好評の『カラー図説 生命の大進化40億年史 古生代編』から、古生物をめぐる歴史について、とくにここ十数年で得られた新たな知見に注目して、見ていくシリーズ。前回〈「カンブリア爆発」は無かった!?「U字型」の化石からわかった「驚くべき事実」〉に続いて、後編をお届けします。
アノマロカリスは節足動物ではなかった!?
カンブリア紀といえば、その代表的な生物の1つがアノマロカリスである。
1892年に記載された当時は触手部分の化石だけ知られていた。論文を発表したカナダ地質調査所のヨセフ・F・ファイティーブスは、長さ9~10センチメートルのその化石を「触手」とは判断せず、エビに似た生物と判断した。そのため、ギリシア語で「奇妙な」を意味するanomoiosとラテン語で「エビ」を意味するcarisを組み合わせて、「奇妙なエビ」として「アノマロカリス Anomalocaris」と名づけたのである。
その後、さまざまな追加標本が発見され、分析も進み、1990年代にはその"基本形"が発表された。このとき、アノマロカリス・カナデンシスの全長は1メートルにも達したとされた。全長10センチメートルほどの生物が多かったカンブリア紀の海洋世界においては、破格の巨体である。
読者のみなさんの多くがイメージする「カンブリア紀最強の捕食者」アノマロカリスは、このときの復元がもとになっている。多数のひれをひらひらと動かし、大きな2本の触手で獲物をとらえる。そういった復元CGアニメーションをご覧になった人も多いだろう。
じつは、アノマロカリス・カナデンシスの完璧な標本は発見されていない。どこかしら欠けた標本ばかりで、発表された基本形も、そういった標本を組み合わせて推測されたものだ。1メートルというサイズも推測に過ぎない。
アノマロカリス・カナデンシスの標本を所蔵するロイヤル・オンタリオ博物館のウェブサイトには、全長を1メートルと明記しながらも、「最良の標本のサイズは25センチメートル」と注記されている。もっとも、仮に25センチメートルとしても、カンブリア紀の海洋生態系では「大型」であることにはかわりはない。