四季の移ろいの中で、自然が恵んでくれる食物に向き合い、美味しいご飯を作って、誰かと一緒に食べられることに感謝する日々を送る男の姿を描いた映画『土を喰らう十二ヵ月』。大ヒット公開中の本作は、主人公・ツトムを沢田研二さん、そして作家であるツトムの担当編集者で、年の離れた恋人でもある真知子を松たか子さんが演じる。また、劇中に登場する料理を監修したのは料理研究家の土井善晴さん。日本の四季、食文化の魅力だけでなく、丁寧な生き方とは、真の豊かさとは何かを問いかける作品でもある。

インタビュー前編【松たか子「本当の沢田研二さんは分からないまま…過ごした時間は夢のよう」】では、沢田研二さんとの共演エピソードをはじめ、歌舞伎という伝統芸能の家系に育った松さんの食にまつわる思い出やこだわりを伺った。後編では、松さんが悩みや困難に直面したときのお話や豊かに生きる秘訣、そしてもうすぐ終わろうとしている2022年を振り返りつつ、2023年への思いも聞かせてもらった。

前編【松たか子「本当の沢田研二さんは分からないまま…過ごした時間は夢のよう」】こちら▶︎

 

土井善晴先生のおかげで出会えたもの

食べることが大好きという松さん。映画では、料理を美味しそうに、幸せそうにほおばる姿が印象的だが、シンプルな料理をただ美味しそうにいただいてみせる、というのはとても難しそうに感じる。演じるうえで何か意識していたのだろうか。

「意識できないぐらい、料理がガッときてガッと食べる、という流れだったんですよ。でも本当に、どの一皿もすごく美味しくて。たけのこの煮物をいただくシーンがあるのですが、それがけっこう熱くて(笑)。本当は日本食のマナーとして、料理を口に運ぶとき手をお皿のように添えるのってよくないんですよね。でも、そのたけのこや焼いた小芋が本当に熱々で、咄嗟に手を添えてしまって。そこに関しては、無意識に出ちゃうものはしょうがないから『まぁいっか』と思っていました(笑)。それくらい美味しい料理ばかりだったので、私は食べるシーンでは何も無理しなくて良かった感じです」

劇中に登場するたけのこの煮物。(C) 2022『土を喰らう十二ヵ月』製作委員会

実は松さん、この撮影中に密かに情報を持ち帰り、毎日の食卓で常食しているものがあるという。

「撮影中は、土井さんがすべての料理の監修・指導をしてくださっていたんです。それで準備をされている間、私はボーッと待っていたんですけど、そこに土井さんの持ってこられたお味噌が置いてあって。『これ、絶対に美味しいに決まっている』と思ったんですけど、土井さんに聞く勇気がなくて、アシスタントの方にこっそり聞いてもらったんですよ。それ以来、ずっとその味噌を使っています。とても優しい味で、他のものを買ってみてもすぐそのお味噌に戻る。毎日使うものほど、そうやってさりげなく美味しいものだと、ちょっと嬉しくなりますよね」