設立からわずか二十数年で、全国1000店舗を達成し、最近は世界でも話題になるほどだが、日本のカレー文化成熟の一翼を担ってきた、その功績は計り知れない。
今では故郷にもココイチは出店を果たし、どの町にも黄色い看板が見えるようになった。そして未だに週に一度はココイチで通常量のチーズカレーに舌鼓を打っている。
だが、何故なんだろう。あの日食べたチーズカレー以上の興奮であり、1300gカレー制覇に向け情熱を燃やしたあの日々の感激は失われてしまっている。
解決すべき問題は多いだろうが、筆者はどこかでもう一度、あの米壁に挑んでみたいと願っている。それはきっと僕だけのメモリーではない。あの興奮を知っているかつての挑戦者。そして、ばんばひろふみであればこう言ってくれるに決まっている。「イチサン白書をもう一度」と。
微笑みと却下
2015年の冬、ハウス食品がココイチを買収したことが発表された。元々資本関係があったとはいえ、国内1259店舗、売上高は過去最高の440億円を達成したばかりの優良企業が身売りされる衝撃。詳細はよくわからないが、創業者の宗次徳二氏が保有する22%の株をすべて売却するという話を聞いて、いいニュースであることだけは確信した。
というのも、宗次氏に一度インタビューしたことがあるのだが、この人の滅私奉公ぶりは超人か偉人レベル。本物はかくあるものかと心服したものだ。労働時間はイコールで人生と言っていいほどで、02年に引退してからも名古屋でコンサートホールを開設。音楽の普及などのボランティア活動を行っている。さらに現役時代から毎朝90分の掃除が日課で、今も栄の街で清掃員のおじさん然とした風貌でゴミを拾う現代の水戸黄門か暴れん坊将軍は、今回、株の売却資金もボランティア活動に充てるとか。
ちなみに、お会いしたドサクサで1300gカレー復活の直談判もしてみたのだが、菩薩のような微笑みと共に却下された。無念。