俳優になれば自分からは
出て来ない言葉を言える
それってどんな感覚なんだろうって
あ、夕見子ちゃんだ!
取材現場へやってきた彼女に思わずそう呼びかけてしまった。
「ありがとうございます。役名で呼んでもらえることが、すっごくうれしいことなんだって、最近はヒシヒシと感じているんです」
いまブレイク中の若手女優、福地桃子さん。〝夕見子〟はNHK連続テレビ小説『なつぞら』で彼女が演じている役。十勝を開拓した酪農家に生まれ、女性の自立を目指して北海道大学に進学、同級生と「男女平等の恋愛」を標榜し東京へ駆け落ちしたりもしたけれど、地元の農協に就職すると新しい酪農のあり方を模索、30歳を迎えた頃に幼なじみの雪次郎と結婚すると、〝ワーママ〟となり奮闘をする、そんな女性だ。ドラマの主役は、広瀬すずさんが演じるアニメーションの世界で女性クリエイターの道を〝開拓〟する奥原なつ。でも、なつと姉妹同然に育ったアナザーヒロイン柴田夕見子のキャリア〝開拓〟もすっごく気になるのだ。1960年代のウーマン・リブを象徴する存在だからかもしれない。
「何ごとにもストレートで強い意志があって。夕見子は私にはないものをいっぱい持っているので、演じれば演じるほど魅力的に思う部分がありますし、尊敬が深くなるんです。私自身は、夕見子のように弁は立たないし、そこまで強くもないと思います。共通点は少ないけれど、共感できないわけではない不思議な感覚。すごく近くにいる感じがするというか。実は、私の母が夕見子の性格にそっくり。母は夕見子の台詞にとても共感していました。ああ、母に似てるから親近感が湧くんだなあと(笑)。しかも母は北海道出身で祖父は北大卒。夕見子との縁を感じました」
2016年、18歳で本格的に女優デビュー。育った家庭環境ゆえ、演技の道へと進むことは子どもの頃からの夢……と思いきや、「まったく興味がなかった」そうだ。
「そもそも人前に立つということは得意な方ではありません。人見知りというよりも、緊張しい。だから、自分から何かを発信することから避けてきたのかもしれません。5人兄姉の一番下で、兄姉と過ごす時間がほとんどで、興味を持つきっかけも、影響を受けて教えてもらうことが多かったです。映画に連れて行ってもらったり、お家でDVDを一緒に観たり。そんなときに、ふと、自分から発信して、自分が出来る表現はなんなんだろうかと考えたとき、俳優さんたちのように、与えられた台詞を、人の言葉を借りるのであれば、自分からは出て来ない言葉を言えると思ったんです。それってどんな感覚だろう、他人を演じるってどんな気持ちだろうって」