべてだ」

と言われるほど、市場調査において調査票の設計は重要です。
インターネット上のアンケートでも紙によるアンケートでも、調査票の精度によって結果が大きく変わってしまいます。

この記事では、初めてでも精度の高いアンケートが作れるよう、調査設計の方法とポイントをステップごとにわかりやすく解説します。

そもそもアンケートとはなにか。市場調査とは?

アンケートの語源はフランス語の「enquête」。
これは、「調査・問い合わせ・探究」などの意味を持つ言葉です。
英語のリサーチ(research)とほとんど同じ意味を持っています。

ただし、日本における「アンケート」は主に定型の質問票を使った多数向けの調査(定量調査)として使われていて、インタビューや観察調査などの定性調査で用いられることはほとんどありません。
この記事でも、定型の質問票を使った多数向けの調査という意味で使います。

 

市場調査 定量調査と定性調査
※「定量調査」と「定性調査」の違いや、くわしく市場調査について知りたい方は、こちらの記事も合わせてご覧ください。 関連:市場調査とマーケティングリサーチの違いは「現状/将来の可能性」

精度の高いアンケートと低いアンケートの違い

アンケートの中には、精度が低いものもあります。
精度の低いアンケートを行ってしまうと正しい調査結果が得られず、知りたかったことが分からなかったり、間違った結論を導いてしまったりすることがあります。

では、精度の高いアンケートと、精度の低いアンケートとでは、どのような点が違うのでしょうか。
実際に例を見てみましょう。

精度が高いアンケートの例

精度が高いアンケートの例

精度の低いアンケートの例

精度が低いアンケートの例

一見すると、1と2は同じような作りに見えます。
2の「悪いアンケート」は、どういう点が悪いのでしょうか?

 

◆2のアンケートの悪い点

  • 設問がMECEでない( ex.購入する理由 : 初回購入、継続購入で分けられる )
  • 設問が定性的すぎる(設問の細分化 .定量化の不足)
  • 購入傾向をリサーチするための設問設計が不足している

一見よさそうな2のアンケートですが、細かく見ていくと、このような問題点が見えてきます。
このままでは、間違った回答が選ばれてしまったり、自由回答の解釈に困ったりしてしまう可能性があります。
一番よくあるのは、得られたアンケート結果を見ながら「で、これからどうすればいいんだっけ…?」と施策に悩んでしまうことです。

こんな失敗は、設計のポイントを守ればある程度避けることができます。

それでは、次に「精度の高いアンケート」作りの方法を見ていきましょう。

精度の高いアンケートを作る9つのステップとポイント

まずは、基本的な質問票づくりのステップを追いながら、アンケート作りのポイントをおさえていきましょう。

 

◆質問紙づくりの9つのステップ

  1. 集める情報の決定
  2. 質問紙のタイプと収集方法の決定
  3. 個々の質問項目の決定
  4. 各質問項目への回答形式の決定
  5. 質問項目のワーディング(言葉づかい)の決定
  6. 質問順序の決定
  7. 質問紙の形状や質問ボリュームなどの具体的特徴の決定
  8. 前段階までの再検討
  9. プリテスト
引用 『マーケティングリサーチ入門』高田博和、上田隆穂、奥瀬喜之、内田学

 

引用した文献では「質問紙」とありますが、この場合は「質問票」と同じ意味として考えて問題ありません。
厳密にこの手順が守られる必要はありませんが、最初は参考にすると良いでしょう。
次に、一つ一つのステップのポイントを見ていきましょう。

ステップ1.集める情報の決定

アンケートを作り始める前に、必ず整理しておいてほしいことがあります。

◆アンケート作成前に整理すべきこと

  • そもそも、なぜこの調査を行う必要があるのか
  • 現状のマーケティング課題はなんなのか
  • どんな答えを引き出したいのか
  • アンケート結果によりどんなアクションを起こしたいのか

つまり、調査の背景と課題の整理です。
これを踏まえずにアンケートを行うと、調査結果を前に「で、どうすればいいんだっけ?」と途方に暮れてしまい、結局問題の解決には役に立たなかったという事態になってしまうこともあります。
まずは、漠然となんとなくアンケートを作り始めないことが重要です。

アンケート調査の背景と課題整理を行うために、おすすめの方法があります。

 

◆アンケート前におすすめしたい課題整理の方法

  • 調べたいテーマの年表を整理する
  • ブレインストーミングで取り上げたい問題についての原因・要因を整理する
  • 「なぜ?」を繰り返しながら樹形図を書く

「なぜ売上が下がったのか?」の「なぜ」を深めていった樹形図の例 ※「なぜ売上が下がったのか?」の「なぜ」を深めていった樹形図の例

 

こういった手段で情報収集すると、網羅的・複眼的に整理できるのでおすすめです。
新たな気付きを得られることもありますし、場合によっては、調査テーマを絞り込むことやテーマを変更して再度情報収集を行わなければと気づくこともあります。

情報収集をしながら、調査テーマについて仮説を立てていきます。
たとえば、こんな仮説が立てられるかもしれません。

 

◆アンケートの仮説の例

「堅調だったブランドが最近低迷した理由は、他ブランドに比べてパッケージの色味が目立ちにくくなってきたからではないか?」
「他社製品では、500mlがラインナップされているが、実際はあまり選ばれていないのではないか」
「ライフスタイルの変化で、レストランやバーを利用する年齢層は高めになっているのではないか?」

このように背景・課題・目的をしっかりと定めておくことで、リサーチする範囲も同時に定まります。

ステップ2.質問紙のタイプと収集方法の決定

アンケートにはいくつも方法があります。

調査期間の短さ、費用の安さといったメリットからインターネット調査がよく使われています。ただし、扱いたいテーマによっては、CLT(セントラルロケーションテスト:会場を使った調査)など別の調査方法が適していることもあります。

調査手法を選ぶ際には、回答バイアスに注意しましょう。
例えばインターネット調査であれば、インターネット利用頻度の低い高齢者からの回答が得られくいというバイアス(偏り・先入観)がかかってしまいます。どんな回答者にリーチしたいのかを踏まえて調査手法を決めることが必要です。

※市場調査の方法については、こちらの記事に詳しく解説しました。 関連:マーケティングリサーチとは?基本用語と手法をわかりやすく解説

回答者の設定方法

アンケートの回答者は、どう考えればいいのでしょうか?
調査テーマによりますが、まずはこんな軸で切り分けてみると良いでしょう。

 

◆回答者の条件を考える視点

  • 属性情報(地域、性別、年齢、職業、未既婚、子供の有無、年収など)
  • 行動・態度履歴情報(商品/サービスに対する認知、利用、利用中止、非利用など)
  • 心理的情報(価値観、ライフスタイル、趣味嗜好など)

回答者の条件を絞るほどより仮説にフォーカスした深い示唆が得られるのでは?
と思うかもしれませんが、必ずしもそうではありません。
回答者の条件を絞り込みすぎると必要なサンプル数を確保できなかったり、ニッチすぎてマーケティング施策に落とし込めなかったりすることがあります。

むしろ、仮説を検証するために比較したい軸で比較できるように選定しておくことも必要です。

ステップ3.個々の質問項目の決定

アンケートで実際にどんな質問をするか決めましょう。
ステップ1で立てた仮説を基に、今度は仮説を設問に落とし込みます。

 

◆仮説と設問の例

  • 「堅調だったブランドが最近低迷した理由は、他ブランドに比べてパッケージの色味が目立ちにくくなってきたからではないか?」
    ーあなたは自社Aと競合Bどちらのパッケージデザインが好きですか
    ー(競合Bを選んだ人について)Aについて当てはまるものを選んでください。(デザインの色味が食欲をそそらない、記載されている文字が多すぎる、キャラクターが好みではない、など)
  • 「他社製品では、500mlがラインナップされているが、実際はあまり選ばれていないのではないか」
    ー食事時に500mlと250ml、どちらを選びますか
    ー外出時に500mlと250ml、どちらを選びますか
  • 「ライフスタイルの変化で、レストランやバーを利用する年齢層は高めになっているのではないか?」
    ーあなたは週に何回家で夕食を取りますか

    ー外食時はどこで食事をすることが多いですか

必要な分析やアクションにつながる情報はなるべく多く取得しておくべきなのですが、設問が多すぎると回答者の負担が大きくなり、良質な調査結果になりづらいです。

質問項目の設定では、回答者のプライバシーに十分に配慮しましょう。

 

◆質問項目で注意すべき回答者のプライバシーの例

  • 複数の質問を組み合わせると、個人が特定できてしまう

    例えば、「年齢・部署」を聞いても特定はできなくても、「階級」を聞いてしまうと特定出来てしまうなど。

 

  • 事前に許諾を得ずに、機微な個人情報を聴取する

    自宅住所の町丁目、大学名、会社名、年収、病歴・疾患などは、回答したくないと考える回答者が多い項目です。

 

  • 事前に許諾を得ずに、デジタルデバイスの行動履歴を取得する

    位置情報、WEBサイト閲覧履歴、メール・通話の発信履歴などは、取得されたくないと思っている回答者が多い項目です。

ステップ4.各質問項目への回答形式の決定

各質問項目に対して、どのように回答してもらうか決定します。
回答形式の種類はいくつかあります。

 

◆回答形式の種類

  • 単一回答(シングルアンサー、SA)
  • 複数回答(マルチプルアンサー、MA)
  • 自由回答(フリーアンサー、FA)
  • 制限付き回答(リミテッドアンサー、LA)
  • SD法
  • マトリクス(SA、MA、プルダウン+FAなど)
  • 5件法(7件法)

このとき、形式によっては回答者の負担が大きくなり、適当な回答や離脱が起きてしまうことがあるので注意が必要です。
特にスマホ回答者にとって、マトリクスや自由回答は負担が大きく離脱率が大きくなってしまうので扱いに注意が必要です。

マトリックス設問のイメージ

 

回答継続率のデータ

引用「インターネット調査品質 ガイドライン」

選択肢づくりでは「選択肢の中に回答者が選ぶべきものがない」もしくは「単一回答なのに複数あって選べない」といった状態をとにかく避けるようにしましょう。

 

◆選択肢作りのポイント

  • 選択肢が多すぎたり少なすぎたりしないようにする
  • 人によって違う解釈ができる表現をしない
  • 単一回答形式の場合、選択肢の内容がお互いに漏れなく・ダブリのない状態(MECE)にする
  • できるだけ数値化する
  • 長文にしない
  • 自分だけでなく他の人にも意見をもらい、幅広い選択肢を作る

選択肢にダミーの選択肢を入れることで、質問を読まずに適当に回答しているような質の悪い回答を発見できることもあります。

ステップ5.質問項目のワーディング(言葉づかい)の決定

質問は誤解がなく、わかりやすくするのが大原則です。

誤解のないように質問する

原則 悪い例 良い例
あいまいな聞き方をしない あなたはどの程度〇〇が好きですか
  • 総合的に考えて、あなたは〇〇をどの程度好きですか
  • あなたは〇〇のパッケージをどの程度好きですか
主語をいれる 〇〇をどのくらいの頻度で買っていますか
  • あなたは、〇〇をどのくらいの頻度で買っていますか
  • 家庭では、〇〇をどのくらいの頻度で買っていますか
いつのことを答えるのか明確にする あなたは最近〇〇を使いましたか
  • あなたは、これまでに〇〇を使ったことがありますか
  • あなたは、最近1年間に〇〇を使ったことがありますか
ダブルバーレルにならないようにする(ダブルバーレル:二重の意味が含まれて回答に迷うもの) なぜあなたは〇〇クリームを使うのですか※目的なのかきっかけなのかどちらともとれる
  • あなたが〇〇クリームを使う主な目的はなんですか
  • あなたはどのようなきっかけで〇〇クリームを使い始めたのですか
1つの設問に2つの内容を入れない あなたは〇〇のデザインやコストパフォーマンスについて、どの程度魅力を感じますか
  • あなたは〇〇のデザインにどの程度魅力を感じますか
  • あなたは〇〇のコストパフォーマンスにどの程度魅力を感じますか
1つの設問に、事実と意識を混同させない あなたはこの1ヶ月間に、使いやすい〇〇を買いましたか
  • あなたはこの1ヶ月間に〇〇を買いましたか
  • その〇〇は使いやすかったですか

 

 

回答者にわかりやすく質問する

原則 悪い例 良い例
平易な表現にする 貴方は普段どれだけデパートに足を運びますか あなたは普段どのくらいの頻度でデパートに行きますか
専門用語・業界用語・略語を使用しない 認知メーカーをすべてお答えください あなたが知っているメーカーをすべてお答えください
過度な敬語・謙譲語を使用しない お答えいただけますと幸いです 回答してください
なるべく質問文を短くする あなたは普段コワーキングスペースをどれくらいの頻度で利用しますか。もっとも近いものを選んでください。 あなたのコワーキングスペースの利用頻度
言葉の使い方や結びを統一する
  • あなたの所属を聞かせてください
  • 年齢は?
  • あなたの所属はどこですか
  • あなたの年齢はいくつですか
誤字脱字のないようにする あなたたの所属を教えてくだし あなたの所属を教えてください

 

 

その他

原則 悪い例 良い例
誘導的な質問にしない 最近流行っている〇〇について質問です 〇〇について質問です
回答しづらい質問をしない あなたはつい路上喫煙してしまうことがありますか 外で喫煙したいとき、あなたはどこで吸うことが多いですか
差別用語を使用しない - -

ステップ6.質問順序の決定

アンケートの質問順序によっては回答にバイアス(偏り・先入観)が生まれたり、答えにくくなったりしてしまうことがあります。
たとえば、選択肢によっていくつかブランド名を見せたあとに、自由回答で「好きなブランドは?」と質問すると、すでに見た選択肢の中から選ばれることが多いことが想像できます。

こういた順序バイアスや選択肢の位置バイアスを防ぐため、ランダマイズ・ローテーションといった仕組みを用いることもありますが、まずはこういった順番を意識すると良いでしょう。

 

◆アンケートでの質問順序の基本

  1. やさしい質問(一般的なこと、知っていること)
  2. 難しい質問(評価、予想、展望)
  3. 刺激を与える質問(仮説呈示、アイデア呈示)

回答しやすい順序にする

  • 過去→現在→未来
  • 実際の様子→いつもの様子(常態)
  • 具体的な質問→抽象的な質問
  • 答えやすい質問→答えにくい質問

ただし、質問の意図によっては、順番をあえて入れ替えることもよくあります。

質の良いアンケートにする工夫

回答負担や分析を見据えて、重要なものをアンケートの前半に持ってくるというテクニックもあります。

  • 重要な質問はできるだけ前半にする
  • 回答を求める対象者になるかどうかを確認する質問を先に聞く
  • 質問数が多いときは、優先度が高いものを先にする

ステップ7.質問紙の形状や質問ボリュームなどの具体的特徴の決定

アンケートでは、「あれもこれも」と多く聞きすぎないことが原則です。

インターネット調査では紙面の制限がないため質問数が多くなりがちですが、回答負荷をおさえて良質な回答を得るためには、質問数は20問以下・回答時間は5~10分以下に抑えるのが理想です。

 

こちらは、日本マーケティングリサーチ協会(JMRA)が公開している動画です。
最近の傾向を踏まえて、インターネット調査で気をつけるべきことがわかりやすくまとまっています。気になる方はチェックしてみてください。

もし回答負荷が大きい調査になってしまった場合は謝礼を増額する必要があるかもしれません。謝礼を増額できない場合は、回答負荷を抑制するのが理想的です。

回答所要時間はアンケートの冒頭に明記しておくと良いでしょう。

ステップ8.前段階までの再検討

一度これまでのステップ1~ステップ7までを再検討し、必要なら修正を加えます。

ステップ9.プリテスト

アンケートが出来上がったら、実際に回答者になった気持ちで回答してみましょう。自分だけでなく、信頼できる同僚や少人数への配信など、テストのための回答者を用意してアンケートを試すのが望ましいです。

実際に配信する前に、番号、回答方法の明記、入力用の指示(カラム)、飛び先指示(分岐)など、調査として必要な要素がきちんと入っているかどうかを確認しましょう。

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良質なアンケートを作成しても、良質な回答者/途中離脱の少ない回答者、条件を十分に満たすターゲットに偏りなく配信できなければ調査の質も下がってしまいます。

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※2021年1月現在

 参考文献
『マーケティングリサーチ入門』高田博和、上田隆穂、奥瀬喜之、内田学
『アンケートによる調査と仮想実験 顧客満足度の把握と向上』高橋武則・川﨑昌
『マーケティングリサーチとデータ分析の基本』中野崇
『デジタル時代の基礎知識 リサーチ 多彩なデータから顧客の「すべて」を知る新しいルール』石渡佑矢
『この1冊ですべてわかる マーケティング・リサーチの基本』岸川茂、JMRX

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