新型コロナの感染拡大により、カミュの小説『ペスト』の売り上げが100万部を突破したという。確かに、感染症と人類の戦いの歴史からは、感染症を克服するヒントが多く含まれているはずだ。そんな中、池上彰さんと増田ユリヤさんが『感染症対人類の世界史』(ポプラ新書)を緊急出版した。これは「感染症と人類の戦いの歴史」を、紀元前からさかのぼり世界史的視点で語りつくした一冊だ。

電子書籍で緊急出版され、追いかけて紙の本も発売に

本書の緊急発売を受け、抜粋掲載にてお届けする第1弾は、新型コロナウイルスが最初に広がった「中国」にクローズアップして「感染症の世界史」をお届けする。

新型コロナが中国から
イタリアへ広がった経緯

池上 今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は全世界的に広がってしまいましたけれど、中国からパンデミックが広がった当初、イランとイタリアの感染者がとても多かったですよね。中国からウイルスが広がって、西へ西へとユーラシア大陸に広がっている。これは、シルクロードと関係があるのではないか、と思ったのですが。 

増田 確かにそうですけれど、今の時代、馬やラクダに乗って陸路を人が移動しているわけではないですからね。 

池上 それはそうだ(笑)。要は関係が深くて、人の行き来が多い国や地域に感染が広がっていくのだなと。人の交流が増えると、感染が広まる確率が上がりますよね。

増田 そういうことが今回、歴史を見ていくとよくわかります。 

池上 それで、これは現代版シルクロードと言われている「一帯一路」が関係しているのではないかと考えたんです。一帯一路は、2013年、中国の習近平国家主席が打ち出した、アジアとヨーロッパの経済交流を活発化させる構想です。 

 

増田 一帯一路には、陸路と海路があります。陸路の方が「一帯」、海路は「一路」です。陸路は一帯といっても、6本もあるんですよね。中国からヨーロッパまでは鉄道でつながっています。イタリアは、海路の「一路」でもつながっています。馬やラクダではなく、現代は鉄道や船でつながっているわけですね。 

「New Silk Road」建設計画は壮大な規模で進められた。写真は2016年、ヒマラヤ山脈を越え、アラブの砂漠に通じる道を建設しているパキスタン近辺のもの Photo by Getty Images

池上 鉄道の方は、海路より速いし、空路よりコストも抑えられるので、どんどん中国とヨーロッパの物流が盛んになって輸出入が増加しています。そこでイタリアは、海路の方でより緊密に中国との交易を増加させて、資本を呼び込もうとしたんです。その結果、2019年にG7で初めて、イタリアが一帯一路構想への参加を表明しました。それで政府はもちろん、民間の交流がかなり盛んになっていて、これまで以上に行き来する人が増えているんですよね。イタリアで働いている中国人も多くいるし、中国からイタリアへの投資もすごく増えています。

増田 だから中国は、自分の国で新型コロナウイルスの流行が収まってくると、イタリアに積極的な医療援助などを開始したと。中国はイタリアに恩を売っているんですね。 

現代のシルクロード「一帯一路」がウイルスを運んだ経路になった/『感染症対人類の世界史』より

池上 そうなんです。もちろんそれ以前から中国の経済状況がよくなったことで、中国から世界中に仕事や観光旅行で出かける人、留学生が増えたことが、行き来が多くなった理由の一つでもあります。また、イタリアは世界的な観光地ですから、元々世界中から人が来ている。だから中国からの観光客もきっと多かったはずです。とにかく、そういった交流が、ウイルスの広がり方に大きな関係があるのでしょう。