「特捜案件」となった富士バイオメディックス粉飾事件に見る犯罪の連鎖

SECが400人動員し強制調査

 昨年1月、証券取引等監視員会(証券監視委)が、400名近くを動員、強制調査した医療支援事業ベンチャー・富士バイオメディックス(富士バイオ)の調査が大詰めを迎えている。

 被疑者のひとりがいう。

「捜査は、証券監視委から東京地検特捜部の手に移りました。現在、五反田にある特捜部財政経済班に呼ばれて連日の事情聴取を受けています。逮捕は、鈴木晃元社長ら経営陣と外部協力者数名に的を絞ったとかで、『年度内には終わらせる』とのことです。証券監視委が告発、即、逮捕となるのでしょう」

 逮捕から起訴までに、通常、20日を要する。年度内に終わらせるということになると余裕を見て、2月下旬から3月初めがタイムリミットである。

 名古屋証券取引所セントレックスという新興市場に上場(08年10月、218億円の負債を抱え、民事再生法の適用を申請して倒産)していたベンチャー企業ではあるが、その決算に「粉飾アレンジャー」と呼ばれる面々が関与、「今日的話題」を満載した事件として注目を集めている。

 事件の構図について、私はこのコラムの昨年9月9日号で詳述した。

 雇われ社長の鈴木氏は、介護大手のメディカジャパン(ジャスダック)の関連会社で、同社元オーナーの神成裕氏、加ト吉創業者の加藤義和氏からの「上場しろ!」「株価を保て!」というプレッシャーを受け、相当に無理を重ねてきたのだという。

 それが、05年8月の上場前からの粉飾体質につながり、07年5月期には、バランスシート上に60億円以上の"穴"が生じていた。

 架空売り上げを計上していればそうなるのは当然だ。鈴木元社長や管理本部の役員は外部スタッフ(医療コンサルタントと元税理士。元税理士は後に管理本部副本部長に就任)の"進言"を入れ、協力会社を使って売り上げと利益を調整(粉飾)する一方で、二つの医療法人を66億円で買ったことにして、60億円を資産計上(粉飾)、"穴"を埋めた。

 この大胆な粉飾については、以前、ふれた通りである。

 証券監視委は、調査を進めるなかで、経営幹部の特別背任、横領、インサイダー取引といった疑惑も解明していた。最終的に、粉飾決算と、その架空の数字をもとにした08年2月の東邦薬品に対する48億円の第3者割当増資を、「偽計」の罪に問う方針だ。現在、捜査着手した特捜部と、最終的な詰めの作業を行っている。

 元社長と元管理本部長ら会社側と外部スタッフ数名が最終ターゲットとなっているようだが、興味深いのは富士バイオに連なる面々が、07年から08年に頻発した医療関連会社、医療法人、介護会社などの経済事件に連鎖していることだ。

 まず、富士バイオの親会社のメディカジャパンである。

 同社は、07年5月期、93億円の特別損失を出すなど経営を悪化させた。その原因となったのが、簿価157億円の病院向け営業債権を53億円でバイオベンチャーのアスクレピオスに売ったことだった。

 アスクレピオスは、丸紅の偽造書類を使って約1000億円を集め、約470億円が闇に消えたという摩訶不思議な経済事件を引き起こしており、08年6月、社長や丸紅の嘱託社員らが警視庁に逮捕されている。

 そんな会社に営業債権を売却したのも奇妙だが、メディカジャパンはアスクレピオスに売却する直前、同社の関連会社の社債約70億円を購入、半分の35億円を焦げ付かせている。

 しかもアスクレピオスに売却した債権は、神成氏が関係した病院。神成氏がオーナーのメディカジャパンが、やはり神成氏がオーナーの病院群に対して持つ巨額債権を、"筋悪"の企業に安く売り、しかも不可解なバーター取引までしているわけだ。神成氏が、メディカジャパンを消費者金融から身を起こした高橋洋二氏のユニマットグループに"身売り"しなければ、事件化する可能性もあった。

止まらない疑惑の連鎖

 疑惑の連鎖はさらに続く。

 富士バイオの外部スタッフに、企業再生コンサルタントがいた。先ほどの医療コンサルや元税理士とは別人で、幅広い人脈を持つこの人物は、富士バイオの粉飾に際し、協力会社を集め、バランスシート調整のための医療法人探しに協力した。

 この企業再生コンサル人脈の粉飾協力会社に、北海道の「ほけんサービス」という保険代理店がある。同社の近野祐伸社長は、偽造書類や偽造印を使って、伊藤忠ファイナンスなどからカネを騙し取ったとして警視庁に逮捕されている。

「伊藤忠の被害額は約10億6000万円。警視庁は10年9月、近野らを詐欺容疑で逮捕したのですが、犯罪はそれで終わらない。今年に入っても約3億円を大分の業者から騙し取ったとして再逮捕され、さらに大阪の業者からも詐取したとして再々逮捕が予定されています」(警視庁担当記者)

 近野被告が、偽造書類でせっせとカネを集めていたのは08年3月から末にかけて。伊藤忠ファイナンスのような大手まで引っかけるには、それなりの"仕掛け"が必要で、「富士バイオ人脈の信用」が、巧みに使われたのだという。

 連鎖はもっと続く。

 07年から08年にかけて富士バイオで親交を深めた外部スタッフは、08年8月、関西アーバン銀行からの要請を受けて、チャーミングスクウェア(CS)芦屋という高級老人ホームの再建を支援することになった。

 関西アーバン銀行は運営会社のゼクスに資金を融資しており、入居率が悪いCS芦屋をオフバランス化、ゼクスの8月期決算を良くするのが目的だった。

 詳細は省くが、特定目的会社を設立してのオフバランス化はできた。しかし、使途不明金が発生したことから、昨夏、名古屋地検特捜部が捜査着手しており、その被告訴人のなかに、富士バイオの外部スタッフがいる。

 それにしても、なぜこれほど絡み合っていくのか。事件関係者のひとりの解説がわかりやすい。

「成長産業のはずの医療業界が、診療報酬の削減と経営者の見通しの甘さによって二極化した。ダメなところが次々に淘汰、その過程でこんな事件が起きているんです。医療法人、介護会社、医療支援会社、老人ホーム・・・。まだまだ事件は起きますよ」

 振り込め詐欺もマルチ商法も未公開株も、騙されるのは老人だった。今後は余資ではなく生活基盤そのものが、未熟な経営者やそれを取り巻くハイエナのような連中によって奪われるかも知れない。
 

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