なぜ日本は「世界でただ一ヵ国」の異常な「主権喪失状態」になってしまったのか

『知ってはいけない2』

自衛隊の訓練空域は、すべて米軍との共同使用が可能

「そんなこと、あるはずないだろう」

という人は、次の日本の空の地図をご覧ください。

実はこの図のほとんどは自衛隊の訓練空域なのですが、急速に進む日米の軍事的一体化によって1971年以降、米軍は事実上すべての自衛隊の訓練空域を「自衛隊との間で調整して」演習に使えるようになっているのです。(*2)

つまり日本の「空」ではすでに、自衛隊の訓練空域は、すべて米軍との共同使用が可能になっているのです。

日本における米軍の権利拡大は、つねに住民の抵抗が少ない「空」から始まります。「空」で起きたことは、そのうち「地上」でも起きると考えておいて、まずまちがいはないのです。(*3)

なぜふたつの方程式は生まれたのか

ではなぜそのような、世界でただ一ヵ国だけの異常な主権喪失状態が、敗戦からすでに70年以上たった日本で、いまだにつづいているのでしょう。

実はその最大の原因こそ、『知ってはいけない2』第二章で説明した下のふたつの方程式にあるのです。

「討議の記録・2項A&C」+「基地権密約」 =「基地の自由使用」
「討議の記録・2項B&D」+「朝鮮戦争・自由出撃密約」=「他国への自由攻撃」

このモザイク状の方程式は、なぜ生みだされる必要があったのか。

そもそもなぜ、「討議の記録」に書かれていた4つの密約条項(ABCD)の内容を、「A&C」「B&D」とたすき掛けの形で分割したような、独立したふたつの密約文書(「基地権密約」文書と「朝鮮戦争・自由出撃密約」文書)を新たにつくる必要があったのか。

藤山とマッカーサーが1960年1月6日にサインしたこの3つの密約文書のうち、「討議の記録」はその後、まちがいなく外務省北米局(アメリカ局)の金庫の奥深くに隠され、1968年以降は「東郷メモ」と一体となるかたちで、外務省のなかでもほんのひと握りの超エリート官僚しか知らない「密教の経典」となっていきました。

しかしその一方で、そこから切り出された「基地権密約」文書と「朝鮮戦争・自由出撃密約」文書は、すぐに「別の場所」へと運ばれ、そこで「金庫の中の経典」のまるで分身のようにして、現実世界で猛烈な活動を開始することになったのです(その姿は私に、伝説上の陰陽師が操る「人形」の動きを連想させます)。

その「別の場所」こそ、米軍の論理が日本の官僚や政治家たちを支配する「究極の密
室」——
日米合同委員会と日米安保協議委員会だったのです。

さらに連載記事〈なぜ日本だけが「まともな主権国家」になれないのか…アメリカとの「3つの密約」に隠された戦後日本の「最後の謎」〉では、日本が「主権国家」になれない「戦後日本」という国の本当の姿について解説しています。

本記事の抜粋元『知ってはいけない2 日本の主権はこうして失われた』では、かつて占領下で結ばれた、きわめて不平等な旧安保条約を対等な関係に変えたはずの「安保改定」(1960年)が、なぜ日本の主権をさらに奪いとっていくことになったのか?「アメリカによる支配」はなぜつづくのか?原因となった岸首相がアメリカと結んだ3つの密約について詳しく解説しています。ぜひ、お手に取ってみてください。

(*2)1987年8月27日の参議院・内閣委員会での渡辺允・外務大臣官房審議官の説明。
「射撃等を伴わない形でのいわゆる戦技の訓練を行うというような場合には、昭和46年8月の航空交通安全緊急対策要綱というものがございますけれども、そこに定められております自衛隊の訓練空域を米空軍と航空自衛隊との間で調整をしながら、米空軍はそれを利用して訓練を行っておるということでございます」

(*3)防衛省が出している「防衛白書」にも、「我が国の防衛の基本方針」のなかに「米軍・自衛隊の施設・区域の共同使 用の拡大を引き続き推進する」と明記されています(平成29年版)。また2018年の10月3日に発表された、いわゆる「第4次アーミテージ・ナイレポート」( 世紀における日米同盟の刷新)でも、自衛隊と在日米軍の基地の共同使用が提案されています

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